おでかけの準備
ドーナツさんとゼリーさんは、その宣言通りサッと着替えて戻ってきた。髪の毛はちょっと湿ってるけど、水浴びしてサッパリしたみたい。
「よっ、おまたせ、アスナ。迎えに来てくれてありがとな」
「どういたしまして〜。ティールームで先生がお茶を淹れて待ってるよ。ふたりとも、ホントにお疲れさま!」
「これくらい軽い軽い。それに、俺たちは力仕事でしか役に立てないもんな」
ドーナツさんが力こぶを作って見せながら笑う。って言っても、鎧で見えないんだけどね。ゼリーさんも同意するように、いつもの無表情のままで頷いていた。
「だからさ、明日は別行動しようと思ってるんだ」
「えっ?」
「俺はジェロニモと一緒に行く。ギスヴァイン先生の手伝いをしたいとこだけど、どう考えたって迷惑にしかならないもんな」
「そうなの」
わかっちゃいたけど、本当に体育会系なふたりだ。確かに、ここから先の地味で根気のいる作業は、わたしにもちょっと無理かなって思ってたもん。ドーナツさんは続けて言う。
「アスナも行こうぜ」
「わ、わたしも? いいの?」
「おう! 行くメンバーはジェロニモ、俺、それにあと何人か調査のために着いてくるらしいんだ。ジェロニモと俺が馬で先行する予定だけど、アスナは後から馬車で来ればいい」
「ん〜、わかった。わたしは馬には乗れないもんね。何を用意していけばいいの?」
「泊まりの予定だから、必要なものとか詰めとくといいぜ」
「は〜い」
そこへ、ゼリーさんが珍しく話に入ってきた。
「ヴィークルを使えばいい」
「えっ?」
一瞬、何のことかと思ったけど、アレだ! 魔力で動く遊園地のティーカップ! あの乗り物を使えって?
「そっか。あれなら地上の障害物なんか関係なく、好きにどこにでも行けるし、上からなら探すのも楽だな。ナイスアイディア、ジェロニモ!」
「けど、あれって何人も乗れないよね……」
「なら、俺とアスナだけで行こうぜ。家に使ってないヴィークルがあるんだ。ちょっと整備すればすぐ乗れるし。元々俺とアスナは調査団の数に入ってないから、怒られたりはしないだろ」
「そうなの?」
「おう。な、ジェロニモ?」
「ああ。村の方向だけは教えておく」
ゼリーさんは頷くと、わたしたちに背中を向けてティールームの方へ歩き出した。ドーナツさんがわたしの肩をポンと叩く。
「ありがとな、アスナ。ふたりなら、交代で魔力を入れて日帰りできる。予定よりかなり楽になるよ」
「そうなんだ。役に立ててよかった!」
わたし、魔力ならたくさんあるもんね。たった1パーセントしかないときに「普通の成人男性と同じくらい」って言われたんだから。
「じゃあ、明日の朝、寮の前まで迎えに行くな」
「は〜い。あ、あと、わたしオルさんに聞こうと思ってたことがあって」
「ん? なんだ?」
「精霊を呼び寄せるっていう、剣のこと……」
オルさんはビックリした顔をして、腰の左側に提げてある剣に手をやった。
「これか。いいぜ。でも、長くなるからそれは明日話そう。これは、親父が俺に託していった剣なんだ」
「そっか……。わかった。明日の朝、お弁当作って待ってるね」
「マジか! やったぁ!」
ドーナツさんが嬉しそうに笑う。まるで子どもみたい。
ちょっと張り切っちゃおうかな。
その日は、お茶をいただいた後ですぐ解散になった。わたしはキャンディにつきあってもらって、明日のお弁当の材料を買ってから帰った。キャンディはふくれっ面だったけど、そんな顔されてもなぁ〜。
ちなみに、その話をしたら蜂蜜くんもふくれっ面になっちゃった!
「なんであんなヤツにお弁当なんか〜〜!」
「あんなヤツって……。もう、そんなにお弁当ほしいの?」
「ほしい! でもそういう問題じゃないんです〜〜」
じゃあどういう問題だよ。
「とにかく〜、ふたりきりで行くなんてやめたほうがいいと思うんですよね〜」
「なんでよ。それにもう約束しちゃったし」
「まったく、アスナさんは何の相談もなく〜」
「え〜?」
そこ、怒られるとこ〜?
「まぁ、その話自体はいいんですよ。今まで行けなかった場所に行けるようになったんですから。……結界が消えて、海岸に出られるようになったってことは、この島を出ていくことも可能になったワケですよね〜。ボクも行ってみましょうかね」
「えっ、一緒に来るの?」
わたしの言葉に、蜂蜜くんは一気に不機嫌な顔になった。ジト目でわたしを見てくる。
「ふ〜ん? ボクが一緒に行ったらダメなんですかね? そんなにふたりきりになりたいですかぁ?」
「そんなことは言ってないでしょ。蜂蜜くんはドーナツさんのこと好きじゃなさそうだったから聞いてみただけだよ」
「へ〜ぇ。そーなんですか〜」
「ちょっと、蜜」
ヤな言い方!
「まぁ、いいですけどね、べつにぃ。ボクは後から出る馬車に忍びこんでついて行くことにしますよ」
「見つかって怒られない?」
「そんなヘマしませんよ〜」
まったく、蜂蜜くんってば、わたしを怒らせるようなことばっかり言うんだから。しかも、お弁当の中身はちゃっかりリクエストするし。でも仕方がないから、蜂蜜くんの分も作ってあげることにする。甘い卵焼きにタコさんウィンナーにプチトマト。それから、ピーマンのひき肉詰めにマカロニサラダでいいかな。
「それじゃ足りないんで、ガッツリからあげ詰めたヤツも持たせてくださいね」
「え……蜜ちゃん肉食……」
「当たり前でしょう」
だって、普段の寮の食事だと、少食だしサラダとかばっかり食べてるのに……。ちょっと、ビックリ。
「演技コワイ……」
「うるさいですよー」
からあげかぁ。
ドーナツさんも、からあげ好きかな。買ってきた材料じゃ足りなさそうだから、朝起きたらアガサさんにもう一回相談しよっと。




