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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
176/280


▶【オルさんに送る】


 わたしは、オルさんに伝書機を送ることにした。

 小さな声でメッセージを吹き込む。


「オルさん、体の具合はどう? 怪我してない? オルさんが庇ってくれたから、わたしは大丈夫だよ。今、鉄格子の嵌まった、牢屋に閉じ込められてるの。きっとお城に捕まっちゃったんだ……。助けて、オルさん。この国の王子は、わたしの血と心臓を狙ってるの。……待ってるから」


 どうか、無事でいて……。

 祈りを込めて、伝書機に魔力を通す。リボンはまるで蝶々みたいに羽ばたいて、わたしの手にとまった。


「オルさんからもらったマナの実……。オルさんに返すね。これが役に立ちますように」


 伝書機にマナの実を持たせて、鉄格子の隙間から外に解き放つ。蝶々はひらひらと羽をひらめかせて飛んでいった。


(お願いね……)


 そのとき、後ろでガチャガチャっと音がして、いきなり牢屋のドアが開いた。厳しい顔の女のひとたちが三人、黙って入ってきて、わたしは着替えさせられた後、手を後ろでギュッと縛られた。


 抵抗しても抑えつけられて、連れて行かれた先は寂れたお城の中庭だった。そこで待っていた王子さまは、想像とは違って、小学校高学年かそれとも中学一年生くらいの男の子だった。


 薄いクリーム色の髪の毛に、オレンジ色に輝く瞳。物語に出てきそうな服を着て、白い毛皮のマントをつけている。にこやかなのにゾッとするような笑顔を浮かべた男の子は、わたしを見てこう言った。


「お前が異世界からやってきた精霊の巫女か。……それにしては魔力切れ寸前の顔をしているが、どうした? この土地はそれほどその身に(こた)えるか?」

「魔力、切れ……?」


 わたしは、後ろで手を縛られていて、中庭の石畳に膝をつかされていた。力が入らなくて、頭がクラクラしてたけど、それは緊張してるせいだと思ってたのに。これが、魔力切れの症状なの?


「我が国で魔力切れを起こすのは、自分の魔力を制御できない子どもくらいなものだぞ。よほど甘やかされてきたんだな、お前」


 意地悪な顔で、わたしをバカにする王子さま。

 そんなこと言われたって、困る……。魔力の制御なんて、したことない。


「だが、魔力切れ寸前だというのにこの魔力量……見誤っていたかもしれんな」

「?」


 王子さまがゆっくり近づいてくる。わたしの顎を掴んで上を向かせたその表情は、もうバカにしたような感じじゃなかった。真面目で、賢そうな男の子に見える。


 髪の毛と同じ、白金の長い睫毛をパチリと瞬きさせて、王子さまはわたしの唇にキスをした。


「やっ!?」


 わたしは咄嗟に頭を後ろに倒して逃げた。すぐにわたしを押さえつけていた手が伸びて、元のように座らされる。


 ……触れられた唇は、すぐに離れた。

 王子さまは口の端を歪めて笑ってる。


「クククッ。魔力は汲めども尽きせぬ泉のようなもの、俺様の魔力に触れて、お前の内側からもまた湧き上がってきただろう? その潤沢な魔力、使い(みち)はたくさんありそうだ」

「ひどい……」

「何を言う、俺様はお前を助けてやったんだぞ? (とうと)い口づけを授けてもらったこと、感謝しろ」


 お腹の底から、かあっと熱があふれ出す。

 これが、魔力なの……?


「あ……ああ……あうぅぅ……」


 苦しさに思わず体を前に折って、うめいてしまう。

 そんなわたしを見て、王子さまはさらに笑った。


「アスナ!」

「なっ!? 貴様、どこから!」


 わたしを呼ぶ、声……。

 オルさん! 


 何人かの慌てた声と争うような音、うめき声。

 わたしは焦った。相手は何人もいるのに、オルさんひとりで大丈夫なの……!?


 でも、勝負は一瞬でついたみたいだった。

 まだうずくまった姿勢のわたしの目の前に、オルさんのブーツが見えて、優しい手が背中に添えられた。


「大丈夫か? 今、縄を切る」

「オルさん……!」


 力強い声。

 オルさんが無事でよかった! 助けに来てくれた……。わたしを探して、ここまで……!


 わたしは涙を振り払って顔を上げて、そして、そして……。

 そこに広がる血みどろの光景に思わず叫んでいた。


「アスナ、どうした。どこか痛むのか?」


 わたしの血と心臓を狙っていた王子さまは、首と左手が無くなってた。

 わたしを押さえていた奴隷の男のひとや、わたしを着替えさせた女のひとも、皆、どこかの部分がなくなってた。


 みんな、あちこちに、ちらばって……。

 血まみれで。体の中身を、はみ出させていた。


 王子さまの驚いたような顔と目が合って、わたしは込み上げてきたものを、ぜんぶ吐き出してしまった。


「アスナ、大丈夫か!?」

「触らないでっ!」

「…………」

「どうしてこんな、ひどいこと……」

「ひどい? 敵国の王子だぞ? ……ああ、でも、殺したのが俺だと知られると身動きが取れなくなるな。俺にはまだ、陛下を探すっていう使命があるのに」


 何を……言ってるんだろう、このひとは。

 確かに敵ではあったかもしれない。


 でも、子どもを、こんなに残虐な殺し方をして、その場にいたひとを皆殺しにして、心配しているのは自由に動き回れなくなることなの!?


 ……わたしが好きになったのは、本当にこのひとなんだろうか?

 それとも、わたしには何も、見えていなかっただけ……?


「ごめん、アスナ」

「!」


 かけられた優しい声に、思わず体が震える。

 どうしてそんな、何もなかったように笑えるの!?


 彼の目を、見ることができない……。


「アスナを、このまま連れ帰るわけにはいかなくなった」

「わたしを、殺すの?」

「そんなことはしない。……俺にはできない」

「いやっ!」


 抱きしめられそうになるのを、振り払う。

 ううん、違う。体が勝手に拒絶する。もうこのひととは一緒にいられない!


 でも、その抵抗は無意味だった。

 わたしが力で敵うハズなんてない。わたしは抱きしめられて、無理やりキスされていた。逃げようとするわたしの頭を掴んで、無理やり。


「アスナ……。アスナなら、陛下を見つけられるだろう? 俺に協力してほしい。そして、無事に陛下を見つけたら、そうしたら俺は騎士をやめるから……」

「離して……!」

「そうしたら、ふたりで暮らそう。ふたりだけで、誰も知らない場所で……」

「いやっ! やめて!」

「行こう、カップはすぐそこに停めてあるんだ」


 わたしは、そのまま連れ去られた。


 わたしの魔力とカップがあれば、どこへでも行くことができる。世界の端から端までも。


 氷の塔で眠っているジャムを見つけるまで、そんなに長くはかからなかった。シャリアディースも斬り殺して、彼はジャムを連れ戻した。


 そしてわたしは、地中深いダンジョンに囚われてしまった。

 誰の助けも来ない、陽の光も差さない部屋に。


「もう、俺のものにはならないと思ってたのにな……。アスナ、愛してる」


 そう言いながら、彼は手枷と足枷をわたしに嵌めた。

 白いウェディングドレスの上を蝋燭の光が滑っていく。わたしは眩しさに涙がこぼれた。


 ふたりだけの結婚式……。ううん、わたしにとっては死の宣告。

 どうして……こうなってしまったんだろう……。







END『地下室の花嫁』

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― 新着の感想 ―
[一言] ドーナツ、おまえもかーーー! と叫ばずにはいられない回でした❤️ アスナ、(肉体的にも精神的にも)強く生きて!!
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