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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:オールィド
169/280

ドーナツさんとソーダさん

 ドキドキしているわたしの心を知ってか知らずか、ドーナツさんはまた、わたしの頭をグシャグシャと掻き混ぜて行ってしまった。もう、髪の毛!


 カップに乗ってしばらく進むと、結界に似た風の膜が見えてきた。その先には海。地図の方角とも合ってるし、風の膜を越えたらきっとすぐに村は見つかるハズ。


「撃ち落とされなきゃいいけどなぁ」

「えっ!? ど、どういうこと?」

「だって、上空を変な物が飛んでたら、とりあえず槍を投げて撃ち落とさないか?」

「…………」


 ヤダ、本気だこのひと。

 き、騎士って怖い……。


「じゃあ、降りて歩こうよ。そうしよ? ね?」

「結界のとこではそうするけど、その後はまたカップに乗るぞ。槍と矢には警戒するからさ」

「そう……?」


 ゼリーさんの村のひとが、好戦的じゃありませんように。


 そんなことを思っているうちに風の膜までやってきた。ドーナツさんはカップの高度を下げて、安全な場所へ着地させる。そしてわたしに残るように言って、ドーナツさんはひとり、風の膜の近くまで歩いていった。


 風の膜はほとんど透明で、空から見たときよりも地上に降りたほうが逆にわかりにくかった。ドーナツさんも手探りで触ろうとしてるみたい。


「気をつけて、オルさん! 危ないかもよ!」

「ああ。わかってる」

「危険な物なんかじゃないよ、ひどいなぁ」

「ソーダさん!?」


 どこからともなくソーダさんの声がしたと思うと、ドーナツさんがいきなり走ってわたしの方へ戻ってきた。そして、わたしが乗ったカップを守るように剣を構える。


「そこにいるのは誰だっ!」

「オルさん! 待って、そのひと、風の精霊だから! 大丈夫だから!」

「せ、精霊? でも、人間にしか見えないぞ……」


 えっ、そもそもソーダさんどこにいるの?

 ドーナツさんには見えてても、わたしからは見えてないんだけど。


「待って待って、とにかく一回落ち着こう? オルさん、剣をしまって」

「……わかった」

「ソーダさんも出てきて? わたしからはどこにいるのか見えないよ。あと、せっかく作ってもらった風の膜を悪く言ってごめんなさい」

「べつにいいさ。実はあんまり気にしてないんだ」

「そう。でも、ごめんね」

「はははっ、なら気持ちだけいただいておこうかな」


 そう言うと、ソーダさんは木の上から降ってきた。

 えっ、そんな所に!?


「シャリアディースの作った結界のように、特に攻撃が防げるわけじゃなし、今のところはただ見えてるだけの膜なのさ〜。何も危険じゃない代わり、あったところで何も防げない代物なんだよ」

「そうだったのか。いきなり剣を向けて申し訳なかった。俺は若枝の騎士、オールィド・ドゥーンナッツだ。あなたが風の精霊様なんだな」

「美味しそうな名前だよねぇ。どこかで聞いた気がするんだけど……」


 ソーダさんは首をひねって言った。

 美味しそうな名前……ドーナツさんだもんね。やっぱりそう思うよね。


「まぁ、いいや。私の名はソダール。でも、彼女は私のことを『そーださん』って呼ぶよ。精霊だからって固くならないで、気楽にして。名前もソーダさんでいいからさ」

「そういうわけには……」

「いいんだよ。肩肘張ってちゃ人生楽しめないからね。というわけで、ここで一曲……」

「いらない。ここ通っていい?」

「かなし〜み〜の〜〜」

「はいはい。歌わなくていいから」


 わたしがバッサリ切り捨てたら、悲しげにギター鳴らしながら歌い始めちゃったからもう一度切り捨てておく。ソーダさんもただのパフォーマンスだったのか、すぐにやめてこっちに笑いかけてきた。


「手厳しいなぁ。もちろん好きに通っていいとも。止めやしないし、特に何事もなく通り抜けられるよ」

「ありがとう。ソーダさんも一緒に来る?」

「いや、やめとこう。ジェロニモがやってくる気がするんだ」

「当たり! ゼリーさんは今、調査団の馬車を連れてこっちに来てる途中だよ」

「ならやっぱりここで待ってるよ。ギターを弾きながら、ね」


 ソーダさんはそう言って、木の根元に腰掛けてギターを弾き始めた。わたしもドーナツさんも、もう一度カップに乗り込む。ドーナツさんは小声でわたしに「精霊って変わってるんだな」ってささやいた。


 そうなのかな。

 わたしの知ってる精霊は、ちっちゃい子とウサギとソーダさんだけ。ソーダさんが飛び抜けて変わってるひとだとは思うけど、他は判断できないや。


「それじゃあ行くね。バイバイ」

「アスナ、また会う日まで〜」

「うん。あ、そうだ。わたし、ソーダさんのギターの音色、好きだよ!」

「おお……! これは身に余る光栄!」


 ソーダさんは立ち上がって、まるで演劇の役者さんみたいに帽子を胸に当ててわたしに向かって礼をした。サラサラっと緑色の髪の毛が流れる。もう、大げさなんだから。


「やっぱり変わってるな」

「そうだね」


 わたしたちは顔を見合わせて笑った。





 風の膜を越えると、森の向こうに岩山が迫ってきた。草も生えてない、本当に岩でできた山だ。……ってコレ、馬車で越えるの無理じゃない?


「オルさん、コレって……」

「高度を上げよう。こんな岩山、トンネルでブチ抜かないと馬車はダメだろうな。馬なら……いや、馬もちょっと。やれないことはないかもしれないが、無理させたくない」


 むしろ馬で越える気だったことに驚きだよ。

 何で越えられると思ったの。無理すればやれるみたいな言い方してるけど、やれないから。無理なものは無理だから。


「カップで来て良かったのかもね」

「だな。ほら、もう越えるぞ」


 ぐんぐん高く上って行って、パッと視界が開けた。下には海と砂浜。そして、本当に村があった!


「すごい! 海が見えるよ!」

「本当に、あったんだな……」


 わたしは思わずドーナツさんを振り返った。

 真剣な表情で前を見据えているドーナツさん。声が少し震えていて、何かに感じ入っているみたいだった。


 ドーナツさんはあの村で、ジャムの手がかりを見つけたいと思ってる。でも、もしかしたら、他のものも見つかるかもしれないんだよ……。


 ジャムのお父さん、そしてドーナツさんのお父さんが、いるかもしれない。


 人間の魔力を奪ってしまうシャリアディースの結界、それに触れたら魔力どころか命まで奪われてしまう。でもどうか、無事に抜けていて、生きていてほしい!


「じゃあ、降りるぞ」

「うん……」


 わたしはそっと、カップを操作する水晶球に置かれた手に触れた。ドーナツさんはちょっと驚いた顔をして、わたしの手を握ってくれた。

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