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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
195/280

本日、2話目の更新になります。

順番にお気をつけください。


▶【聞く】


 わたしは……。

 オルさんの気持ちが、聞きたい。


「オルさん、ねぇ、ひとつ聞かせて。わたしのこと、どう、思ってる?」

「え?」


 オルさんは、予想外の質問をされたせいか、驚いた顔をしていた。

 その反応すら、今のわたしの心には痛い……。


 わたしはツラい気持ちに負けずに続けた。


「わたしは、オルさんのことが好き」

「アスナ」

「もちろん、お兄さんとしてじゃないよ? ひとりの男性として、オルさんのことが好きなの! オルさんはどう? 少しでも、わたしのこと、好き……?」

「アスナ……」

「わたしたち、そういう雰囲気になったこと、あったよね? それも、一度じゃないよね。ねぇ、それもわたしの勘違い? あのとき、ホントは、どんな気持ちだったの?」

「…………」

「答えてよ! オルさん!」


 わたしは流れる涙もそのままに、オルさんをじっと見つめていた。オルさんの言葉ひとつ、表情の変化ひとつ、見逃さないように。


 オルさんは苦しそうな顔で、わたしから視線を逸してどこか足元を眺めている。

 こっちを見てもくれないその態度に、わたしは、やっぱり迷惑だったのかと心が沈んだ。


「もう、いいよ……。さよなら」

「アスナ、俺は……! アスナを大切に思う気持ちに、今も変わりはない。俺だってアスナが好きだ!」


 クルリと背を向けて歩き出したわたしの背中に、オルさんの言葉が突き刺さる。「好きだ」と、それだけでわたしの胸は甘く痛む。でも、その「好き」はどんな「好き」なの?


 足は留めても振り向かないわたしに、オルさんは続けた。


「けど、俺はアスナに相応しくない。アスナがいるべき場所は、陛下の隣なんだ」

「どうして!」


 わたしは思わず振り返って叫んでいた。エメラルドグリーンの瞳が、わたしをじっと見つめている。視線を逸らしたのは、今度は、わたしの方だった……。


「どうしてよ……。ジャムは、わたしに無理強いなんてしない……好きにしていいって、言ってくれてたのに……。一緒に、逃げてくれるって言ったのは、嘘だったの? わたしがホントに嫌なら、逃げてくれるって、言ったじゃない! 俺を頼れ、って、言ったじゃん…………」


 どうしてそのオルさんが、他の皆みたいに、わたしにジャムの隣に立てって、結婚しろって言うの…………。


「あのときと今とじゃ、状況が違う。あの頃はまだ、アスナはただの婚約者候補だった。けど、ギースレイヴンに渡って、向こうの王族と親交を結んで……氷の城から陛下を助け出して……アスナはもう、このジルヴェストの中心まで来てしまったんだ」

「ナニソレ……意味わかんない……」

「国民全員が、アスナに期待してるんだ。陛下の横に立って、陛下を支えてほしいって。アスナは、この国を照らす光だ。俺たちの、王妃となる人物なんだ、って」

「嫌よ!」


 冗談じゃない!

 勝手に期待しないで! 勝手に祭り上げないで!


 わたしはわたし、自分のことは自分で決める!


「どうしてそんなこと言うの? やめてよ! 勝手に決めないで! わたしは、わたしが好きなのは、オルさんだもん! ジャムのことは仕方がなかったのよ! だって、見捨てられないもん、そうでしょ? それに、助けてほしいって言ったのは、オルさんじゃない! オルさんの、頼みだから、わたしは…………こんなことになるなんて、思ってなかった……」


 こんなことになるなら、わたし、戻ってこなかったよ……。


「嫌だよ……わたし……! 王妃になんてなりたくない! 結婚なんかしない! ……逃げてよ。一緒に逃げてよ! さっき、そう言ってくれたよね? 別の場所で、ふたりで、やり直そうよ…………オルさん!」

「アスナ……」

「わたし、ちゃんと言うこと聞いたじゃない……。ジャムのこと、助けたじゃない! だから、だから今度は、わたしを……」

「ダメだ」

「!」


 心に、氷の棘が、刺さった気がした……。


「え……?」

「そういう意味でなら、一緒には行けない。アスナを元の世界に送り返すってことなら、喜んで協力する。けど、この世界に留まるつもりなら、俺はアスナとは行けない」

「どう……して……」

「言ったろ? この国の民、全員が、アスナを王妃に迎えたがってるって。それには俺も含まれてる。俺も、アスナに王妃になってほしい」

「わ、わたしより、国が大事なの!?」


 オルさんは、その場でわたしに向かって跪いた。

 胸に手を当てて、騎士の礼で。


 やめて……やめてよ……。

 そんなの、まるで…………それが、答えみたいじゃない!


 わたしの気持ち、知ってるクセに!

 

「アスナ、貴女に忠誠を」

「やめて……」

「貴女は、俺が命をかけて守ろう。俺は貴女の命令で生き、貴女の命令で死のう。どうか、この俺を、貴女の側に」

「やめて……!」

「俺の愛しい、妃殿下……」

「!」


 悲鳴にすら、ならなかった。

 わたしは泣きながら、走って逃げ出した。


 バラ園を通り抜けて、城の中庭まで。開っぱなしのバルコニーの窓から、中へと駆け込む。そんなわたしを見て、城の使用人たちは急いで道を開けた。


「ジャム!」

「アスナ……?」


 飛び込んだジャムの執務室には、ジャムの他にも何人かがいて仕事をしていた。わたしはそれに構わず、机のそばに立っていたジャムに向かって、大股で歩いていった。


「いったいどうし……!」


 ジャムを壁に向かって突き飛ばして、わたしは無理やりキスをした。少し高いジャムの唇めがけて。噛みつくように。歯と歯がぶつかって痛い。二度目のキスは、血の味がした。


「っ! アスナ、どうしたんだ? ちょっとおかしいぞ」


 心配そうに見下ろしてくる青い瞳……。

 でも、それは今、わたしが一番憎たらしいものだった。


 わたしはジャムを睨みつけた。


「抱いて」

「……なに?」

「抱いてよ。今すぐ! できないの? できないんだったら、わたし、ここから出ていくから!」


 わたしが本気だとわかったのか、ジャムは見たことないような厳しい顔をした。澄んだロイヤルブルーに暗く陰が落ちる。


「……オレは、何があったかなんて尋ねない。抱けと言うなら抱くが、その代わり、途中で泣いて嫌がってもやめないからな」

「それでいい! もう……いいから……めちゃくちゃにして……!」


 ジャムの唇が降り注ぐ雨のようにわたしの瞼や、頬や、首筋に落ちてくる。ジャムのシャツを握りしめていた手をゆっくりほどかれて、わたしは、乱暴に物が払いのけられた机に押し倒された。


「愛してる、アスナ。必ず、オレが幸せにしてやる」

「うん。わたしも、ジャムがわたしを愛してくれてる間は、ジャムだけを愛するよ……」

「アスナ……!」


 何もかも、ぜんぶ、めちゃくちゃになってしまえばいいと思った。

 酷くしてと頼んだのに、触れてくるジャムのすべてが優しくて、わたしは泣き出してしまった。


 すべてを投げ出して、バラバラの欠片になったわたしの心を拾い集めてくれたのも、ジャムだった。


 ゆっくりと。何年も、時間をかけて。






失恋エンド『憂い顔の王妃』

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