作戦会議
オルさんとアイスくんとわたし、三人が部屋に揃うとやっぱりちょっと狭い。さっきまではクリームくんもいたけど、そのとき、オルさんたちは半分部屋の外だったもん。
オルさんは「作戦会議だ」って言ったけど、いったい何の作戦会議だろう。
「これからのことについて話そうぜ。まず、アイスシュークとはここでお別れだ」
「えっ、そうなの?」
「うん。僕、アスナさんたちが、あんな危険な海を越えて王さまを探しに来たって知ってビックリした。しかも、誰の命令でもないのに。僕は……僕も、このギースレイヴンで、まだ何かやれることがあるんじゃないかって、思い直したんだ。だから……僕は、ここに残るよ。ごめんなさい」
アイスくんはピョコンと頭を下げた。
自信がなさそうにしてるけど、奴隷として過ごしてきた国を救うために頑張るなんて、並大抵の覚悟でできることじゃない。すごく立派だよ!
「ううん、謝らないで。アイスくんはすごいよ。尊敬する」
「あ、ありがとう……」
元気づけようと思って手を握ると、アイスくんは真っ赤になってうつむいちゃった。
と、ここで大事なことに気がついた。
「あっ。じゃあ、さっき、わたし……もしかして、悪いことしちゃったかな。勝手に、アイスくんのこと」
「ううん、それは違う。嬉しかった。僕のこと、気に、かけてくれて」
「友達だもん、当たり前だよ」
「トモダチ……。そっか。友達。ありがとう、アスナさん」
アイスくんは嬉しそうにふにゃっと笑った。
オルさんは、わたしたちが話し終えるのを待って、わたしに聞いてきた。
「アスナ、アスナはこれからどうしたい? 一度ジルヴェストに戻るか、それともこのままギースレイヴンの王都に向かうか。俺は、アスナに任せる」
「そう、だね……。ホントのこと言えば、一度帰って、心配かけてることを謝りたい。でも、帰ったら二度とここへは来られない気がするし、海にいるあの大きなのが怖いなぁ。このまま王都に行くのもいいんじゃないかなって思ってる。早く、ジャムたちに会いたいよ」
ジャムたちがどうして帰ってこないのか、連絡すら寄こさないのか。
わかんないけど、きっと事情がある。そう信じたい!
ジャムとシャリさんのことだから、大丈夫に違いないもん。
あんな、海の怪物なんかに、やられてたりしない……。そうでしょ?
だから、また会えたら絶対、あのすかした顔にハリセンめいっぱい叩きつけてやるんだ。
「きっと、大丈夫、だよね?」
「ああ。もちろん! じゃあ、やっぱ、王都へ向かおう。今度こそ、そこで陛下たちの手掛かりをつかんでみせる」
相変わらず、オルさんはジャムの無事を確信してるみたい。
わたしにはそれがすごく頼もしく思えた。
方針が決まったところで、タイミングよくお城のひとたちがやってきて、オルさんたちに食事や飲み物や、着替えなんかを渡して出て行った。
「ありがたいな~。アイスシューク、順番にお湯を借りようぜ」
「あ、えっと、僕は自分の部屋に戻ってからにするので、どうぞ」
「そうか? じゃあ、そうさせてもらう。その間、アスナを頼むな!」
「は、はい」
オルさんはアイスくんの肩を叩いて、奥のお風呂場に行ってしまった。
「何でわたし?」
「えっと、一応、敵地だから警戒してるんじゃないかな」
「そうなの?」
「たぶん……」
「ふぅん」
そういうことも、あるのかな?
今さらクリームくんが考えを変えて襲ってくるとは思えないけど、警戒するのは悪いことじゃないよね。オルさんは、そういうとこやっぱり騎士なんだ。
「あの……。アスナさんに、伝えることがあるんだ。本当は、カロンから直接聞くのがいいと思うけど、今はいないし……」
「うん。なぁに?」
「えっと、アスナさんの、体質のことなんだ」
「体質?」
アイスくんは困った表情で、ところどころ言葉につっかえながら話してくれた。
「アスナさんの魔力は特別に大きくて、この世界じゃ人間のままでいられなくなっちゃうって、カロンが言うんだ。このままだといずれ、精霊になるって。ただ、抜け道はいくつかあって、そのうちのひとつが、クォンペントゥスに頼んで精霊化を止めてもらうこと。
それが無理なら、魔力が完全に回復してしまわないように注意すること。一定時間ごとに魔法を使うとか、誰かに魔力を譲り渡すとか。あと、このギースレイヴンの、特にここ、旧王都に留まってる限りは土地に魔力を吸い取られ続けるから、満タンにはならないハズ……」
「精霊になるって、そんなの……。そうなったら、もしかしてわたし、元の世界にも帰れないんじゃない?」
「…………」
アイスくんの沈黙は、「イエス」っていう意味だと思う。
そんなの、困る!
「今はちょっと寄り道してるけど、元の世界に帰ることは、あきらめてないんだ、わたし。だから、精霊になんてなりたくない。コンちゃんが何とかしてくれるっていうなら、コンちゃんを呼んでみるよ。ありがとう、アイスくん」
「お礼を言うのは早いよ……。クォンペントゥスだけど、僕が呼んでも来てくれないんだ。元々、精霊は気まぐれだけど、特に彼はそう。アスナさんが呼んで、来てくれればいいけど……」
「そうなんだ……」
「カロンが言うには、精霊にも管轄みたいなものがあって、アスナさんの精霊化を止められるのはクォンペントゥスか、それとも水の精霊シャーベ・スベルベルトだけ……。シャーベは海のどこかの氷の島で、その体を氷に変えて眠ってるとかで、僕は一度も会ったことがないんだよ」
「そんなぁ」
コンちゃんがダメなら、べつの精霊に頼むべきだけど、その精霊が眠ってるんじゃ……。
「会いに行ってみないと、わからないことだけど……。それともうひとつ、アスナさんの帰り道の手掛かりは、時の精霊、キョウが握ってるかもしれないよ。これも、カロンにお願いしないとわからないんだけど。一応、役に立つかと思って……」
「ありがとう! ヒントだけでもすっごく助かる! また、ジャムの問題が片付いたら、頼らせてもらってもいい?」
「うん……。きっと、また、会いに来て」
「うん!」
アイスくんはなんだか切なそうに笑って、わたしに、「早く王さまに会えたらいいね」って言って帰っていった。ちょうど、オルさんがお風呂場から出てきたタイミングで。
「もう帰るのか?」
「うん。あまり長居すると、決心が薄れるから……」
「バイバイ、アイスくん。またね」
アイスくんが帰っちゃったから、どうしよう、ふたりきりになっちゃった……!




