再会と、交渉と
わたしはオルさんに抱きついていた。
涙が込み上げてくる……オルさんが無事で、本当によかった!
「オルさん! よかった……わたし、ずっと怖かった! だって、オルさん、ぜんぜん動いてなかったんだもん!」
「ごめんな、こんなことになって。早く助けに来たかったけど、俺、魔力がガッツリ削れて動けなかった上に、剣も鎧もなくてさ。ようやく来られた。アスナがちゃんと『助けて』って言ってくれたおかげでさ」
オルさんは、もがくクリームくんを片手で抑え込みつつアイスくんの方を手で示した。
……いけない、わたし、オルさんにまた会えたことで頭がいっぱいで、アイスくんのこともクリームくんのことも忘れてた!
「アイスくん、ありがとう! わたし、アイスくんなら助けてくれるって、信じてたから」
「アスナさん……。いえ、その、僕は……、前に迷惑をかけてしまったから……」
「じゃあ、もう貸し借りなしだね!」
「う、うん……」
わたしの言葉に、アイスくんはどこか安心したような、そんな笑顔を浮かべた。
クリームくんはと言えば、オルさんに掴まれてモゾモゾ暴れてたけど、いいかげんキレちゃったのか叫びだした。
「何なんだお前たちは! 俺様を誰だと思ってる! 勝手に入ってきてこのような振る舞い、極刑に値するぞ!」
極刑って言葉に、わたしはビクッとした。
それって、死刑……ってコトだよね?
でも、オルさんはまったく動じずに、クリームくんから手を離して言った。
「申し訳ありません、ギースレイヴン国のクリエムハルト王太子殿下。俺はジルヴェスト国から参りました宮廷騎士、オールィド・ドゥーンナッツと申します。
この度は、我が国の国王陛下の婚約者殿を保護していただき、ありがとうございます。海上で事故にあい、そのまま、俺と離れ離れになってしまって困っていました。
今まで親交のなかったもので、入城の際にご迷惑をおかけしましたが、どうかお許しください」
「〜〜〜〜! っこの、貴様……っ!」
お〜〜!
オルさんが滑らかに難しいことを言ってる。クリームくんが詰まってるから、この言い分は通るものなのかな?
そこに、オルさんは笑顔でダメ押しした。
「この言い分が通らないなら、こっちは要人の誘拐と監禁で訴えるぞ?」
「……チッ! さっさと帰れ!」
「よし。アスナ、行こう」
「ちょっと待って」
わたしはクリームくんの前に膝をついて、目線を彼より下にした。オルさんやアイスくんがビックリしたような声を出している。もちろん、クリームくんも。
「王子さま、わたし、たくさん質問に答えたでしょう? わたしも質問してもいい?」
「……好きにしろ」
「うん。あのね、つい最近、わたしたちみたいにジルヴェストから来た人を探してるの。わたしと同い年の男の子と、少し年上の男のひと。何か知らない?」
「生憎と知らんな。ここ、旧王都では余所者はすぐにそれとわかる。俺様に報告がないということは、そんなヤツはいないということだ」
「そっか……。あの、ここ、旧王都ってことは、王都もあるの? 女王さまはそこにいるの? もしかしたら、そっちに行った可能性もあるかも」
「なら、勝手に行って勝手に探せばいいだろう」
え〜〜ん、取り付く島もない!
見下ろしてくる目がすごく冷たい。
「ええっと、もしも王子さまの許可とかあれば、すごく探しやすいと思うんだけど、協力とかしてくれないかな〜って」
「俺様に取引をもちかけてるのか? そんなことして何の得がある」
「取引っていうか、協力だってば〜。それに、わたしたちが誰を探してるのか知ったら、きっと興味がわくとおもうよ。あのね、探してるふたりのうち、ひとりはあのシャリアディースなの」
「なにっ!?」
「そう。ギースレイヴンの魔力を奪って、わたしを横取りしたアイツ。もし見つけられたら、わたし、ギースレイヴンに魔力を返すように説得してもいい」
「…………」
「それに、マナの実も、また見つけたら届けてあげる」
「…………何が目的だ」
クリームくんは疑わしそうな目で、わたしをじっと見ている。拳がぎゅっと握られていて、すごく警戒されてるみたい。
「わたしの目的は、シャリアディースたちを探すことだよ。そのために、王都で動きやすいように、許可証とかがあると嬉しいなって思って。マナの実のことはね、約束はできないけど、ジルヴェストで見つけたら王子さまに渡したい。だって、苦しんでるお母さんのためなんだよね?
あのね、命令しなくても、暴力を振るわなくても、欲しい物を手に入れる方法って他にもあるんだよ。そのうちのひとつが、誰かに助けてもらうこと。王子さまが協力してくれるなら、わたしも協力する。どうかな?」
「…………」
「よし、それなら俺も協力するぜ! マナの実、探してきてやるよ」
オルさんがトンと自分の鎧の胸元を叩いて笑う。
嬉しいな。オルさんならそう言ってくれると思ってた。
「どうして……」
「単純な理由だ。俺にとっては、マナの実よりも王子さまに協力してもらえる方が大事ってだけ。それと、母親のためなんだろ? それなら、絶対に協力するぜ」
「そうだよ!」
クリームくんは大きな溜め息をついて、頷いた。
「わかった。これ以上の条件など他にない……。明日の朝までに許可証は作っておく。どこか、部屋を用意させよう」
「いや、俺はいい。アスナの部屋だけで充分だ」
「えっ」
「……わかった」
えっ!?
お、お、オルさん、まさかわたしの部屋に……!?
「それでは、明日、な」
「待って! あの……」
「なんだ」
突然の決定にわたしの心はピンチになってたんだけど、部屋を出ていこうとするクリームくんを見て、ちゃんと現実に帰ってきた。
最後にもう一つ、言っておかなきゃいけないことがあるんだ!
「あのね、この国のことに、口出しはしたくないんだけど……。アイスくんはこのまま、自由にしてあげてほしいの」
「…………」
「あ、アスナさん……」
「また首輪をしたって、アイスくんはもう抜け出せるし、閉じ込めたってどこにでも行けるんだよ。だから、もう、自由にしてあげて。
ホントは、もっと、色々言いたいけど……よその国のことだから。わたし、責任は、取れないし……。だって、元の世界に帰るつもりだから。でも、協力はしたいと思ってる。その協力の代わりに、お願い。アイスくんだけは、自由にしてあげて」
「……好きにすればいい」
「それじゃあ!」
クリームくんはひとつ頷いた後、黙って部屋を出ていった。
アイスくんはというと、ポカンと口を開けて、ビックリした表情のままで固まっていた。
「よかったね、アイスくん!」
「あ……えと…、ありがとう、ございます。……あ、の、なんか……、なんて言ったらいいか、わからない……」
アイスくんは複雑そう。でも、本当によかったね!
笑顔のオルさんがその背中をバシンと叩くと、アイスくんは前に大きくつんのめった。
「った!」
「よし、作戦会議だ」
「うん!」




