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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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幕間 その2

 クリエムハルトの命により、アイスシュークはまたしてもジルヴェスト国へ赴くことになった。こちらの世界に渡ってきてすぐの、無防備な“精霊の巫女”ことアスナの確保は失敗に終わってしまった。それはつまり、ジルヴェスト国の宰相の地位に納まっているシャリアディースの庇護下に入ってしまったということだ。それを無理やりに引き剥がすのは得策ではない。そうなると、巫女自らの意思で結界の外に出てくるのを待つか、それとも魔法的な繋がりを強くしてシャリアディースから主導権を奪い取るしかない。


 いずれにせよ、アスナと接触しなければならないわけだった。ところが、ジルヴェストへの密入国は簡単にはいかない。シャリアディースの張った結界は強固で、破ることはおろかわずかな綻びを作って忍び込むことも出来はしないのだ。アイスシュークが結界を越えられるのは、ひとえに彼に力を貸してくれる精霊がいるからだった。


 世界の始まりには闇があり、そして光が生まれたという。その表裏一体の精霊が彼にはついているのだ。精霊の世界からジルヴェストへ移動するため、結界を無視できる。とはいえ、とうに天然資源に見放されたギースレイヴン国のこと、光の精霊ルキック・キークと闇の精霊グルニムエマ・カロンの加護がなければ太陽の光さえ差さないこの国は急激に生産力を落とす。これこそ、アイスシュークが長時間ギースレイヴンを離れられない理由なのだった。


 界渡りの準備を整えたグルニムエマ・カロンは、無表情のままアイスシュークに声をかけた。その姿は真っ黒な髪の毛に、変わった形の真っ黒なベストを身に着けた小さな男の子だ。その隣には猫のようにイタズラっぽい目をした金色の髪の毛に同じく金色のベストを身に着けた同じ年頃の男の子がいる。光の精霊、ルキック・キークだ。


「アイスシューク、準備ができた。さあ、目的の娘のことを頭に思い浮かべるのだ」

「う、ううう、うん、わかってるよ……」

「強く、鮮明に思い描け。その方が移動の精度が上がる」

「うん……」


 アイスシュークは赤くなった。そわそわと指を組んだり離したりして、アスナの姿を思い浮かべる。一緒にいた時間は短かったというのに、アイスシュークにはその顔も、背格好も、そしてその声すらはっきりと思い出せるのだ。


「アスナさん……」

「だって、慣れてるもんね、アイス。毎晩、その女の子のこと考えてるもん!」

「ぶっ!!」

「よさないか、ルキック・キーク。そういうことを正面から言うものじゃない、アイスシュークも年頃なんだ、わかってやれ」

「は~い。ごめんね、アイス~。じゃあ、ほら、続けちゃって? あれ、アイス?」

「うわぁぁぁあああああ!」


 哀れ、三歳児ほどにしか見えない二人に、目の前で初恋に悩める思春期の男心を取りざたされるとは! しかもこれまでの自分の考えが筒抜けになっていたことを今になって知り、羞恥心が刺激される、アイスシュークは地面をごろごろと転がって、涙交じりの叫び声を上げることになるのだった。


 そんなひと悶着がありつつも、アイスシュークは無事にジルヴェストへ入ることが出来た。未だアスナとの絆は薄いせいで結構離れた場所に出てしまった。だが、アスナがここにいるだろうことは、目の前の建物から想像できる。なぜなら、そこは世界でひとつしかない上流階級専門の花嫁養成学校だったからだ。


「あ、あ、アスナさんが、花嫁に……?」


 その瞬間、アイスシュークの脳裏に浮かんでいたのは、荘厳な鐘の音とパイプオルガンの奏でるウェディング・マーチ。そして純白のドレスに身を包み、ヴェールの向こう側からにっこりと自分に微笑みかけてくるアスナの幻影だった。


「ねぇ、カロン。アイス、またどこか行っちゃってるよ?」

「そっとしておいてあげなさい」


 うっとりした少年は、二人の言葉すら耳に入らないようだった。だが、それもほんの僅かな間のこと。アイスシュークは目的を思い出した。そもそも、幻想の中のアスナよりも現実のアスナに会いたいに決まっている。正面からは学校には入れない、ならば、中の生徒と話ができるような場所を探しに行くまでのことだった。


 この学校は常時千人以上の生徒や講師を抱えている。そのため、講堂や実習室なども広く、校舎はかなり大きい。敷地内には部活動のための体育館やプール、その他球技コートや走行スポーツのためのトラック、離れた場所には寮も有しているため、外周を回って誰かと接触できそうな場所を探すのは骨が折れそうだ。それでも、やるしかないのである。ルキック・キークやグルニムエマ・カロンも姿を消して飛び回り、アスナを探すことにした。


「任せて、アイス!」

「お前のおかげで人相はしっかり覚えた」

「…………ううっ」

「泣かないで~」

「ほら、行くぞルキック・キーク」


 絶妙に生傷を抉ってくる二人だが、そこに悪意がないことはアイスシュークも分かっている。だからこそ何とも言えず苦しいのだが。そんなわけでアイスシュークはひとり、フラフラと寮のある方向へと歩いていった。そちらの方は柵の外が林になっており、見つかりにくいからだ。


「はぁ……。まさかこんな場所にいるだなんて。これじゃあ、もしアスナさんを見つけられたとしても会えないかもしれない……」


 溜息と共に愚痴を吐き出すアイスシューク。その丸まった背中に声がかけられる。


「ふぅん、アスナさんを探しているんですね、君」

「うん、そうなん…………っ!?」

「お久しぶりです~」

「あ! わわっ!」


 アイスシュークは木の根っこにつまずいて転んでしまった。その様子を呆れたように見下ろしているのは、ミッチェン・ガードナーだ。


「大丈夫ですか~?」

「あ、お、女の子だったの!?」

「まさか。このボクが女に見えるとでも?」

「えええっ!?」


 突如として膨らむ殺気。

 だがしかし、マリエ・プティの制服に身を包んだミッチェンはどこからどう見ても可憐な美少女である。アイスシュークは何故自分が怒られているのか理解できなかった。


「残念ですけど、アスナさんならついさっき出かけましたよ。今日は城に顔見せに行く日だったので」

「そんな……」


 あと一歩のところで再会を逃したアイスシュークだった。

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