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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
191/280

おまんじゅう海竜?

 すごい悲鳴を上げた海竜は、頭を反らせて空に向かって吼えた。

 それから、全身をくねらせて震えた。苦しんでる。


 かわいそう。

 これで逃げてくれればいいけど……。


「アスナ、見ろ、コイツ様子が変だぞ」


 オルさんがわたしを振り返らずに言う。

 様子が変って、そりゃ尻尾を切り落とされちゃったら痛いよ。


 そう思ったけど、よく見たら、確かになんだかおかしい。

 海竜の見た目がどんどん透き通っていって、トゲがなくなって、見た目がつるつるになっていく。


「なにこれ……」

「さあな。でも、殺気が消えた。たぶんだが、コイツはもう襲ってこないんじゃないか?」

「えっ」


 そうだったらいいなぁ。

 わたしたちが見守ってる中で、ゴツゴツでトゲトゲだった灰色の暴れ海竜は、つるんとした薄い水色の首の長い恐竜になっちゃった。目は真ん丸で、口はへにょんとしてる。


「かわいい~!」

『ぴきゅ~』


 鳴き声までかわいい!

 つるつるぷにぷになった海竜は、わたしたちを見ると嬉しそうな声を上げた。


「見て、オルさん。あの子、こっち見て笑ったよ~。おいで~!」

「お、おい、アスナ……」

「大丈夫だよ。だって、もう何もしてこないんでしょう? ほら、静かに泳いでるよ」

「そりゃそうだけど……」


 オルさんはまだ剣を持ったまま困り顔だ。


「ほらほら、剣をしまって。怖がらせちゃう!」

「う~ん」


 オルさんは渋い顔をしたけど、結局は剣をしまってくれた。元々は、オルさんが「襲ってこないかも」って言い出したんだもんね。


「ありがと、オルさん」

「うん。ところであの海竜、急に変わったよな。やっぱ、尻尾の先っぽを切り落としたことが原因か?」

「そうかもね。あのハンマーっぽい部分、なんか黒ずんでたし。もしかして、そのせいで暴れてたのかも……」

「それじゃ、これって丸く収まったってことでいいのか?」

『きゅ~~!』


 わたしの代わりに海竜が返事をした。これにはオルさんも苦笑い。

 でも、これで海の脅威もなくなって、海竜も死ななくて本当によかった。


 それにしても、この海竜、何かに似てるような……。


「あっ!」

「どうした、アスナ」

「この子、すっごく……水まんじゅうに似てる!」

「なんだ、その、ミズマンジュウって?」

「わたしの世界のお菓子。柔らかくって、つるつるで、夏になると食べたくなるの。中に甘い餡子が入ってるんだよ~」

「アンコ?」


 オルさんはさらに首をひねった。

 う~ん、餡子の説明は長くなるから、また今度ね。


『ぴっきゅ、ぴきゅきゅ~』

「あれ、どうしたのかな? オルさん、この子、何か言ってる」

「そうだな。……俺たちをどこかに連れて行きたいのか?」

「えっ、オルさんわかるの?」

「いや、なんとなく。おい、マンジュウ、向こうに行けばいいのか?」

『きゅ~~!』

「はは、来いってさ」

「すご~い!」


 暴れ海竜改めおまんじゅうちゃんは、オルさんの言葉にウンウン頷いていた。

 ここからなら、すぐにジルヴェストに戻れるけど……。


「アスナ、コイツについて行ってみようぜ」

「それは、わたしだってそうしたいけど……いいのかな」

「だって、この機会を逃すと、もう会えないかもしれないぜ? それに、コイツが本当にシャリアディース様のものなら、帰る場所はきっと……」

「シャリさんのとこ! じゃあ、そこにはジャムも?」

「ああ、たぶんな」

 

 おまんじゅうちゃんは「早く早く」って言ってるみたいに、ちょっと進んだところからわたしたちを何度も振り返っている。行くならきっと、今しかないんだ。


「行こう、オルさん! きっとその方がいいよ」

「ああ、行こう!」

『きゅっきゅ~~!』





 ふたりと一匹で青い海を進んでいく。風は気持ちいいし、お天気も良くてトラブルなし!

 キラキラしてる波の合間にお魚が跳ねてたり、鳥たちが鳴いてたり、気分は晴れやかだ。


「アスナ、魔力のほうはどんな感じだ?」

「まだまだ満タンにはほど遠いから平気だよ」

「そりゃよかった。……もし、行きついた先に陛下がいるとして、アスナ、カップで待っててくれないか?」

「!」


 言い出しにくそうにしながら、オルさんはわたしにそう提案してきた。この先にジャムがいたとして、わたしたちの「帰ろう」っていう誘いに乗ってくれるとは限らない。


 もしくは、ジャムが帰るのをシャリさんが邪魔するかもしれない、水の精霊シャーベットさんが邪魔するかもしれない。


 だからと言って諦める理由にはならないから、もしかしたら、戦いになるかもしれない。お父さんであるマフィンさんに「シャリアディースを斬れ」と命令されたオルさんは、もしかしてそれを実行するつもりなの……?


 オルさんの持つ剣は「精霊殺し」、精霊を引き寄せるっていう効果があって、もしかしたらシャリさんもあの剣には逆らえないかもしれない。


 発見された手記にあったように、アイツの目的が良からぬことなら、ジャムにひどいことをするようなら、オルさんはシャリアディースを斬り捨てちゃうつもりなの? 本当にそれでいいの?


「わたしも、一緒に行く!」

「アスナ……」

「嫌だよ。わたしも連れて行って」

「けど……」

「お願い」


 オルさんは少しの間、黙って難しい顔をしていた。

 わたしはただ、じっとオルさんから目を逸らさずに待つ。


「わかった……、一緒に行こう」

「ありがとう!」


 心から納得してくれたワケじゃないと思うけど、オルさんはわたしが一緒に行くことを許してくれた。


『ぴっきゅ!』


 おまんじゅうちゃんが鳴く。

 遠くに、キラッと光るものが見えた。


「オルさん、アレ! もしかして!」

「ああ。氷の城だ」


 ジャムのいるかもしれない、氷の城がもうすぐそこに見えていた。

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