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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
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帰ってからのこと 2

 どのくらい経ったのか、オルさんを睨みつけていたマフィンさんは、スッと肩から力を抜いてコクリと頷いた。


「お前の意志の強さを知りたかった。……そうやって、嫌なことは嫌だと言えばいい。言っていいんだ」

「親父……」


 マフィンさんはフッと笑うと、行ってしまった。わたしはなんとなく、その背中に頭を下げる。思ったより、わからずやじゃなかった……。今までのことも、もしかしてオルさんが「嫌だ」って言うことがあれば、強制はしなかった、のかも?


「あとは、陛下にも同じように言わなくちゃな」

「その必要はないぞ、オールィド」

「陛下!」

「ジャム!」


 マフィンさんと入れ替わりになるように、生垣の向こうからジャムが現れた。その手には何か、掌に収まるサイズの箱みたいなものを持っている。


「これのおかげで、フィンとの会話はぜんぶ聞こえてた。オレのいない間に、ふたりの仲はずいぶん進んだようだ……あ、勘違いするなよ、オレは怒ってるわけじゃない。だから謝るな」


 口を開きかけたオルさんを止めるように、ジャムは片手をスッと胸の前まで上げて言った。


「アスナが、好きな男がいるからオレの婚約者にはなれないと言ったとき、実を言うと少し悔しかったんだ。婚約うんぬんは、こちらが勝手に決めたことだったとはいえ、アスナに一番近いのはオレだと思ってたからな」

「ジャム……」

「けど、相手がオールィドだとわかって安心した。オルにならアスナを任せられる。これから先、ふたりがどんな選択をしても、オレはふたりの味方だぞ」

「陛下……ありがとうございます!」


 オルさんが深々と頭を下げる。わたしもした方がいいのかなって思ったけど、その前に笑顔のジャムに手で止められた。


「アスナ、オールィドと恋人関係になることで、これまで以上に色々言ってくる連中がいるかもしれないが、できれば無視してくれ。ふたりは国に残ってもいいし、国を出ていっても構わない。そこまで含めて、オレはふたりを応援するんだからな。忘れるなよ」

「えっ、でも……オルさんはジャムの騎士なのに……」


 オルさんを見ると、オルさんも驚いたように目を見開いていた。ジャムは頷いて言った。


「たとえこの地を離れることになっても、オルはオレの騎士だよ。近衛じゃなくたって、オレがこの城で信頼できる騎士のひとりであるようにな」

「……ありがとうございます」

「五年前、右も左もわからないまま即位して不安だった頃、オルの言葉が支えになったんだ。感謝してるのはオレの方だぞ!」


 ジャムがオルさんの胸を叩く。

 でも、鎧のせいで「あいててて!」ってなっちゃって、逆にオルさんに心配されていた。


 なんか、いいな。

 男同士の友情ってさ。


 あのときのオルさんの気持ち、ちゃんとジャムにも届いてたんだ。





 そこから仕切り直してお茶会をすることになった。

 バラのジャムをたっぷりつけたスコーンが美味しい。


 でも、そこへジャムが爆弾を落としてきた。


「ところで、アスナはこれからどこに住むんだ? オールィドの家か?」

「へ?」


 お、おおお、オルさんの家に住むって!?

 それって同棲!? まだ早すぎるんじゃない!?


 慌てるわたしに、ジャムは呆れた顔になる。


「まさか、考えてなかったのか? あの学園は結婚の予定がある女子しか通えないんだ、アスナがオレの婚約者候補を下りるなら、当然あそこは出ていかなきゃならなくなる。あ、もちろん、オールィドと結婚するつもりなら、そのまま学園にいていいぞ」

「しまった〜〜! そうだった!」


 マリエ・プティは花嫁養成学校だったんだ〜〜〜!


「そうか……俺も忘れてた」

「忘れるなよ」

「ははは、すみません。ずっと宿舎住まいだったから、アスナが来るなら実家も片付けなきゃならないな。あ、そういえば親父も帰ってくるつもりかも」

「……いきなり恋人の父親と同居はツラくないか?」

「ん〜、じゃあどこかに小さい部屋でも借りるかなぁ」


 待って!

 一気に話を進めないで!


 情報が頭に入ってこないよ〜〜〜!


「ねぇ、待って! わたし、あの寮を出なくちゃいけないの? いつ? それに、まだ何も決めてないのにいきなり同居とか同棲とか、そんなこと言われても困るよ……」

「そうは言ったって、資格がない人間は学園にはいられないからなぁ。それとも、オールィドと結婚することに決めるか?」

「そ、それは……」

「まぁ、今この場で決めなくてもいい。ただ、そのへんは話し合ってすぐに決めておけよ。あ、そうそう、キャンディスも出ていく予定なんだが、退寮までにそれなりの猶予はくれるみたいだぞ」

「えっ、キャンディ、出てっちゃうの? 初耳なんだけど!」


 キャンディのお相手は、一応はジャムってことになってるけど、実際にはお互い恋愛感情は抱いてないんだよね。ってことは、キャンディも婚約者候補を下りるってこと?


「キャンディ、誰か好きなひとができたとか……」

「いや……オレと結婚は無理だから、自分で生きていく道を見つけたいってさ。そもそも婚約者候補も周囲からの圧力で引き受けたものだったしな。進路が決まったから、もう寄り道はしないってさ」

「そう……」


 キャンディがいなくなった後の学園は、きっと寂しくなるだろうけど、キャンディが決めたことだもん、皆応援してくれるハズだよね。


「キャンディのお別れ会、しなくちゃね。……っていうか、そっか、ならわたしのお別れ会も同じタイミングでしちゃった方がいいのか……」

「ん? やっぱりやめるのか、学園」

「いや、だって、今すぐ結婚について考えられないし……。まだ、元の世界のこともあるし……」


 でも、学園をやめたらわたし、居場所が……。

 いきなりオルさんとふたり暮らしか、それともマフィンさんと同居して三人暮らしか……え、選ぶに選べない……。


「よし、決めた!」


 うつむくわたしと対照的に、オルさんは朗らかに笑う。


「アスナ、旅行しようぜ」

「え……?」

「このままだと、俺の実家の庭でキャンプしながら家の中を片付けるか、それともどこかに部屋を借りて片付けるかのどっちかになるんだ。だから、例の、シャリアディースの忘れていった珠をギースレイヴンに届けてる間に、業者に掃除してもらおうと思うんだ」

「あ、そっか、あれを届ける約束してたね」

「ギースレイヴンにはアイスシュークがいるし、ちょうどいいだろ? ほら、帰り道のヒント、時の精霊様のことも聞かなきゃならないんだし」

「あ! そうそう、そうだった。聞こう、聞こうと思いながら、あれからどの精霊にも会えてないんだった」


 なんだ、わたし、やることいっぱいあるじゃん!


「旅の間に一度、ゆっくり考えようぜ。アスナのことも、俺のことも」

「オルさん……」

「じゃあ、決まりだな。ふたりがギースレイヴンに行くなら、届けてもらいたい書簡もあるし、出発は明日以降にしてくれ」

「はい。俺も仕事を調整して、向こうにも連絡をしなくちゃならないので、明日以降になるのは間違いないです」

「うん、わかった。じゃあ、アスナを学園まで送ってやってくれないか。そろそろ、帰りたい頃だろう。そうだよな?」

「いいの?」

「ああ。うるさいのが来る前に抜け出しておけ」

「ありがとう、ジャム!」


 やった、久しぶりに、寮に帰れる!

 窮屈なドレスともお別れだ〜!

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