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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
170/280

分岐点 4

 村の上をぐるっと回って、ドーナツさんは降りるための場所を探していた。その間にも、人がたくさん出てきて、こっちを見上げて何か言っていた。ビックリさせちゃってるみたい。


 ゼリーさんと同じ、緑色の髪の毛をしたひとが多い。そんな中に、ドーナツさんと同じ緑色のマントに黒い鎧を身に着けたひとがいた。もしかして……ドーナツさんのお父さん!?


 当然、ドーナツさんもそのひとには気がついていた。だんだんと地面が近づいてきて、カップはゆっくりと着地する。ドーナツさんはカップのフチをヒョイと乗り越えて、腕組みをしてこっちを見ている人影に向かって走っていった。


「親父!」

「オル。どうやってここへ? 結界を抜けるすべを見つけたのか?」

「いきなりだな。もっと、こう……いや、それはいい。親父、先王陛下は? 一緒じゃないのか?」

「ここは漁をするための家だ、ほとんどの住人はちゃんとした家に住んでいる。もちろん、陛下もそこにいらっしゃる。詳しい話を聞かせてくれ」


 ……なんか、アッサリしてる。

 五年ぶりの、生き別れた親子の感動の再会じゃなかったの?


 っていうか、ドーナツさんのほうは何か言いたそうだったのに、お父さんひどくない?


「アスナ! こっちに来てくれないか?」

「あっ、うん、今行くね!」


 ドーナツさんに呼ばれて、わたしは自分だけの世界から帰ってきた。いけないいけない。


 ドーナツさんのお父さんを睨みつけちゃわないように気をつけて、わたしはカップから下りた。乗るときと同じように、横でドーナツさんが支えてくれる。


 ふたりでドーナツさんのお父さんに向き合って思ったのは、このひとすごく若いなってことと、すごく……冷たいひとだなって。そう思った。


 腕組みをしてわたしたちを見下ろしてくるドーナツさんのお父さん。まるで髪を黒く染めたドーナツさんが立っているみたい。双子かと思うくらいにソックリで、それでいて、色違いの瞳は青くて冷たい。このひとの周りだけ、一、二度下がってるんじゃないかっていうくらい、寒い気がする。


 ドーナツさんはわたしとお父さんを引き合わせると、紹介を始めた。


「親父、彼女はアスナ。陛下の婚約者候補で、精霊様と親交があるんだ。結界についてとか、そういうのは俺よりもアスナが詳しい」

「コーマ・フィンだ。フィンと呼んでくれればいい」

「はじめまして。わたしはアスナ、異世界から来ました。ジャム……陛下がシャリアディースと一緒にいなくなってしまって、同時に結界もなくなってしまったんです。わたしたちは、陛下の手掛かりを探してここへ……」


 わたしの言葉の途中から、お父さんの目がいっそう険しくなって、ぜんぶ言い切る前に怒り出してしまった。


「何だと! ジェム陛下がいなくなった? しかもあの宰相と一緒なのか! オル、お前……!」

「!」


 フィンさんは、ドーナツさんのマントの首のところをグイッと掴んで引き寄せた。


「いったい何をしていた? 不甲斐ない! 自分の主ひとり守れないとはな。そのための剣は渡しておいただろう! 何故あの男を斬り捨てなかった、オル! 臆したか!」


 どういうこと……?

 斬り捨てるって? シャリを、ってこと……?


 怒鳴り声に思わず体がすくんでしまったわたしと違って、ドーナツさんは逆にお父さんの首元を同じく掴み返して、怒鳴り返した。


「俺だってお側にいられれば躊躇なんかしなかったさ! 俺が近衛騎士になれなかったのは、親父が指名していかなかったせいだろ! せめて俺が騎士団に入るまで待てば良かったんだ!」

「……!」


 本気で睨み合うふたり。

 今にも殴り合いが始まるんじゃないかと思うくらい、ぶつかるような熱を感じた。


 でも、そんなことは起こらなかった。

 どちらともなく手を離して、ドーナツさんのお父さんは無言でどこかへ行ってしまった。ドーナツさんを厳しく睨みつけたままで。


「クソッ」

「あっ……」


 悔しそうに剣を地面に叩きつけて、ドーナツさんはお父さんとは別方向へ大股で歩いていった。


 地面に捨てられた剣。

 お父さんから託された剣だったのに……。


 置き去りにされた剣に、つい自分を重ねてしまう。



 ドーナツさんはどんな思いで、この五年間、過ごしてきたんだろう。


 どんな思いで、ジャムの失踪を受け止めたんだろう。



 追いかけなきゃって思う気持ちと、そっとしておいてあげたい気持ちとで、わたしの心は揺れ動いていた。


「どうしよう……」


 わたしは……


▶【剣を取ってドーナツさんを追いかける】

▷【ドーナツさんのお父さんを追いかける】

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