世界の架け橋
▶【アイスくんとこっちの世界で生きていく】
わたしは……、アイスくんとこの世界で生きていきたい。
この世界には、わたしやアイスくんの力を必要としているひとたちが、まだたくさんいる。クリームくんは大丈夫って言ってくれたけど、きっとあれは、わたしたちを安心させるための言葉だと思う。
女王さまの体のこと、疲弊して魔力の枯渇した土地のこと、それから奴隷を解放することによって起こる混乱、外国とのやり取り……。
特に、ギースレイヴンが侵略してきた土地の人々とは、難しい話し合いになるんじゃないかな。全部の国とは無理だけど、せめてジルヴェストとの交渉なら、わたしも少し役に立てると思う。
わたしはこの世界で、やりがいを見つけた気がするの。
精霊の力をあんまり頼りにするのは良くないけど、それでも、精霊に匹敵するくらいのこの魔力なら、いくらだって使えるから。
それに、アイスくんと一緒に世界を回ってみたい。
もっともっと、この世界の素敵なところを、アイスくんと一緒に見つけたい。悲しい思い出を幸せな記憶で塗り替えて、アイスくんに、この世界を好きになってほしい。
わたしが、わたしの世界を愛しているのと同じくらいに。
「……キョウさん、わたし、ここに残る。この世界でアイスくんと一緒に生きていく。だからお願い、わたしの世界に荷物を届けてほしいの」
『アスナの、荷物を?』
「そう。わたしのカバンごと。中にこの手紙を入れて、届けたいの」
『いいよ。任せて!』
ここに来る前に書いておいた、家族への手紙をカバンに入れる。お父さんと、お母さんへの手紙を。
「今まで本当に、ありがとうございました……。親不孝な娘でごめんね。わたし、幸せになるからね……!」
泣くもんか、って思ってたのに、カバンのジッパーを閉めるときに、涙がポロポロとこぼれてきてしまった。自分で決めたことだけど、やっぱり……。
『……泣くといいよ。涙は心を癒やしてくれる。つらくって当たり前だ。二度と家族に会えないんだから』
「うっ……! ううっ……うわ〜〜〜ん!」
『よしよし……大丈夫、きみは独りじゃないよ』
泣くわたしに、キョウさんがずっとついていてくれた。
次の日、わたしはアイスくんにキョウとのことを話した。
アイスくんは黙ってわたしの話を聞いてくれて、ただ頷いてわたしの選択を受け入れてくれた。
「相談しなくて、ごめんね……」
「ううん。いいんだよ。アスナさんに決めてって言ったのは僕なんだから。だから、いいんだ。『本当に良かったの?』なんて聞かない」
「うん」
それって、口に出しちゃったら意味ないんじゃない? なんて、ちょっぴりクスッとしちゃった。
「幸せになろう、アスナさん」
「うん!」
差し出された手を握る。
ここからがきっと、わたしの新しい人生なんだ。
そんな、何だか感動的な空気を破るように明るい声が降ってくる。
「やっほ〜! アイス〜! アスナちゃ〜ん!」
「クッキーくん! やだ、何か前よりさらにちっちゃくなってない?」
わたしたちの上からゆっくり降りてきたクッキーくんは、三歳児の姿からさらに縮んでいた。保護者みたいにその後ろに控えるマカロンさんは、逆に大きくなったままだ。
「えっへへ〜、あのね、今ボク療養中なの〜! これ以上はホントにホントにダメって〜!」
「そうなんだ。力を使わなければ大丈夫?」
「うん! カロンが見張ってんの!」
「あはは。マカロンさん、お疲れさま」
「……いや、特には」
あれっきり姿を見せなかったクッキーくんたちだけど、無事で本当によかった。マカロンさんが見張っててくれるなら、クッキーくんがウッカリ精霊堕ちすることもないね。
「それで、今日はどうしたの?」
「ふたりの結婚式の準備のお手伝いに来たんだよ〜」
「結婚式!?」
えっ、ナニソレ初耳!
アイスくんも……不思議そうな顔してるなぁ。
「じゃあ、ボクら行くね!」
「えっ、うん……」
わたしたちは顔を見合わせた。もしかして、サプライズのネタバレ聞いてしまったのでは……?
「なんか企んでるな、これは。……しばらくはふたりっきりになれそうにないね」
「そう? 今はふたりっきりだよ」
「……アスナさん、それわざと? 僕まだ骨折治ってないのに……」
「あはははは!」
「アスナさん〜〜! まったく……」
アイスくんの恨めしそうな声についつい笑っちゃう!
しかめっ面のアイスくんも、わたしにつられて笑いだして、わたしたちはしばらくふたりでお互いの肩にもたれるようにして座っていた。
それから、わたしたちはギースレイヴンのお城で結婚式を挙げて、本格的にクリームくんのお仕事を手伝い始めた。シャーベットさんやシフォンさん、コンちゃんやソーダさんたちともかなり密に連絡を取ってる。
っていうか、色んなとこへ運んでもらう代わりに、精霊たちの便利屋として買い物代行とかを始めたんだよね。それがそのうち人間相手にもやり始めちゃって、わたしたちってば大忙し!
もちろん、いつも精霊たちの力を借りるわけにいかないから、思い切って船や飛行船を買っちゃったんだよね〜!
船にも飛行船にも、精霊たちがすぐに遊びに来られるように、ランプを灯したり専用のお水や土の入ったプランターを置いたりしてる。もちろん、キョウさんとお話できる鏡もね。
「アスナさん、飛び立つ準備ができたよ」
「ありがとう、アイスくん! じゃあ、行こう」
「空の旅は久しぶりだね。……ようやく、ふたりきりだ」
アイスくんがわたしの後ろから腰に手を回して抱きしめてくる。ふたりきりだけど……運転しなくちゃだよ? それに、いつシャーベットさんやシフォンさんが遊びに来るかわかんないのに。
わたしがそれを言う前に、アイスくんがクスリと笑って言った。
「大丈夫。今日だけは全部下ろしちゃったし、ルキックはカロンが見ててくれるし、運転はソダールがやってくれるって言ったから……」
えっ、なにその用意周到さ!
もしかしてわたし、ハメられた?
「最近、ぜんぜん構ってくれなかったよね? 寂しかった……」
「それは仕事が……」
「言い訳はダメだよ? 僕はいつだってアスナさんを独り占めしたいんだ。だから今日は離してあげない。目的地につくまで時間はたっぷりあるから、たくさん甘やかして……」
「もう、しょうがないなぁ、アイスくんは。じゃあ、こっち向いて」
「!」
アイスくんの顎に指を添えてキスすると、真っ赤な瞳が真ん丸の飴玉みたいになった。それはすぐに甘く溶けて、たくさんのキスがわたしを包み込む。
これからもずっと、わたしの居場所はアイスくんの腕の中。
異世界ハッピーエンド!
『世界の架け橋』




