捜索は収穫なし!
わたしたちは王子さまにもらった地図を見ながら、王都に向かって出発することになった。ギースレイヴンのこの辺りは、お城と駅以外にはお店も何もなくて、必要なものを買い足すこともできなくてビックリ。
駅も、本当にただ人や荷物を揚げ下ろしするだけのもので、賑わいとかそういったものは感じられなかった。
駅には蒸気機関車が停まっていて、話によると、王都イーシャムまでは五時間もかかるらしい。途中の駅でも停まることはあるって話だから、カップで行くわたしたちも、お昼ごはんを食べる場所くらいは見つけられそう。
だとしても、さっさと王都に向かわないと、丸一日移動することになっちゃう。それはちょっと嫌だ。
王都までの景色は代わり映えのしない荒野ばっかりで、目印もないし埃っぽいしでオルさんもちょっと困っていた。
「これは……思ったより、ツラい旅になりそうだな」
「気がついたら方向間違えてどこにも辿りつけなさそう」
「それは困るなぁ」
「あ、あと、運転中に眠くなりそう!」
「じゃあ、アスナが何か話してくれよ。そしたら、起きてられるからさ」
「えっ。じゃあ、どんな話にしようかな」
わたしは、この世界に来るまでの日本での暮らしについてや、友達のこと、家族のことを思いつくままに話した。とりとめなくなっちゃったけど、オルさんは気にせず楽しそうに聞いてくれた。
「アスナもひとりっ子なんだな」
「うん。昔は兄弟がいる子がうらやましかったな〜」
「俺も!」
会話もはずんで楽しい旅をしながらも、やっぱり休憩は必要だった。お昼が近くなったとき、ちょうど街が見えてきたこともあって、そこでゆっくりすることにした。
と言っても、カップを盗られたり壊されたりしたらいけないから、ふたりとも離れるわけにはいかなかったけど。
「それじゃ、カップの番、頼むな。いざとなったら空に逃げるとか、少し離れたところへ行ってくれ」
「うん、任せて!」
オルさんはお昼ごはんとかの買い出しに出かけていった。
お金とかどうするんだろうって気になったけど、そこはあの小さな王子さまがちゃんと考えてくれてたみたい。オルさんは「大丈夫」って言って、新しいカバンをポンポン叩いた。
「わたしも行きたかったけど、しょうがないよね……」
オルさんが行ってしまってひとりになったわたしは、この時間を利用して、自分のステータスを確認しておくことにした。
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【名前】久坂 明日菜
【性別】女
【年齢】17
【所属】日本
【職業】女子高生
【適性】※※※
【技能】お菓子づくり
【属性】ツッコミ
【魔力】38/100(%)
【備考】シャリアディースによって連れてこられた・精霊になりそう
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わぁ、魔力がけっこう回復してる!
……今までジルヴェストにいて、ちっとも回復しなかったのに、なんで? それに、一回結界の外に出て、そのときは回復しなかったのに、今回はどうして?
何か条件があるのかもしれないけど、よくわかんないや。
ただ、このまま行くと、かなり早く魔力が満タンになっちゃいそうってことはわかる。ギースレイヴンに留まるうちは、全快しないって聞いてはいるけど……不安!
あと、オルさんのステータスも確かめておこうかな。
あれから色々発見があったし、オルさんの持ってる剣についても、勘違いしてたことを修正しておかないと。
◎ドーナツさん
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【名前】オールィド・ドゥーンナッツ
【性別】男
【年齢】20
【所属】ジルヴェスト国
【職業】宮廷騎士(若枝)
【適性】狂戦士
【技能】《馬術》《剣術》《交渉術》《護る者》
【属性】犬
【備考】ジャムの味方・精霊を引き寄せる剣・お父さんは無事だったけど仲が悪そう
☆ ☆ ☆
☆『五年前に父親が先王と共に旅先で消息を絶った』
☆『父親や他の騎士たちとの間に軋轢がある』
☆『精霊殺しの持ち主』
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わぁ!
何か色々変わってる!
星のマークがぜんぶ白に変わってるのもビックリしたけど、オルさんの持ってる剣が『精霊殺し』なのにもビックリだよ。こんな剣持ってたら、危険すぎて精霊たち近づいてこないんじゃないの? あ、でも、引き寄せるって言うからには寄ってくるのか。
どうしてこんな剣があるのか、どうしてオルさんのお父さんが持っていたのか、その理由はわからない。
ただ、この剣を使わずにすめばいいなって思う。
だって、精霊を殺すなんて嫌だもん。
ううん、精霊だけじゃない。誰も傷つけてほしくなんかない。
オルさんが強いのは、もちろん知ってるけど……でも……。
オルさんの適性は狂戦士、つまり、狂ったように戦うひとってことでしょう? そんなの、怖い。オルさんの方が傷ついてしまうよ、きっと。身体も、心も。
オルさんには笑っていてほしい。
そのためには、ジャムを見つけて、無事に皆で帰らないとね!
そう、決意したのは良かったけど、王都についたその日には手がかりは見つけられなかった。ホテルに帰ってきたときにはもうクタクタで、せっかくの豪華なディナーもあまりよく味わえなかった。
「アスナ、大丈夫か?」
「うん……今日は、もう、お風呂に入って寝る……」
「わかった。何かあったら壁を叩いてくれよな。すぐに駆けつけるから」
「うん……」
わたしは、半分寝そうになりながらお風呂に入った。
いい匂いのするボディソープやジャンプーが嬉しい。なんだろうコレ、お花の香り? 体と頭を洗って、ドライヤーで髪を乾かして、備え付けのローションとミルクでスキンケアしてから寝る。
ふかふかの枕がとっても気持ちよかった。




