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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
179/280


▶【アイスくんにお願いする】


 わたしは叫んでいた。


「アイスくん、早く! 逃げなきゃ!」

「う、うん!」

「させるか! “氷の槍(アイス・ランス)”!」

「!」


 王子さまの手は、わたしに向けられていた。

 アイスくんが、わたしに覆いかぶさってきて、わたしたちはベッドに倒れ込んだ。


「ううっ……!」

「アイスくん! 血が……」


 アイスくんがうめいて、わたしの横に崩れ落ちる。その肩からは赤い血が流れていた。怪我をしたんだ!

 わたしはすぐに起き上がって、アイスくんの怪我の具合を確認する。


「アイスくん、しっかりして! 大丈夫? アイスく……」


 王子さまが目の前にやってきていた。

 そして、アイスくんの体に何かを押しつけた。


「なにを……」


 乾いた音が、二回した。

 アイスくんが撃たれたんだってことに気づいたときには、もう、遅かった。うつ伏せの背中の真ん中に、じわりとふたつ、赤いものが広がっていく……。


「いやぁぁああああっ!」


 アイスくんは抵抗することもできずに……。

 こんなことって……!


「アイス!」


 どこから現れたのか、クッキーくんが泣きながらこっちへ手を伸ばしてる。でも、王子さまはクッキーくんにまで銃を向けた。


「やめて!」


 銃声。

 悲鳴。

 

 撃たれたクッキーくんは、血を流す代わりにヒビ割れを走らせて、空気の中に溶けていった。苦しそうな、すすり泣きを残して。


「どうして、こんなひどいこと……! どうしてよ!」

「ひどい? 裏切り者に死を以て報いただけの話だろう。勝手に出奔したばかりか、俺様の城に忍び込み、俺様の物を盗もうとしたんだからな」


 わたしが泣きながら怒れば怒るほど、王子さまの方は冷静になっていくみたいだった。


 無表情のまま、感情のこもらない声でそう言う。

 でも、そんなの納得行かない!


「そんな! アイスくんが何を盗ろうとしたって言うのよ!」

「…………お前だ」

「あうっ!」


 撃ったばかりの、まだ温かい拳銃を頬に当てられて、わたしは思わず後ろによろめいた。


「ようやく手に入れた精霊の巫女だぞ。この魔力の枯れた穢れた地を癒やすために必要な! それを奪い去ろうとする奴は死に値する! お前もお前だ、おとなしくしていたから、隷属の首輪を着けずにおいてやったのに。信用してみてもいいかと思ったのに……!」

「っ……!」


 燃える瞳がわたしを睨みつける。

 背筋が凍るような……憎悪の視線……。


「この女に首輪を!」

「えっ、や、やだっ!」


 王子さまの命令で、男のひとたちが部屋の中へ入ってきた。わたしは逃げようとして、当然、逃げ切れずに押さえつけられた。首にキツく首輪が巻かれる。


「殿下、これを」

「ああ」


 男のひとりが、王子さまに細長い棒を手渡した。まるで、乗馬用の鞭、みたいな。そして、それが振り上げられたとき、わたしの印象が正しかったことがわかった。


 ヒュンッとしなった鞭は、わたしの脚に叩きつけられた。

 熱い! そして痺れるような痛みが波になって襲いかかってくる。わたしは悲鳴を上げた。


 その後、何度も、何度も、背中や脚を叩かれた……。





 その夜から、わたしは熱を出して寝込んでしまった。

 鞭で打たれたせいなのか、魔力が切れたせいなのか、それとも、アイスくんを死なせてしまったせいなのか……。


 夢に出てきたアイスくんは、悲しそうな表情で、何度もわたしに謝っていた。謝らなくちゃいけないのは、わたしなのに。


 わたしが呼んだから。

 わたしが助けを求めたから。

 

 わたしを庇ったから。


 アイスくんは殺されてしまった。


 オルさんはどこにいるんだろう。

 わたしが連れ去られた後、どうなったの?


 無事でいるのかな。

 ひどいこと、されてないといいけど。


 助けてほしいなんて、言えない。

 オルさんまで、アイスくんみたいに殺されてしまったら……!





 怪我が治ってからも、わたしは閉じ込められ続けた。

 何日経ったのかもわからないある日、王子さまはわたしの部屋へやってきて、目の前に剣を放り投げてきた。


 ……見覚えのある剣だった。


「こ、れは……?」

「見せてやるだけだ。危ないから、触るな」

「…………」


 面白がっているような声……。

 この剣の持ち主が、わかっていて、わたしに見せてるんだ。


 首輪のせいで、命令には逆らえない。

 この剣を取って、斬りかかることはできない。自殺することも、もちろん……。


「こんな、剣、知らない……」

「そうか。なら、良かった。その剣の持ち主はもう、とっくに殺してしまったんだが、知り合いじゃないなら関係なかったな」

「…………」


 王子さまは、高笑いして行ってしまった。

 彼も、彼の取り巻きも姿を消してから、わたしは床に捨てられた剣の側へ、膝をついた。


「オルさん……オルさん!」


 涙が、後から後からあふれてくる。

 こんな敵国で、たったひとりで……どこにいるかもわからないわたしを探してくれたんだ……。


 そして、見つけてくれた!

 見つけてくれたんだ! すぐ側まで、来てくれてたんだ!


 そして、わたしを、取り戻すために戦って……。

 わたしのせいで、死なせてしまった。


 オルさんの剣の柄の部分には血がにじんでいた。

 鞘も、少し歪んでいる気がする。


 こんなになるまで、戦っていたんだね。


「せめて、ひと目……会いたかったなぁ……」


 思い出すのは、あの、明るい朗らかな笑顔。

 見ず知らずのわたしのために、走り回って、それでも嫌な顔ひとつせずに笑っていたっけ。


 そんなオルさんを、いつの間にか好きになってた。

 それなのに、一度も、言えなかったよ……。


 頭を撫でてくれたオルさん。

 髪の毛をクシャクシャにされたっけ。


 ああ……、もう、会えないんだ……。

 二度と、触れられないんだ……。


「オルさん、わたし……オルさんのこと……、大好き……」


 そこから先は、言葉にならなかった。

 泣いて、泣いて……それでも、死ぬことすら許されない。


 ああ、早く、儀式の日が来ればいいのに。

 血と心臓を捧げて、それでこの苦しみが終わるなら。


 でも、もしも本当に儀式によって、魂だけ元の世界に帰れるとしても、わたしはきっと帰らない。


 この世界にとどまって、オルさんの魂を探すの。

 そして、言わなきゃ。


 貴方を、愛してるって。







END『この終わりを待ち望んで』

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