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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
189/280

進むべき方向

 戻るべきか進むべきか。

 そんな大事なこと、すぐには決められない。悩むわたしにオルさんは言った。


「ジルヴェストは今、風の膜が消えちまって、ちょっとした騒ぎになってる」

「えっ! どうしちゃったんだろ……」

「それはわかんないな。でも、朝イチの返信で、ギースレイヴンはすぐには攻めてこないってことを伝えておいたから、そこまで混乱はしないだろうさ」

「そっか。伝書機があってよかった!」

「ああ。あと、何かの手掛かりになればいいなって言ってた、ギズヴァイン先生のじいちゃんの手記も見つかったって。だから、それを解読してもらわなきゃいけないんだ」

「エクレア先生のお祖父ちゃんの手記! よかった、見つかったんだね」

「ああ。手こずってるってさ」

「あ~。じゃあ、わたしたちがいても、やっぱり力にはなれなかったね~」

「だな!」


 わたしたち、キッパリハッキリ頭脳労働苦手だもんね!


「ここから先、どこへ行けばいいのかもまだ決まってないし、戻ったっていいんだぜ? 明日の朝にはまた、先王陛下から指示が届くかもしれないけど、俺はアスナがどうしたいかのほうが大事だと思ってる」

「それって、それで、いいの?」

「ああ。それはもう、伝えてある。俺は命令されれば従うだけだけど、アスナにはそんな義務ないだろ? それに、俺たちの陛下がアスナに「自由にしていい」って言ったのを、先王陛下が覆すのは間違ってる。それは絶対に許さない」

「オルさん……」


 エメラルドの瞳が、燃えているように光ってる。

 わたしの心臓は鼓動を早め始めた。


 オルさんが、わたしのために……。

 ジャムのお嫁さんにさせられそうになってたときも、嫌なら逃げていい、頼ってくれていいって、言ってくれたよね。


 あのときオルさんは、この世界に独り落っことされちゃったわたしの境遇が「似てるから」って言ってた。それが、お父さんが旅に出てしまって、他に家族もなく取り残されたジャムを思って言ったのか、それともオルさん自身のことだったのかはわからない。


 わからないけどわたしは、不安で寂しかった気持ちを、その当時のオルさんに重ねたんだ……。


「もし、ジャムのお父さんが……もう諦めて帰って来いって言ったら、どうする?」

「無視する。あのひとは、俺の陛下じゃない」

「じゃあ、わたしがジルヴェストに帰りたくないって言ってて、ジャムのお父さんが無理やり帰らせようとしたら?」

「俺がアスナを守る。ジルヴェストには帰さない」

「追手が来ても?」

「ああ。追手が来ても。たとえ相手が親父でも、俺はアスナの自由を守る」

「……どうして、そこまでしてくれるの?」


 心臓がドキドキしすぎて、涙が出そう。

 今のわたしは、あのときとは別の答えを期待してしまってる。あのときより、もっと、オルさんの特別になりたいと思ってる……。


 オルさんは、ちょっと言葉に詰まって、後ろ頭をガシガシと掻いた。

 そしてわたしを真っ直ぐ見て言った。


「大事だからだ。それじゃ、ダメか? 俺はアスナのことを大切に思ってる、アスナを守りたい。……他人の勝手な都合に振り回されて、それでも誰かのために行動してるアスナのこと、尊敬するよ。だから、アスナの気持ちを尊重するし、望みを叶えてやりたいんだ」

「……ありがとう。すごく、嬉しい」


 胸がじんわり熱くなる。

 劇的でロマンティックな答えじゃなかったけど、そのくらいの距離感の方がしっくりくる気がする。


「オルさんて、わたしのお兄ちゃんみたい。って言っても、わたし、ひとりっ子だけど」

「俺も、アスナが妹だったら良かったなって思う。そしたらきっと、毎日楽しいだろうなぁ」

「ふふっ、そう? でも、口うるさいかもよ?」

「構わないさ。そういうのも、いいじゃん」

「あはは。じゃあ、さっそくお兄ちゃんって呼んでみちゃおうかな」


 なんて、冗談半分、本気に取られてもいいかなくらいの気持ちで言ったら、オルさんは優しく笑って首を振った。


「いや、呼び方はこのままでいい。むしろ、オールィドって、呼んでくれても構わないんだぜ」

「えっ」


 心臓が、大きく跳ねた。


 そ、そ、そんな!

 無理だよぉ!


 思わず息を詰まらせるわたしを見て、オルさんは笑いながら頭を撫でてくれた。


「はははっ、冗談だよ」

「も〜、オルさんってば! あ、髪の毛〜」

「スマン、スマン」


 撫でられるのは嫌じゃないけど、セットしてるときは絶対ダメ!


 そんなわけで、これからのことを考えようとしていたわたしたちのところへ、執事さんがノックして入ってきた。


「歓談のお邪魔をしてしまい、大変申し訳ございません。女王陛下から、お言葉をお預かりしております」


 何だろう?

 渡されたカードには走り書きがしてあった。


「ダメだ、やっぱり崩し文字は読めねぇや」

「わたし、わかるよ。えっと……」


 オルさんに代わってわたしがメモを読み上げる。

 そこには、こうあった。


『先程は失念して言い忘れた。シャリアディースは元々、水の魔性だ。何かのヒントになれば良いが』


「水の魔性……」

「暴れ海竜を飼いならしてるんだったね、そういえば」

「ジルヴェストもかなり水は豊富な土地だ。もしかして、探すべきなのは水の多い国か?」

「もしかして、いっそ海?」

「じゃあ、海竜を放ったのは、海を探られたくないからか?」

「ありえるかも」


 わたしたちは顔を見合わせて、お互いが考えていることが一致していることを感じてた。うん、方向性、決まったね!


「海か……。やっぱ、アイツと決着つけないといけないみたいだな」


 オルさんの言ってるのは、海を渡ったときに体当りしてきた、あの暴れ海竜のこと。あの恐竜さえいなくなれば、王子さまも船を出して貿易を再開できる。


 ジルヴェストとの関係だって、戦争じゃなくて友好的な交易関係になれるかもしれない。そうなってくれたら、肩の荷が下りるよ!


「でも……、あの恐竜、倒しちゃうの?」

「向こうがこっちを沈める気なら、そうするしかないだろう」

「そりゃ、そうだけど……」

「あの海竜、もしかして他所でも船とか襲ってるんじゃないか? 情けをかけることが正しいとは、俺には思えない」

「うん……」

「ジルヴェストに帰るためにも、戦わなくちゃならないんだ。怖かったら、ここで待っててくれていい」

「それは嫌! 一緒に行く!」

「わかったよ」


 オルさんは苦笑しながら頷いてくれた。

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