分岐点 5
わたしたちは弾き飛ばされた。
オルさんに抱きしめられた後の記憶は曖昧で、一体どこまで飛ばされたのか、気づいたときには浜辺ですらない乾いた地面に投げ出されていた。
「う……。いたた……オルさん……?」
思い切り体を回転させた後みたいにフラフラする頭。どうにか目を開けて周りを見回すと、横倒しになったカップと、うつ伏せで動かないオルさんの姿が見えた。
「オルさん……!」
駆け寄りたい気持ちとは反対に、体は重くて手を伸ばすことすらノロノロとしかできない。もどかしさについ、涙があふれる。
体の痛みより気持ち悪さより、グッタリして動かないオルさんの様子を、早く確かめたいのに……!
そんなわたしの体を、誰かの手が掴んで引っ張り起こした。
「だ、誰……?」
それはひとりじゃなかった。
全体的に薄汚れた、やせ細った人たち……その首には痛々しい頑丈な輪が嵌められている。ギースレイヴンの、奴隷たち!
「あっ! や、やめて! 離して!」
彼らは何も言わず、わたしの体を担ぎ上げた。そして、オルさんの方にも何人かがしゃがみこんでいる。もしかして、治療してくれるのかもしれない……でも、わたしだけが運ばれていく。
「やめて! 戻って、お願い……!」
離れ離れになりたくない!
連れて行くなら、一緒に連れて行って!
でも、わたしの抗議は無視された。
肩に担がれ、連れて行かれながら、わたしは倒れたままのオルさんに向かって叫んだ。
「オルさん! オルさーーん!」
「黙らせろ」
「っ!?」
お腹に痛みを感じた後、そこでわたしの記憶は途切れてしまった。
次に気がついたとき、わたしは牢屋みたいな場所に閉じ込められていた。というか、本当に牢屋だ、ここ。
板でできたドアとレンガでできた壁。ドアの反対側の壁には上の方に、窓じゃなくてただの穴があって、そこに鉄格子がはまっている。
わたしは慌てて自分の着ているものや持ち物をチェックした。泊まる準備をしてきたリュックサックはなかったけど、オルさんからもらったマナの実と、伝書機は取り上げられずにちゃんとあった。
伝書機があるなら、飛ばせられる!
でも、誰に助けを求めるべき?
オルさん、それとも……他の誰か?
まずは、ソーダさんを呼んでみることにした。ガラスが嵌っていない窓なら、きっと助けに来てくれるはず。
でも、ドアの外に見張りがいたら……。
わたしは小さな声でソーダさんに呼びかけた。でも、返事がない。不安が押し寄せてくる。
「どうしよう……」
とにかく、わたしがここにいるってことを誰かに知らせなきゃいけない。ギースレイヴンにいて、しかも奴隷のひとたちに捕まってるってことは、あの王子のところへ連れて行かれるかもしれない。
そうなったら、わたし、血と心臓を取られちゃう!
伝書機はひとつだけ……つまり、誰かひとりにしか助けを求められない。なら、誰に助けてもらおう。
やっぱりオルさんかな。
それとも、精霊に力を借りられるアイスくんかな……。
オルさんが無事かどうかは……、わからない。
でも、きっと大丈夫だって信じたい。オルさんにこの伝書機が渡れば、返事も来るかもしれない。
アイスくんの方は、どこにいて何をしてるのかわからない。でも、ソーダさんはあのギースレイヴンの奴隷たちのいた村からは助けたって言ってた。きっとどこかで無事でいると思う。
わたしはどっちに伝書機を送るべきかな。
▶【オルさんに送る】
▷【アイスくんに送る】




