選ぶのはわたし
ええい、いつもギターと一緒に現れる!
クリームくんも女王さまもビックリしてるじゃないの。
「いきなり現れるからビックリしたよ。ひとつ聞いてもいい? このちっちゃい子に関してなんだけど、ソーダさんの子?」
ソーダさんは女王さまの近くにいる、ちんまりした掌サイズの子を見て目を丸くした。
「ああ! これは風の妖精だよ。王に頼まれてコッソリ作ったんだ。頑張ってるね~」
「えっと、どういうこと? 王さまってどこの王さまのことかな」
「ヴァニーユだよ。彼女の呼吸が楽になるようにってさ。役に立っているようで何よりだよ」
ソーダさんの言葉に、三人ともすごく心を動かされたみたい。アイスくんたちのお父さんは、自分の一族を人質に取られてはいたけど、女王さまのこともちゃんと好きだったんだね。よかった。
「ヴァニーユ……」
旦那さんの名前を呼んで涙を流す女王さまを、クリームくんとアイスくんが両側から支えていた。そんな、しんみりした空気をソーダさんの明るい声が台無しにする。
「カロンがさ〜、女王はもう長くないって言ってたんだけど」
「っ!」
あ、待って、クリームくん抑えて!
なんか続きがあるっぽいから!
「空気は順調に綺麗になってるし、変な魔力の弄くり方やめたら、その体、回復するんじゃないかなぁ」
「……変な魔力の弄くり方とは?」
「えっと、きみ、誰だっけ? まぁいいや。この国、そもそも魔力が少ないだけじゃなくて、変な経路採ってるよね? しかもたったひとりでそれを管理するなんて、むちゃくちゃになるに決まってるよ。カロンがそう言っていたからね」
やだ、ソーダさんがむちゃくちゃマトモなこと言ってる。半分くらいマカロンさんの受け売りだけど。難しい顔をして黙り込むクリームくんに、アイスくんが説明を始める。
「風の精霊ソダールの言う不自然な魔力の流れというのは、おそらく隷属の首輪のことだと思う。これは女王陛下がほとんどおひとりで管理しているんだったよね?」
「そうだ。……代々の王が短命と言われていたのには、こういった理由もあったのかもしれないな」
えっ、首輪をつける側の女王さまも、そのせいで命を削ってるの!?
「じゃあ、早く首輪を外さないとだよね。そしたら、女王さまの体調も良くなるよ、きっと!」
わたしの言葉に、アイスくんもクリームくんも頷いた。でも、肝心の女王さまが反対した。
「ダメだ」
「えっ」
「そんなことをすれば民の反発を招く。首輪を外すなら、妾は死なねばならない」
「な、何言ってるんですか? そんなのおかしい!」
「妾の圧政を、クリエムハルトが解放するのだ。内側からの改革、そう見せねば今度はクリエムハルトの命が危うい……。もう妾の命は風前の灯火、それならば、息子のためにこの身を捧げよう。民の前で妾の首を落とし、愚かな女王の治世を終わらせるのだ……!」
そう言うと女王さまは激しく咳き込み始めた。すぐにお医者さんたちが駆けつけてきて、わたしたちは追い出されてしまった。
三人でティールームに移動して、お茶を飲みながらさっきのことについて話し合う。
「あんな、悲しいこと……絶対にさせちゃ、ダメだよね」
「心配するな。やり方はいくらでもある。絶対に誰の血も流させるものか……!」
「クリームくん」
クリームくんの瞳は決意に満ちていた。
うん、きっと、大丈夫なんだね。だって落ち着いてるもん。自分が身代わりにとか、そんな風には考えてなさそう。
「よかった。勝算があるんだね」
「当たり前だ。常にいくつかの策を考えている。……それより、お前たちだ」
「えっ?」
「さっさと行き先を決めろ。邪魔だ」
アイスくんが悲しそうに肩を落とす。
「邪魔って……」
「ちょっとクリームくん!」
「うるさい! ごちゃごちゃ言ってるとお前らふたりとも一生俺様の道具としてこき使うぞ!」
「ヤダ〜!」
暴君だよ、暴君!
クリームくんのバカぁ!
「そこまで、言うなら……。僕も覚悟を決めるよ」
「アイスくん?」
まさか、一生クリームくんの奴隷に……!?
バカなことを考えるわたしの前に、アイスくんが進み出てきて片膝をつく。わたしの左手を取って、アイスくんは微笑んだ。
「アスナさん、僕と……一緒に生きてくれませんか。たとえどこへ行こうと、一緒にいたい」
「アイスくん……」
「貴女を愛してる。だから、側にいさせてほしい」
薬指に落とされるキス。
わたしは心から深く頷いていた。
「もちろん! こちらこそ……よろしくお願いします」
「アスナさん!」
「きゃっ」
アイスくんはサッと立ち上がったかと思うと、わたしをいきなり抱き上げた。細いのに意外と力が……って、鎖骨!
「あいたたた……」
「もう! 何してるの!」
「嬉しくて、つい」
「バカなんだから、もう……」
アイスくんの真っ赤な瞳が嬉しそうに緩む。ついついいつものクセでキスしてたら、小さな咳払いが聞こえた。いっけない、クリームくんもいたんだったや。
「すっかり仲良しで結構なことだが、後にしてくれ」
「ごめんよ」
「ごめんねっ」
「貴様ら実は反省してないな? まぁいい。結局、どこへ行くんだ? 見送りくらいさせろ。あと、ちゃんと支度は整えて行け」
「ありがとうクリエムハルト。アスナさん、どうする? 僕はアスナさんにお任せするよ」
「えっ!」
わ、わたしが決めるの!?
「僕なんか、どこへ行くにも拘りなんかないからね。挨拶回りとかはさせてもらうかもしれないけど、それはアスナさんだって同じだろうし」
「どこへ行きたいか……」
「元の世界に帰るか、それとも、この世界のどこかで暮らしていくか」
わたしが、どこへ行きたいか……。
心臓の動きが早くなってきた。どうしよう、すぐに答えなんて出ないよ……。
「少し、考えさせてくれる……?」
「もちろん。僕もまだ王都でやることがたくさん残ってるし。どこへ行くにしても、お別れしたいでしょう?」
「うん……」
「しばらくはここにいろ。答えはそれからで構わんだろう」
「なんでクリエムハルトが締めるのさ……」
「お前が不甲斐ないからだろ」
「そんなぁ」
ふたりのやり取りについ吹き出しちゃう。もしかして、わたしの緊張をほぐしてくれてるのかな?




