最後の選択
そんなわけで、わたしたちはクリームくんのお客さんとしてお城に滞在しながら、色んなことを処理していった。
まずは王都にいる星詠みの一族のことから。わたしたちは星詠みの一族の皆を集めて面談することにした。彼らの首輪を外して、新しい土地で暮らすか、王都に残って他の奴隷のひとたちと同じ待遇で暮らすかを選んでもらう。ほとんどのひとは新しい土地で暮らすことを選んだけど、一部のひとは王都に残った。
それから、ソーダさんに協力してもらって一族の皆をキャンプ地まで送り届けた。ようやく家族と再会できて、皆とても喜んでいた。もちろん、シュガーちゃんも。
首輪の権利はアイスくんが一時的に引き継いでいたから、そのおかけで全員の首輪を外すことができた。皆が笑顔になって、本当によかった。わたしも自分のことみたいに嬉しかった。
そこからは野外バーベキューパーティーな感じになった。食べたり飲んだりしながら思い思いに固まって話していると、申し訳なさそうな表情のシュガーちゃんがやってきて、ピョコンと頭を下げた。
「王様、アスナ……ごめんなさい。アタシ、ひどいこと言っちゃったよね」
「ううん。そんなことないよ。いっぱいいっぱいになっちゃってただけだもんね。ちゃんとわかってくれて嬉しいよ」
シュガーちゃんはわたしに抱きついてきて、何度も謝ってくれた。あの後、キャンプにいた大人と話をして、シュガーちゃんは自分の考え方が間違ってたことにちゃんと気づくことができたって。
こういうとき、しっかりした大人が側にいてくれることって、やっぱりありがたいんだなぁと思った。わたしだったら、上手く説明できなかったかもしれないもん。あのときは、わたしの方がすごく動揺しちゃってたから。
最後に、アイスくんは全員を集めて言った。
「皆、聞いてほしい。僕は……僕は王にはならない。貴方たちを導くことはしない」
ザワザワするひとたちを前に、アイスくんは続けた。
皆を見回して、ゆっくり、ハッキリ話していく。
「僕は、貴方たちと出会うまで、家族のことは何ひとつ知らなかった。同じ一族の人間とも引き離されて育って、自分が星詠みの一族という自覚もない。こうして貴方たちと出会えたのも偶然だし、貴方たちを助け出せたのも、僕だけの力じゃない。
自由になった今、貴方たちを導く本当のリーダーは、一緒に辛い時代を耐えた人がなるべきだ。それを貴方たちで決めてほしい。それぞれ、不安や不満があると思う。でもどうか、ギースレイヴンへの恨みを、復讐という形にだけはしないでほしい。これからの未来を生きてほしい。それが僕の願いだ。他には何も望まないから、だから、皆、元気で……さようなら」
星詠み一族の皆はとても残念がって、引き留めてくるひともいたけど、最後には納得してくれた。
「貴方たちは恩人です。またいつでも遊びに来てください。大歓迎しますよ」
「アスナ、アスナがいなくなったら寂しいよ!」
「俺たちのこと忘れないでね!」
「勉強もがんばるね!」
子どもたちともお別れをする。わたしは涙が出ちゃったけど、子どもたちは結構平気そうに笑ってる子が多かった。「楽しかったね」って、お別れできるのはいいことだよね。
そして、お別れといえばジルヴェストの皆だ。
わたしはまず、わたしとアイスくんの伝書機に思いっきり魔力を込めた。片方は空っぽのまま、返信用の伝書機にしておく。それを、わたしの声を入れた伝書機に持たせてキャンディのところへ飛ばしたの。
それからしばらくして、伝書機は帰ってきた。今度は別の伝書機と一緒に。
わたしがお店で買った伝書機は市販品だったんだけど、新しく届いたのはもっと高性能なヤツだった。これは、きっとあれだね、国の仕事用のヤツだね。
メッセージを再生すると、懐かしいキャンディの声が耳に飛び込んできた。
『アスナ、元気そうで本当によかったわ。今、とてもホッとしているの。嬉しいニュースをありがとう。これを機会にギースレイヴンとの対話も交流も進んでいくことになるし、楽しみだわ。
アスナがここを離れてからのことは、手紙にすべて書いたわ。よかったら目を通してね。それから、アスナの選択についてだけど……。とても遠い距離を、何度も移動できるわけじゃないのはわかっているわ。それに、その手段が確実でないこともね。だから、無理は言わない。どうか、元気で……幸せになってね。それが私たちの願いよ。さようなら、私の親友! アスナ!』
「キャンディ……!」
最後の方なんか、涙声になっちゃってて、何度も何度も言葉が引っかかってて…………。わたしも、涙でグシャグシャになりながらそれを聞いてた。
会いたい……!
キャンディや、チョコや、キャラメルや……ジルヴェストの皆に!
わたしは選ばなきゃいけない。
自分の家族か、それともこっちの友だちか。
ほんの少しの間しかいなかったのに、向こうでの十七年と同じくらいに大切な時間になった。
アイスくんと生きていくのは、どっちの世界であるべきなんだろう。それをずっと考えていて、ようやく答えが出た。
わたしは、ずっと肌身離さず持っていた手鏡を握った。時の精霊、キョウと繋がっている鏡を。
「キョウさん、起きてる? わたし、アスナ。少し話せるかな……」
『もちろんだよ。こっちにおいで、お嬢さん』
からかうようなキョウさんの声がして、わたしは鏡の中に吸い込まれた。上が下に、下が上になるような変な歪みを感じて目を瞑る。もう一度開けたら、そこは満点の星空の下だった。
『やっほー、アスナ。覚悟が決まったみたいだね?』
「覚悟っていうか……。アイスくんと一緒にわたしの世界へ帰れるのかどうか、ちゃんと聞いておきたかったの。あと、わたしが帰らなくても、たとえば、荷物だけ向こうに送れるのかな、とか……」
『なるほどね! じゃあ、教えてあげよう。アイスシュークを連れて帰ることは、可能だよ。彼は魔力が高いから、はぐれる心配もないだろうし、アスナが望んだ時間軸にちゃんとふたりで帰してあげられる』
「そっか……。ありがとう、ホッとした!」
わたし、アイスくんと一緒に戻れるんだ!
よかった〜! ダメって言われたら諦めるしかなかった!
『それと、荷物に関しても大丈夫だよ。アスナの魔力を使って穴を開いて、荷物を届けるよ』
「そう。わかった、ありがとう」
『じゃあ、答えを聞かせて。アスナはどうしたいんだい?』
「わたしは……」
わたしは、
▶【アイスくんとこっちの世界で生きていく】
▷【アイスくんと元の世界に帰りたい】
◎アイス君
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【名前】アイスシューク
【性別】男
【年齢】15
【所属】ギースレイヴン国
【職業】精霊の巫
【適性】魔法使い
【技能】《氷魔法》《農業》《繋ぐ者》
【属性】不憫
【備考】お父さんの名前はヴァニーユさん
☆ ☆ ☆
☆『結界を越えて行き来する方法を知っている』
☆『クリエムハルトの異母兄』
☆『星詠みの一族の王である』
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エンディングはニ種類あります。
異世界エンドはすぐ次のページに。
現実エンドはその次のページに。
お好みのエンディングをお楽しみください。
次はドーナツさん、オールィドのルートになります。一週間ほどお休みをいただき、連載していきたいと思います。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。




