作業は順調!
ノーマルルート第68部【ルート分岐 1】より
わたしたちは、エクレア先生の実家で作業を始めた。でも、絶対に上手くいく気がしない。だってまるで学校の図書室並に本があるんだもん!
「これ、終わるのか……?」
と、ドーナツさんが絶望的な顔で呟く。どんな敵にでも勇ましく向かっていきそうなドーナツさんが、まさかこんな表情しちゃうなんて……!
「手を、動かしましょう。まず、ジェロニモとオールィドさんは本棚から本をすべて下ろしていただけますか?」
「えっ、これ全部……?」
「どうせ今日中には終わりませんから、出来る限りで結構ですよ。アスナさんとアーシェイ君は、下ろしてもらった本に何か別の物が挟まっていないか、書き込みがないかを確かめてください」
「はい、先生」
「わかりましたわ」
「私は目録と本を比較し、おかしな所がないかを探します。お祖父様のことですから、わかりやすい場所に手記を置いておくとは思えません。しかし、紙類を保管するのには、やはりここが一番ですから、まずはここを制覇するのが近道かと思います」
木を隠すなら森の中って言うしね、本を隠すならやっぱ本の中だよ。タイトルと中身が違うかもしれないし、目録にない本があったりするかもしれないし。
よ〜し、やるぞ〜!
「って、思ってた時期がわたしにもありました〜」
「アスナ、口より手を動かしなさいな」
「へ〜〜い」
わたしは今、別室で本の中身を調べている。その横ではキャンディが同じ作業を、少し離れたところではエクレア先生が自分の作業をしている。
あの図書室、さすがに全部棚下ろしするとなると埃の量もすごくなるんだよね。だから、窓全開にして力自慢ふたりが大奮戦してるとこなの。
「先生、この確認作業が終わったら、次はどうするんですか?」
なんて、今の作業が終わる目処すらついてないのに聞いてみる。隣のキャンディが呆れたように首を振っているのは見ないフリ。
「そうですね、とにかく、すべて調べて書き込みや手書きのメモを見つけ出します。お祖父様ならきっと、どこかに手記を残したはずなんです。ただ、政治的に表に出すつもりはなかったと思うので……」
「隠しちゃったってことなんですね」
「ええ。明日から本格的に探しますよ。弟にも、手伝ってもらおうと思います」
「それがいいですよ!」
「ただ、ジェロニモはこういう作業に向かないので、彼は彼で行動してもらおうと思っています」
「それって……」
「ええ。彼の生まれた村への道を、探してきたらどうかと言いました」
そっか、別行動になっちゃうんだ……。
「適材適所ですよ。アスナさんは、明日の予定はどうなっていますか? もし良ければ、このまま手伝っていただけるとありがたいのですが」
「わたしですか? ん〜、正直、わたしもこういう作業は向かないんですよね。キャンディは?」
「私、明日は父を手伝うことになっておりますの」
「じゃあ無理かぁ。だったら、わたしは……」
▷エクレア先生を手伝おうかな
▷ゼリーさんと一緒に行こうかな
▶ドーナツさんとお話しようと思ってたんだよね
▷蜂蜜くんに聞いてから考えようかな
▷アイスくんに会いたいな
▷ソーダさんに会わなくっちゃ!
そうだなぁ。……そうそう、そういえば!
わたし、ドーナツさんに聞きたいこととかあったんだよね。
ドーナツさんが持ってるっていう、精霊を呼び寄せる剣について。もしも精霊を好きに呼べるってことなら、コンちゃんやソーダさん以外の精霊にも会えるかもしれない。
「ごめんなさい。わたし、自分の調べ物したくて。ドーナツさ…、オルさんと話をしてから決めます。オルさんの持っている剣が、わたしにとって重要かもしれないんです」
「オールィドさんの持つ剣がですか?」
エクレア先生が不思議そうな顔をした。キャンディも首を傾げてるし、あまり知られてないものなのかも?
「後で直接聞いてみます」
「いえ、もうこれでこの作業も切り上げましょう。ティールームでお茶を淹れておきますから、ついでにそのことをお伝えくださいますか?」
「はい、先生」
わたしはドーナツさんたちの作業している図書室に行った。声をかけて中を覗くと、誰もいない。その代わり、本棚の中はすっかり空っぽだった。とっくに仕事は終わらせてたみたい。
「ありゃりゃ、入れ違いになっちゃったかな」
図書室の窓は開いていた。真っ白いレースのカーテンが風を受けて大きく膨らんでいる。ふと、窓の外に誰かいる気がして近づいてみた。ここは一階だし、もしかしたら仕事を終わらせたドーナツさんたちがいるのかもしれない。
バシャン!
急にバケツで水を思い切り撒いたような音がして、わたしは窓に駆け寄った。何の音だろう。でも、そこには、なんと……パンツ一枚で水浴びしているドーナツさんとゼリーさんの姿が!
「あっ……! ご、ごめんなさい!」
すぐにしゃがんで凝視はしないようにしたけど、これじゃわたし、まるっきり覗き魔だよぉ!
あ~~、失敗したぁ!
「アスナ? ごめんごめん、ビックリさせちゃったな」
「ううん! わたしこそごめんなさい!」
しゃがんだままでそう答えると、窓の軋む音がした。恐る恐る上を見ると、ドーナツさんが窓枠に身を乗り出してこっちを見下ろしていた。
「そっちが終わったから呼びに来てくれたんだろ? すぐ支度する。待っててくれ」
「う、うん……」
わたしの返事にドーナツさんは笑った。
エメラルドみたいな瞳がキラキラしてる……。
ドーナツさんはすぐに引っ込んでいったけど、わたしの心臓はしばらくずっとドキドキが止まらなかった。




