いざ、海竜戦
ひとまず、暴れ海竜を倒す、ってことは決定事項になった。
作戦はこう。
まずその1、わたしがカップにめいっぱい魔力をこめる。
その2、操縦はオルさんがする。
その3、透明な防御膜は取り払っちゃうから、振り落とされないように気をつける。
その4、オルさんが剣で倒す!
「よくよく考えてみたんだけど、これ、作戦じゃないよね?」
「そうか? これ以上ないくらい、シンプルで良く出来た作戦たと思うけどなぁ」
シンプルっていうか、こういうの、「作戦なんかない!」って状態じゃない?
「明日の朝早くに出発するから、今日はしっかり寝ておくんだぞ」
「はぁい」
「それじゃ、ホテルに戻ろう。アスナが振り落とされないように、ベルトがつけられないか試してみる」
「うん、ありがとう!」
ホテルの部屋は、オルさんと共同で使うようになってる。お茶したりできるような、椅子とテーブルがある部屋と、トイレと一緒になってるお風呂場と、ふたり分のベッドルーム。
オルさんに言われたとおり、ちゃんと鍵をかけて部屋に戻る。着慣れないドレスやヒールで疲れちゃった! なんだか眠いし、夕飯まで寝てようかなぁ。
横になっていて、気がつくとオルさんが夕飯に 呼びに来てくれていた。わたし、寝ちゃってたんだ。
その夜はホテルで食事をして、少し散歩して、すぐにベッドに入った。
そして朝、予定通りジルヴェストから伝書機が飛んできた。さっそく録音されていたエクレア先生の声を聞く。録音時間は短いから、前置きはナシ。
『シャリアディース殿の目的がわかりました。恐ろしいことに、彼は、千年前の王子を蘇らせようとしているようです。そして、そのために陛下を誘拐したと思われます。彼の行き先はおそらく、誰にも邪魔されない海の果て……そこにある氷の城だと思われます』
「氷の城?」
「やっぱ海か!」
『詳しい場所は明らかになっていません。海に危険生物がいるのもわかりましたし、それを排除するため、また陛下の捜索のために行動したいところですが、ヴィークルを動かすための魔力が足りないのです。無茶は承知ですが、どうにかして一度、海竜の目を掻い潜って戻ってこられないでしょうか?』
「おう、今から倒しに行くぜ!」
「オルさん、これ録音だから」
『くれぐれも無茶はしないように。アスナさんも一緒なのですから、海竜を退治しようなんて絶対に、絶対にやめてくださいね。こちらからは以上です』
わたしたちは顔を見合わせた。
どうしよう。「やめて」って言われちゃった。
「あ〜、とにかく、ジルヴェストに帰るためにも海は通るんだし、俺たちがやろうとしてることも間違いじゃない。よな?」
「わりとアウトな気もするけど、先生の言ってることも無茶だから、どっちもどっちと思う」
「よし、だったら、決めた。倒せそうなら倒すし、逃げるときにはジルヴェストに向けて逃げる」
「オッケー。わたしはオルさんの邪魔にならないように、しっかり掴まってるね!」
「……ありがとうな、アスナ」
「わっぷ!」
う〜ん、またしても髪の毛をクシャクシャにされちゃった!
ホテルの受付で待機してた執事さんに挨拶して、女王さまへの御礼の言葉を伝える。そして来た道を戻って、旧王都に。途中の町でお昼ごはんを食べて、王子さまのお城へは寄らずにすぐに海へ。
「出てこないなぁ〜」
「そうだね〜。今日は来ないのかも」
「いや、絶対に来る。いつ真下から飛び出してくるかわかんないから、油断するなよ」
えっ、怖い。
やだやだ、そんなこと言われたら本当に来そうじゃん!
そんなとき、ザバァッとものすごい音がして、冷たい水の粒が降りかかってきた。何かミストみたいな。ううん、違うコレ、暴れ海竜!
「きゃああああっ!」
まさかの真下じゃなくて真後ろから現れた!
オルさんはすかさずカップを回転させる。でも待って、シートベルトって言うけど、これ車のみたいに肩掛け型じゃなくて本当に腰だけ一本で留めるヤツなんだよっ!
わたしは慌てて中央の水晶珠が嵌ってる台にしがみついた。
「よし、来い!」
来いじゃないよ、オルさ〜〜ん!
何か楽しそうじゃない? 気のせい?
オルさんはカップの座席の部分に立って、暴れ海竜の相手をしている。カップを操作するのに、両手は必要ないみたい。むしろ、近未来映画に出てくるようなホバーボードを操るノリで、足で操作してるように見える。
改めて近くで見る恐竜……海竜は、灰色っぽいゴツゴツした肌のトカゲみたいな顔をしていて、首がとても長かった。たてがみの代わりにトゲを生やしてて、それを突き刺そうとするみたいに首をひねりながら体当りしてくる。
「ぬるい!」
何が!?
オルさんはヒョイヒョイ避けながら、逆に海竜に剣でダメージを与えていく。わたしは横からGがかかってグロッキーだし、海竜が怒って吼えるから、耳が痛い。
大口を開けて咬みつこうとする海竜の攻撃も、体当たりも、尻尾も、オルさんはぜんぶ華麗に避けていく。ううん、避けられなかったときは、わたしたちが吹っ飛ばされるときなんだもん、食らうわけにはいかないんだ。
だって、立ちあがって剣を振るうためにカップの透明な防御膜を取り払っちゃってるんだもん。
もしも攻撃が当たったら、シートベルトしてるわたしはともかく、オルさんは海へ投げ出されちゃう。あんな鎧着て泳げるわけない……!
(オルさん……!)
暴れ海竜が逃げるなら、逃げてくれたっていい。
とにかくオルさんの無事を祈った。
海竜がギャオギャオ鳴きながら、尻尾を振り上げる。
黒くて、ハンマーみたいに膨らんだ尻尾。あんなの振り回されたら、わたしたち、死んじゃう!
「はあっ!」
「っ!」
オルさんの剣がすごい速さで何度か振るわれた。
ハンマーみたいな尻尾の先っぽが、ブツンと切れて落ちる。
『ピギーーーー!!!!』
海竜は今までにないくらいものすごい声で、大きく吼えた。




