エメラルドグリーンの未来へ!
▶【オルさんと元の世界に帰る】
わたしは、すぐには答えを出すことができなかった。
でも、日増しに「帰りたい」っていう思いが募っていって、それを言い出すことができなくて……隠れてコッソリ泣いてしまった。オルさんをこの国から引き離すことに踏ん切りがつかなくて。
オルさんは、そんなわたしの気持ちに気がついて、わたしを抱きしめて言ってくれた。
「アスナの世界へ帰ろう。……俺を、連れて行ってくれ」
「でも……!」
「言ったろ? アスナの側にいるって。それに、アスナの世界に行くの、面白そうだと思ってたんだよな」
「……いいの?」
「ああ。親父も賛成してくれたんだぜ? だから、行こう」
「……ありがとう!」
マフィンさんが、オルさんを送り出してもいいって思ってくれていて、しかもそれをオルさん自身に伝えていたなんて……驚いたけど、嬉しかった。
それからは、旅立つための準備に忙しくなった。
ジャムや学園の皆、それからギースレイヴンの王子さまにも知らせて、お別れを言って。
そしてとうとう、帰る日がやってきた。
わたしは久しぶりの制服にドキドキしながら袖を通した。
オルさんは鎧を脱いで、向こうの世界でも通用しそうな格好になってもらっている。麻の白シャツに薄ベージュの夏用ジャケット、ジャケットと同色のスラックス、マロン色の革靴……。ジャムからの餞別でもらった、赤い絹の飾りハンカチが差し色になっててカッコイイ。
「その剣、ホントに持っていくの?」
「ああ。これはさすがに手放せない。それに、親父が持って行けって」
「う〜ん。銃刀法違反で捕まらなきゃいいけど……」
「ジュウトウホウイハン?」
「う〜〜〜〜ん」
まぁ、お巡りさんに見つかる前に隠そう!
そうしよう!
手鏡を使って、時の精霊、キョウにコンタクトする。話しかければ、いつでも帰してくれるって、そう言っていた。その言葉通りに、キョウの言葉が聞こえてきた。
『とうとう帰る日が来たんだね。大丈夫、もう準備はできてるよ。目眩がするかもしれないから、目を閉じてた方がいいかもね』
キョウの言葉に、わたしはオルさんにギュッと抱きついた。オルさんもわたしを支えてくれる。わたしたちの足元に、銀河を小さくしたような渦巻きができた。
『それじゃあね。元気で……!』
「ありがとう、キョウ!」
「しまっ……! アスナ!」
「えっ、何? きゃあっ!?」
『あれっ、アスナ? アスナー?』
オルさんの剣が光りだしたかと思うと、わたしたちは渦の中に引っ張りこまれた。これってもしかして、アクシデント!?
オルさんの手を離さないように、しっかり握って、わたしの体を支えてくれるオルさんの腕を感じていた。そして、気がついたとき、わたしたちは何人かの男の人たちに囲まれていた!
「フィン!? いや、そんなまさか……」
「日本語!? っていうか、マフィンさんのこと知ってるの?」
「きみ、日本語わかるのかい?」
日本人だもの!
それより、ここドコ? 明らかに白人なオジサマ、貴方は誰?
「ここかい、ここはカイロだよ」
「カイロ!? それってエジプトー!」
「正解!」
正解! じゃ、な〜〜〜い!
「@$%*◎?」
「こっちは言葉が通じなーい!」
「こ、これは『精霊殺し』!」
「待って、勝手に話を進めないでっ!?」
こっちの言葉が使えないオルさんの代わりに、わたしが日本語堪能なオジサマたちから話を聞いた。それによると、オルさんは約三十年前にいなくなってしまったオジサマの友だちの子どもによく似ているんだって。
もちろん、それはオルさんのお父さんであるマフィンさんのことだった。そのときにマフィンさんは『精霊殺し』って呼ばれてる霊体を斬ることのできる剣を持って行っちゃってたんだって。
その剣はコーマ家にとってはとても大切な大切な剣だったの。家宝なのかな? ちなみに、何で日本語が扱えるかって言うと、コーマさん家は日本のお宅だから。で、このオジサマも日本人パートナーと仕事をしているゴーストハンターだからなんだって。
……ここ、本当にわたしのいた世界なの?
「よし、彼の戸籍は我々が用意しよう。きみのことも日本に送ってあげる」
「み、密入国……。でも、どうしてそこまでしてくれるんです?」
「こんなにフィンによく似ていて、しかも『精霊殺し』まで持ってるんだ、親族なのは間違いないからね。コネっていうのはこういう時に使うのさ」
オジサマはそう言って笑う。オルさんもニカッと笑ってたけど、わたしはあんまり笑えない……。まずは学校に電話して欠席連絡入れて、遅くなりすぎたときのために、のりちゃんたちにアリバイ作り頼まなくっちゃ! 飛行機で何時間かかるかなっ!?
「アスナ、&&*%$」
「オルさん……」
きっと、今までは聞き取れていたハズの、異世界の言葉がわたしの耳に不思議に響く。名前を呼ぶ、その音だけは変わらなくて……。
甘い口づけを重ねるけど、わたしたち、まだ結婚はできないってオルさんちゃんと理解してくれてるかなぁ? 一度、向こうでは話したけど、言葉が通じなくなっちゃったから確かめられないや。
「オルさんのこと、なんて説明したらいいかな……。お父さんたち、認めてくれたらいいけど」
「*%#@@!」
「うん……。大丈夫だよね。きっと。上手くいく……!」
改めて日本を目指しながら、わたしたちは何度もキスを繰り返した。言葉はわからなくたって、気持ちは通じる。そう、オルさんのこのエメラルドグリーンに輝く瞳を覗きこめば。
だってそれは、わたしたちの未来の色だから!
現実世界ハッピーエンド!
『エメラルドグリーンの未来へ!』




