分岐点 6
わたしが連れて行かれたのは、さっきまでの牢屋じゃなかった。お城の中の部屋で、絨毯が敷かれてて、ベッドだけじゃなくて色んな家具が置かれている。
「逃げようとするんじゃないぞ」
お風呂場へ運ばれて、縄をほどかれた。
ふぅ。痛かった! 縛られた手首がこすれて、ちょっと赤くなっちゃってる。
男のひとは出ていって、代わりに女のひとが入ってきた。
「今からお湯を溜めますから、先に足の汚れを落としてください。着替えも用意しておきます。トイレはここを出て隣のドアですよ。……外から鍵をかけますから、逃げられません。自分を傷つけたり、変なことは考えないように。じゃないと、すべて監視することになりますよ」
「はい」
自殺を警戒されてるのかな。
ずっと見張られるのは嫌だよ〜!
でも、お風呂上がりの夕飯も、その後も、わたしは部屋にひとりきりにしておいてもらえた。
そして夜遅く、ベッドに横になっていたわたしへ、ささやき声が聞こえた。
「アスナさん、起きてる?」
「アイスくん……! よかった、来てくれたんだ!」
わたしはすぐさま起き上がって、やっぱりささやき声でアイスくんに応えた。
久しぶりに見たアイスくんは、なんだか申し訳なさそうな表情をしていた。そっか、前回別れたときは、ギースレイヴンの奴隷の人たちに裏切られて、閉じ込められたときだったもんね。
「あの、その……あのときは……」
「アイスくん、助けに来てくれてありがとう」
「あっ、ううん、そんな……」
「あの後、アイスくんも助けられたって聞いてホッとしたの。また、会えてよかった」
アイスくんは首を横に振って、わたしに謝ってきた。
「あのときは、本当にごめんなさい! アスナさんを危険な目にあわせるつもりなんか、なかったんだ……。まさか、あのひとたちが、あんなことをするなんて思ってなかった」
「うん」
「またこの国に来ちゃうなんて、不安だったよね……。来るのが遅くなって、ごめん。でもよかった、まだ首輪も嵌められてなくて。すぐにここから逃げよう!」
首輪……?
そっか、ここのひとたちは全員、首輪を嵌められてるせいで言うことを聞かされてるんだっけ。あの王子さま、わたしには首輪を嵌めなかった。
「ホントだ! そういえば、わたし、嵌められてない! アイスくん、首輪は? あっ、その首の、傷……!」
「外したんだ。無理やり。色んな方法を試したんだけど、内側に血を流し込むことで外れたよ。傷は、火の精霊であるジフ・オンが焼いてくれたから……」
「や、焼く!? それ、火傷なの!?」
「あ、アスナさん、声が大きい……」
「ごめん」
わたしは慌てて口を塞いだ。
でも、遅かった!
「女、誰と話してる!」
「あっ、ヤバ……」
ドアが開いて、王子さまが現れた。
見開いたオレンジ色の瞳が、まるで燃えているみたい。
「アイスシューク!」
「あっ……殿下……」
王子さまはサッとこっちに左手を向けてきた。
アイスくんの体が強張る。
いけない……!
早く逃げなくちゃ!
でも、それには時間が……
わたしは……
▶【アイスくんにお願いする】
▷【アイスくんだけ逃がす】




