レジスタンスの解放
クリームくんの軍が帰る準備を終えて、戦車に乗り込むとき、わたしは最後に声をかけた。
「またすぐ会えるよね? わたしたち、すぐ、帰ってくるから!」
「心配せずとも協力はする。私はもう魔力も失って名ばかりの王子だ。明日の自分の身すら危ういのに、今さら別の手段を使って奴隷たちを虐げたりするものか。それに、私の力なんかなくたって、王都にいる仲間を救う手立てはあるのだろ? なら、焦る必要はないはずだ」
わたしの言葉に、クリームくんは皮肉っぽく笑った。それにしても、最初の噛みつくような勢いがなくなってから、クリームくんは本当におとなしくなった。ずっと自分のことを「私」って言ってるし、すごく落ち着いた喋り方をしている。もしかして、こっちの方が素なのかな?
年齢よりも小さく見えるのに、表情だけは大人びてて見えて、それが少しだけ悲しかった。
「クリエムハルト、気をつけて……」
「わかっている」
アイスくんはとても心配そうに声をかけている。「一緒に行こう」って説得していたし、ひとりで宮殿へ帰らせたくないんだと思う。
でも、クリームくんはそれをキッパリ断っていた。「お互いにやるべきことがあるだろう」って。
「では、またな」
「クリームくん! あのね、わたし、上手く言えないけど……、きっと大丈夫だよ」
「…………」
「わたし、魔力をたくさん分けるし、この土地もきっとすぐに良くなるよ。工場は止まるから、その分、魔力の回復は早まるはずだし!」
「……どういう意味だ?」
「これは風の精霊の受け売りなんだけど、空気が汚れ過ぎてると、それを綺麗にするのに魔力を使ってしまうんだって。それで、魔力がなくなってくると汚れに弱くなっちゃうの。悪循環。だから、汚さないでいられるなら、その方がいいんだよ。わたしはそう思う」
「…………」
クリームくんは目を見開いて固まってしまった。そして、悲しそうな、悔しそうな表情になる。わたしは、まさかそんな顔されると思わなかったから、ビックリして言葉が引っ込んじゃった。
「……もう少し、早く知りたかったな」
「クリームくん……」
「もう行く。またな」
悲しい笑顔のままで、クリームくんは行ってしまった。土埃を上げながら進んでいく戦車を見て、わたしは少しだけ後悔していた。
「悪いこと、言っちゃったかな」
「ううん。彼はきっと、知りたかったと思う。僕も知らなかったし」
「そうならいいけど」
わたしたちは肩を並べて、クリームくんたちの乗った戦車が見えなくなるまでそこにいた。そっと抱き寄せてくる腕に、負担がないように少しだけ体を預けて。
わたしたちが戻ると、レジスタンスの皆が大喜びで迎えてくれた。首輪は外れたし、ちゃんと集合できたし、よかった。車と食料にも喜んでた。
レジスタンスに合流した元兵士たちは、集まったひとたちの中に家族や友だちを探していた。全員が全員、無事に再会できたわけじゃなかったみたいだけど、それでも来られてよかったって言ってた。
「じゃあ、俺たちの新しい国へ連れて行ってくれ、王」
「だから、王さまじゃないって……」
あの右手を怪我しているレジスタンスのリーダーが、アイスくんを「王」って呼んだ。べつにこのひとたちと一緒に行くわけじゃないんだけど、アイスくん、いつの間にか懐かれてたんだね。
星詠みの一族とはまったく別の土地で暮らしていくんだよね。自分たちしか頼れない生活かぁ、暖かい季節だし、上手くいってほしい。
コンちゃんに来てもらって、全員を送ってもらう。
車も何もかも、持てるものはすべて彼らに渡した。村の近くだったから、周辺の家も持っていってもらう。慣れない生活で不満が出るとは思うけど、それはあのリーダーや『女性と子どもの家』代表のシルクさんが捌いてくれるハズ。
「それじゃ、元気で」
「そっちこそ。頑張れよ」
「ありがとう」
「バイバイ、オジサンたち! わたしたちも頑張るね!」
「おう! 頑張れ、嬢ちゃん!」
レジスタンスの皆ともこれでお別れだ。
残るは星詠みの一族だけ。
「それじゃ、クリームくんのところへ行こう、アイスくん」
「うん。これで、ようやくだ……」
ホッとしたら、だんだん体が重く動かなくなってきた。この魔力の枯渇した土地に長くいたからかな? 緊張感が緩んできたせいもあって、わたしは魔力欠乏症の症状が出始めていた。
「ソダールに送っていってもらおう。向こうにつくまで頑張って、アスナさん」
「うん、大丈夫……」
今、倒れるわけにはいかない。
魔力を回復している間の数日間をムダにしたくないから。
ああ、でも、ちょっと足がガクガクする……。




