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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
201/280

時の精霊、キョウ

 次の日は、キャンディやチョコ、キャラメルと一緒に久しぶりに授業を受けた。放課後は蜂蜜くんも巻き込んで女子会。いつの間にか人数が集まっちゃって、ちょっとしたパーティー状態になっちゃった。


 その次の日は朝からギースレイヴンへ。

 この前と同じく、オルさんの運転で海を渡る。といっても今回はふたりきりじゃないの。わたしたちのカップから少し離れるようにして、お城の人がついてきていた。


 ギースレイヴンの海岸に近づくとおまんじゅうちゃんが顔を出して挨拶してくれた。

 あの暴れっぷりが嘘みたいに、今はおとなしくてかわいいドラゴンなんだよね。船に乗るの流行りだしたら、きっと人気者になると思うなぁ。


 ギースレイヴンの旧王都でも、わたしたちはスムーズに迎え入れられた。お城には前よりも人がたくさんいるように見える。王子さまやアイスくん以外にも大臣ぽいオジサンたちが次々に名乗り出て、難しい話が始まってしまった。


「コレ、わたしも参加しなきゃいけないやつ?」

「まぁまぁ。今は挨拶だけで、すぐに休憩に入るから。そしたら昼飯だし、その後アスナは自由時間だよ」


 オルさんにコソッと聞くと、そんな答えが帰ってきた。実際にその通りになって、わたしはお昼ごはんのために着替えさせられた。


 そして、いざお昼ごはんってところで、オルさんとふたり王子さまに呼び出されたのだった。ごはん〜!


「ふたりとも、暴れ海竜のこと、本当にご苦労だった。改めて礼を言う」


 王子さまはニッコリ笑ってそう言った。

 オルさんとは握手をしている。すっかり打ち解けていて、オルさんも王子さまも、最初のときみたいに回りくどい喋り方はもうしていない。


「それと、シャリアディースの魔力を持ってきてくれたとか? さっそく見ても構わないか?」

「もちろん。これが本当にギースレイヴンから奪った魔力かはわからない、でも、きっと貴方に渡すのが正しいと俺は思う」


 マナの実に似た、ソフトバレーボールみたいな虹色の珠。王子さまが驚いた顔でそれに手を伸ばして受け取ると、珠は何だか生き物みたいに模様を変えた。


「これは……すごい魔力だ。きっとこれがあれば、ここの荒れた土地も持ち直す。……本当に、ありがとう」

「早く良くなるといいよね、この土地。空気は、工場とか機関車の煙を何とかできれば、もっと快適なのになって思うけど」

「…………」

「あれ? わたし、何か変なこと言った?」

「いや……。何でもない」


 何でもないことないよね?

 王子さま、完全に固まってたよね、今。


「それよりも、だ。一応、こっちからも報告だ。アスナが気にしていた奴隷たちだが、少しずつ解放している」

「えっ、すごい! ちょっと嬉しいカモ!」

「それと、近隣の国との繋ぎも取っておいてやった。とはいえ、そちらは外交のノウハウもないだろう、しばらくは交換留学で互いのことをよく知らなければならないな」

「ありがたい! 楽しみだなぁ」


 王子さまの言葉に、今度はオルさんが嬉しそうに頷いた。






 そしてその夜、わたしとオルさんは、アイスくんに連れられて時の精霊に会いに行くことになった。闇の精霊、マカロンさんの力を借りて。


 初めて会った時の精霊は、なんとわたしと同じ顔で同じ服を着ていて、声までわたしとソックリだった。驚くわたしを後ろに庇って、オルさんはあの剣を抜いた。


「何だお前は!」

『あははっ! そんなに怒らないでよぉ〜。私は時の精霊、キョウ。ワケあってアスナの姿を借りているんだよ。カロンたちから話は聞いてる、実際に会ってみて確信が持てたよ、アスナはちゃんと元の世界に帰れるよ』

「ホント!? よ、よかった……」

『魔力は充分だもの。あとは、ここに来たときに持ってた荷物と、帰りたい場所の記憶が必要なくらい。荷物さえあればすぐにだって帰してあげられるよ。そこの彼氏も一緒にね』

「!」


 オルさんがハッと息を飲んだのがわかった。


「オルさん……」

「待ってくれ。キョウ、って言ったか? アスナは今、元の世界に帰るための荷物を持ってない、今回は帰れるかどうかを確かめに来ただけなんだ。それで聞きたいんだが、帰るための条件って、他にはないのか? 例えば、時間とか、日付とか」

『ないね。荷物と帰る意思さえあればいい。最悪、ここに来なくたって、私が渡すアイテムさえあれば望んだときに帰ることもできるよ』

「そうか……」


 オルさんは『精霊殺し』を鞘に仕舞って、キョウに向かって頭を下げた。


「威圧的な行動を取って、すまなかった。アスナのために、どうか力を貸してください」

『いいのいいの、気にしないで。疑われるようなことをした私も悪かったんだよ。アスナもゴメンね、嫌な気分にさせちゃったよね』

「わたしは別に……気にしてないけど」

『本当? よかった! ほら、お兄さんも頭上げて、頭! それで、いつ帰るの?』


 キョウの言葉がわたしに刺さる。

 いつ……。


「あの……ごめんなさい。まだ、決めてないの」

『そうなの? でもまぁ、これで帰れることがわかってよかったね〜』

「うん……」

『じゃあ、サックリ未練を断ち切って、これからどうするのか決めておいで。それから、コレも渡しておくね。この手鏡で私と連絡ができるからね!』

「キョウさん、ホントにありがとう」

『ううん。いいのいいの。帰るときも、帰らないときも、連絡ちょうだいね。カロンやルキックも何も言わないけど、私たち皆、アスナに感謝してるんだよ〜』

「え?」


 キョウがギュッと抱きついてきて、わたしにささやく。

 感謝って? なんで?


『アスナはさ、もっと怒ってもいい立場だったのに、傷ついた大地に対して同情してくれたよね。早く良くなってねって、魔力の塊もくれたよね。アスナはその価値を知ってたかどうかわかんないけど、あれって、人間の社会から考えたら国ひとつ買えちゃうくらい価値があるんだよ?』

「えっ、そうなの?」

『そうだよ。だって、いっさい副作用のない純粋なパワーの塊だもん。魔法が使いたい放題に使えて、何でも出来ちゃうんだよ? それをさ、大地を癒やす目的を持った王子さまにちゃんと届けてくれたんだもん』

「あれは、オルさんのアイデアだよ……。わたしじゃないよ」

「俺は、アスナが王子に約束してなかったら、渡すつもりなかったぞ」

「えっ! そうなの?」


 オルさんの言葉にビックリする。


「一応、ジルヴェストの魔工機械は動くようになってたけど、前みたいに贅沢できるほどの魔力はないんだよな。あの魔力の珠をほしがる大臣はたくさんいたと思うなぁ」

「そ、そうだったんだ……」


 キョウがわたしの手を取って、大きく上下に振る。


『だ〜か〜ら〜ね〜〜! アスナには大大大感謝なんだよ? アスナのお願い、叶えてあげる。だから、ちゃんと自分の気持ちを確かめてきて。それで、自分の道を選ぶんだよ!』


 キョウはニッコリ笑って言った。


『それがアスナのためなんだから。アスナが喜んでくれることが、彼の幸せでもあるんだから!』


 オルさんの……幸せ……。

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