握手
クリームくんを苦しめている魔の水は、そのままにすれば強い魔力と引き換えに寿命を縮めてしまうらしい。今取り除けば、それはなくなるけど、代わりにもう二度と魔法を使えなくなってしまう……。当然、クリームくんは反発した。
「ふざけるな! 魔力を、魔法を手放せと言うのか!」
「寿命には代えられないだろう! 命を削っているんだぞ、わかってるのか? 今でさえ、暴発しそうなほどになっているのに」
「俺様に指図………、っうう……!」
「ほら、制御できていない。カロン、魔の水を取り除いてくれ」
「嫌、だ……! 魔法を捨てるくらいなら、寿命なんていらない!」
クリームくんは頑なに拒否している。でも、ハッキリ言ってそんな場合じゃないよ!
「ワガママ言わないの! 魔力が暴発したら、寿命が縮む以前に死んじゃうんだよ!? 意地を張らないの!」
「お前……」
「お前じゃない、アスナだよ。ここの人たちに死んでほしくないのと同じように、クリームくんにも死んでほしくないに決まってるでしょ。お願いだから、マカロンさんに取り除いてもらって。魔法が使えなくなった後のことは、皆で一緒に考えよう……?」
「……クソ……」
クリームくんは、悔しそうにひとつ悪態をつくと、おとなしく治療を受けてくれた。その頃には、クリームくんが連れてきていた兵士のひとたちも、何が起こったのかと様子を見に来て、クリームくんはそのひとたちに指示を出していた。
アイスくんはマカロンさんと難しい話をしているし、わたしはクリームくんに小声で話しかけた。
「なんか、すごいね。本当に十二歳?」
「……どういう意味だ」
「わたしの知ってる十二歳より、何倍も大人びてて責任感があるな〜って」
「……フン、ほめても何も出んぞ」
あはは、可愛い!
と、ここで久しぶりの電子音がして、ステータスの表示ができることを知らせてくれた。……遅くない? まぁ、戦闘中とか説得中に出ても困るもんね。
そっとクリームくんたちの側を離れて開いてみる。
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【名前】クリエムハルト
【性別】男
【年齢】12
【所属】ギースレイヴン国
【職業】王子
【適性】恐怖政治
【技能】《氷魔法》◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】暴君
※状態異常:暴走
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う〜〜ん、状態異常!
治療が終わったら消えるよね?
それにしても、当たり前だけどクリームくんについては、わからないことの方が多すぎる。暴君とか、恐怖政治とか、なんかイヤ〜な言葉も並んでるなぁ。本当に和解できるの……?
わたしが考え込んでいると、クリームくんの悲鳴が上がった。
何? 何が起こったの!?
「マカロンさん!?」
「心配ない。今、治療が終わった」
クリームくんはお腹を押さえて、何かを一気に吐き出した。黒い水……! これが、クリームくんの体に入って悪さをしていた魔の水なんだね。
「全部吐き出すんだ。苦しいだろうけど……」
「大丈夫? 頑張って……」
わたしとアイスくんは、クリームくんの背中をさすってあげた。
「……いい、平気だ」
「もう! 強がらないの!」
「なっ!? や、やめろ……」
ギュ〜ッと抱きしめたら、やめろって言いながらおとなしく抱っこされてくれた。よしよし。
クリームくんが魔の水を吐き出したのと同じタイミングで、兵士たちの中から騒ぐ声が聞こえてきた。何だろう?
「首輪がすべて外れたな……」
「えっ?」
「俺様の魔力がなくなれば、それも当然だ。もう魔法も使えん……抵抗も無駄だな。力で押さえつけてきた分、今度はこちらが力で蹂躙される番だ」
「どういうこと?」
わたしの質問にクリームくんは黙り込んだまま、アイスくんは青ざめて唇を噛み締めている。もしかして……良くない状況なの?
「に、逃げようよ!」
「……逃げてどうする」
「い、命は助かるでしょ!?」
わたしの言葉に、クリームくんはダルそうに肩をすくめた。
「そうだな。だが、暴徒を解き放ってしまったとあっては、どこまで抵抗できるか……。奴らが王都に押しかけたら、今ここで逃げたところで……」
「そんなぁ……」
「投げ出すな、クリエムハルト」
「!」
厳しい声で諌めたのはアイスくんだった。怒っているわけじゃない、怒鳴ったわけじゃない。でも、アイスくんの声には、背筋を正さなきゃいけないと思わせる何かがあった。
「彼らはまだ、何もしていない。率いてきたのは貴方だ、ちゃんと話をしないといけない。殿下、貴方はこれから、国を率いる立場なんだから」
「……魔力のない、王など……無力だ」
「それは、首輪の力を使おうとするからだろう? この国の正当な後継者は貴方しかいないんだ。協力ならいくらでもする。彼らのところへも一緒に行こう。けど、諦めて投げ出すのは許さない」
「…………」
アイスくんはニコッと笑って続けた。
「せっかく助かった命を、足掻きもせずに捨てようとしないでほしい。ちゃんと頑張って、それでもダメなら一緒に逃げよう。いいね?」
「……わかった」
アイスくんが差し出した手を、クリームくんがしっかりと握る。よかった! これで、仲直りってことだね!




