王子さまとステータス
本日、2話目の更新です。
▶【アイスくんだけ逃がす】
わたしは、とっさに王子さまに抱きついていた。
「なっ!? お、お前!」
「アスナさん!?」
「行って、アイスくん! 奴隷の村のどこかに、オルさんが捕まってるの! 怪我をしてるかもしれない……お願い、助けて!」
「でも……!」
「お願い!」
抵抗する王子さまをムギュッと抱きしめて、わたしは叫んだ。
アイスくんは迷った顔をしていたけど、頷いて、虹色の裂け目の向こうへ消えていった。
うまく、オルさんと合流できればいいけど……。
「おい、どういうつもりだ! 離せ!」
「あ、ごめんね」
「お前! お前……なぜ逃げなかったんだ……」
「えっと……。わたしには、わたしで、聞きたいこととかあったから」
「……わけのわからん女め」
わたしが手を離すと、王子さまはわたしじゃない方に向けて手をサッと振った。
ドアのところには男のひとたちがふたり見えていて、たぶんだけど、わたしを攻撃するか迷ってたんだと思う。や、やばかった、の?
「まったく、アイスシュークめ。次に見つけたら串刺しにしてやる」
「そんな! どうしてそんなこと言うの……」
「首輪を外して勝手に出奔し、それどころか俺様の城に勝手に忍び込み、お前に接触していたからだ。おおかた、連れ出そうとでもしていたんだろう。お前は俺様の呼び出した精霊の巫女、この魔力なき穢れた土地を癒すための道具だ」
「なに勝手なこと……」
「おい、あれを」
王子さまはまた、入口に向かって合図する。
まったく具体的じゃない命令にわたしが首を傾げていると、男のひとが例の首輪を取り出してきた。
「!」
「まあ、座れ。アスナと言ったな。俺様も、なにも今すぐこの隷属の首輪をお前に嵌めようなどとは思っていない」
「……ホント?」
「ああ」
そのとき、マヌケなポップ音がした。
ものすごく久しぶりなこの感じ……ステータスだ!
すぐに確認したいとこだけど、でも、そういうわけには……。
チラリと王子さまの様子を窺うと、何だか難しそうなことをムニャムニャ長ったらしくしゃべっていた。
「お前はおとなしくしていたし、何より、金よりも貴重なマナの実を惜しげもなく譲り渡した。あれは魔力の豊富な土地にあっても、めったに見つからん貴重なものだ。マナの実は摂取した者の魔力を、人体に負担ない程度に癒し、余分な魔力は空気中に拡散させる……」
いいや。
今のうちに見ちゃお!
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【名前】クリエムハルト
【性別】男
【年齢】12
【所属】ギースレイヴン国
【職業】王子
【適性】恐怖政治
【技能】◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】暴君
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う~~~~~ん!
暴君!!!
まんまじゃん。
どうしよう、わたし、本当に抜け出せるかな。こんな手強そうな子相手に。
アイスくんがオルさんと合流してくれれば、タイミングを見て助けてくれるんじゃないかと思ったんだけど、もしかして時間をかけて外交ルートで助けを待つしかなかったりして。
「つまり、あれは母上の苦痛を和らげるばかりか、現王都に魔力を供給し、清浄に保つ役割を果たす。そろそろマナの実を手に入れなければと思っていたのだが、どれだけ探させても見つからなかったところだ。お前の献上したあのひとつが、母上の大きな助けとなるだろう……って、聞いてるのか?」
「ナイスタイミング、ってことでしょ?」
「お前な……。まあ、いい。そういうことにしておいてやる」
クリームみたいな名前の王子さまは呆れ顔をしている。
特別扱いしてくれてることは、なんとなくわかったんだけど、それでどうするつもりなんだろう。
「それで? わたしの部屋に何しに来たの?」
「……少し、寝る前に話をしようと思っただけだ」
「首輪持って?」
「それは一応、最後の手段だ」
クリームくんはちょっぴりバツの悪そうな顔になった。
案外、素直!
「それより、お前には色々と聞きたいことがある。答えを聞く前に言っておくが、はぐらかしたり、嘘をついたりはナシだ。こちらには首輪もそうだし、暴力的な手段に訴えることも可能ということを忘れてくれるなよ。……おい、そう固くなるな。漏れ出る魔力が濃くなってる。魔力切れになっても、俺様が供給してやれるが、それでいいのか?」
「魔力、切れ……? 供給?」
「ああ。魔力を自分で制御できない、子どもがよくやる。大抵は別人の魔力に触れると回復する。口移しが効果的と聞くが……試すか?」
「いい! いらない!」
わたしは意地悪な視線から逃げるように顔を背けた。
高笑いが聞こえるけど、無視無視!
「さて。じゃあ、何から話してもらおうかな」
こうして、尋問が始まった。
わたしがどこからやって来たのか、どうやってシャリアディースと出会ったのか。
ジルヴェストでの生活や、文化。
海を渡った方法。
そして……、オルさんのこと。
「その男を助けに行かせたのか。もう死んでるかもしれないぞ?」
「……オルさんは、生きてるよ。きっと。ううん、絶対に」
「それで? お前自身は逃げられないだろうに。そう、逃がすつもりはない……お前は精霊の巫女なのだから」
「それ!」
「なんだ?」
「精霊の巫女って、アレでしょ? 精霊と話をして、力を借りられる存在のことでしょ? だったらわたし、やっぱり違う……、と、思うんだけど。だいたい、精霊に力を借りるだけならアイスくんがいるじゃん。どうしてこの土地を癒やしてもらわないの?」
わたしがそう聞くと、クリームくんは苦い表情になった。
「……アイツは、役立たずだ。この土地を癒やすことも、精霊の力を借りることもできなかった!」
「そうかな? その割には、ちゃんと力を借りられてたと思うけど……。実際、わたし、ついこの間この国へ連れてこられたもん」
「何だと!」
「ホントだよ。この国を助けてほしい、って。でも、色々あって、奴隷のひとたちに捕まっちゃって……。逃げてきちゃった」
「もう少し詳しく話せ! 場合によっては……!」
「その辺にしておいた方がいい。さ、アスナを返してもらおうか?」
「オルさん!」
「なっ……」
ドアが開いて入ってきたのは、オルさんとアイスくんだった。
クリームくんの肩を、後ろから掴んで動けないようにしている。オルさんはニッと笑うと、明るい声でわたしを呼んだ。
「よっ、アスナ。元気だったか?」
「オルさ〜ん!」
わたしはオルさんの胸に飛び込んだ。




