やっと見つけた!
わたしとオルさんは、海に浮かぶ氷のお城をそろって見上げていた。
遠くから見ていたときも思ったけど、これ、かなり大きい。まるでビルみたい。
お城は流氷の上に建っていて、わたしたちのカップはその氷の上に着地した。おまんじゅうちゃんは、わたしたちがここまで来たのを見届けたからか、『きゅう!』っとひと声鳴いて、水に潜って行ってしまった。
「あ、行っちゃったぁ」
「やっぱり、案内役だったんだな、アイツ」
「でも、誰が? やっぱりシャリさん?
「……わからない」
とにかく今は行ってみるしかない。見上げたお城は昔見たアニメの巨人の城に似ていた。
氷でできた分厚い両開きの扉を開けて入るようになっている。わたしはオルさんを見た。
「どうしよう。ノックしてみる? ほら、あの輪っか、ノッカーでしょ?」
「いや、危ないかもしれないから、下がっててくれ」
オルさんは剣を抜いて両手で構えた。
「扉はな、こうやって開けるんだ」
「きゃっ」
オルさんは一度足で扉を押すと、今度は少し下がって肩から扉に突っ込んでいった。ゴツン、と重い音が響く。氷の扉が割れちゃうんじゃないかと思ったけど、そんなことはなくて、真ん中からパッカーンと開いて中にはいることができた。
それにしても、すごい勢いだったなぁ。
オルさん、大丈夫かな。
「何だ、ここ……」
「うわぁ!」
中に入ってビックリする。お城だと思ってたものは、お城じゃなかった。
天井までまるっきり吹き抜けで、何も置いてない空間。広さテニスコートが三つ余裕で入るくらいの直径かな? それよりもう少し大きいかもしれない。
真正面の壁には、この建物と同じくらいの大きさの女神像みたいなものが嵌め込みになっていた。ただ、首の部分には部屋の床があって、顔が見えないようになっている。そう、この吹き抜けの塔には一番上に部屋がある。
でも、そこへ行き着くためには、壁にくっついている階段を上るしかない! 千段、もしかしたら二千段はあるかもしれないのに!
「誰かー!」
オルさんが口許に手を当てて叫ぶ。
「誰かいないかー? 陛下ー!」
「いないのかな」
「とりあえず上まで行こう。アスナ、大丈夫か?」
「う……。がんばる」
「よし!」
階段を上るのって、重労働だよね。
最初のうちは良かったんだけど、五十段を過ぎたあたりから「マズイな」って思って、百段超える頃には苦しくなってきた。
「大丈夫か、アスナ」
「だ、大丈夫〜」
「よし、ちょっと手伝おう。いいか、体に魔力を行き渡らせるんだ。それで少し楽になるぞ」
「えっ? わっ!」
オルさんはいきなりわたしをお姫さま抱っこした。
ひぇ〜ん、高い〜!
「お、オルさん、大丈夫だから……」
「いいからいいから」
オルさんはわたしを抱えたまま、どんどん階段を上っていった。しかも何段か飛ばしてる。信じられないスピード。
結局、「ちょっと」って言いながら、残りの全段、オルさんはわたしを抱えて上りきってしまった。
「ふぅ、いい汗かいたぜ!」
「もう。……ありがと」
わたしは取り出したハンカチでオルさんの額に吹き出た汗を拭いてあげた。すごい爽やかな笑顔だけど、疲れてないのかなぁ。
さて。ついにやってきた最上段だけど、そこには誰もいなかった。壁に嵌ってた女神像は、顔だけこの部屋にある。目を閉じていてよくわからないけど、睫毛や眉までしっかり作り込んであってすごい。まるで本物みたいでビックリする。
部屋の中にはなぜか、スポーツ選手が怪我を治すときに使う酸素カプセルみたいなものがふたつあった。それぞれ台の上に置いてあって、その中間にもカプセルが。そしてそれはふたつの酸素カプセルに繋がっていた。
「何だろうな、コレ……」
「ちょっ、お、オルさん、危ないかもしれないよ!」
「けど、見てみない内は判断できないだろ」
そう言って、オルさんは部屋の中へ足を踏み入れた。わたしもそれに続く。カプセルの中身も気になるけど、こんな生活感のない場所に、本当にジャムやシャリさんがいるのかなぁ?
「陛下っ!?」
「えっ、ジャム? どこ?」
オルさんの大声に、わたしは思わず振り返っていた。でも、そこには誰もいない。オルさんの方へ向き直ると、オルさんは何と、カプセルに話しかけていた。
えっ、まさかその中なの!?
わたしも慌ててカプセルを覗く。するとそこには、確かにジャムが寝かされていた。
「陛下! 陛下!」
「お、オルさん、叩かない方が……」
オルさんはジャムの目を覚まそうと、カプセルを叩いているけどビクともしない。カプセルの脇についている、いくつか並んだボタンが関係してるんじゃないかと思う。
下手に触ると良くない、そんな気がする。
ふと、ジャムの横のカプセルに視線が行った。何か思ってのことじゃなかったけど。でも、その中を見てギョッとする。
「やだっ! ジャムがふたりいるっ!」
「えっ?」
わたしの声に、オルさんも振り向いた。
カプセルの中には、確かに、ジャムによく似た男の子が眠っている。この子は、誰?
オルさんがジャムのカプセルに手を置きながら言う。
「こっちが、俺の陛下だ。服に見覚えがあるし、それに、俺は間違わない」
「わたしもそう思う。こっちの子は、何か違う気がして……」
「じゃあ、誰なんだ? 陛下にソックリの子がいたとして、ジルヴェストじゃどうやったって隠しきれないぞ?」
「そうだよね。じゃあ、他所から拐ってきた、とか?」
そのとき、わたしたちの後ろから高笑いが聞こえた。
「はっはっはっはっは、まさかそんなことを本気で思っているわけではあるまい? その子はオースティアンだよ。どちらも、私の大切な友人だ」
「貴様、シャリアディース!」
突然現れた、いつもの胡散臭いアイツ。その嫌味っぽい声を聞いて、オルさんの怒りが燃え上がった。




