表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
153/280

魔の水


▶【アイスくんの方へいく】


 わたしは……

 迷ったけど、アイスくんの方へ行くことにした。一緒にいれば、クッキーくんが守ってくれる。それに、逃げなきゃいけなくなったときも、すぐに一緒に逃げられるから。


 わたしはポケットの上から、キョウさんにもらった手鏡を押さえた。大丈夫、ここにある。わたしは走った。


「アイスくん!」

「アスナさん!」


 アイスくんの胸に飛び込むと、ふわっとした何かに触れて、自分の立っている位置がズレた気がした。ビックリしているわたしをアイスくんが抱きとめてくれて、わたしたちは手を取り合った。


「“氷の槍(アイス・ランス)”!」


 クリームくんが魔法を放ってきて、わたしたちの脇をすり抜けて後ろの方へ突き刺さった。


「クソ……! 妙な真似を!」

「クリエムハルト、聞いてくれ! 争いたくない!」

「うるさい、黙れ!」

「お願い、やめて! もうこれ以上殺さないで!」

「!」


 クリームくんの手に集まっていた、氷の魔力が消えていく。


「わたしたちは、奴隷にされた人たちを助けたいだけ。ここの人たちは今まで散々(しいた)げられてきたよ。勝手に追い出したんでしょう? だったら、わざわざ村を探し出して殺さないでよ! 要らないって、捨てたんでしょう!? 捨てられるひとの気持ちがわからないの!?」

「…………」

「クリームくんの目的は、ここの土地を蘇らせることなんだよね? そのためにわたしを連れてこさせようとしたんだよね。だったら、それは協力できるよ。ジルヴェストを襲わなくたって、魔力ならあげるから! だから、もう、殺さないで……わたしたちを自由にして。このまま、行かせて」


 わたしは一歩前に出た。両手を広げて、何も手に持っていないことを示すように。そして、アイスくんを庇うように。


「アスナさん!」

「……お前たちは、反乱を企んでるんじゃなかったのか……?」


 クリームくんはわたしを探るように、じっと睨みつけながら言った。反乱を起こすと思われてたんだ……。だから、兵器や兵隊を引き連れて潰しに来たんだ。


 いったいどこからそんな話が流れてきたんだろう。確かに最初の案では、こっちの奴隷の人たちに反乱を起こさせる予定だったけど、その話はもうなくなったのに!


「反乱なんか起こさないよ。ここに暮らすひとたちは、武器どころか水や食料すら足りてないんだから。見てよ、この乾ききった土地を。見捨てられて、なにひとつ援助のない中で、どうやって反乱なんか起こせるっていうの? 生きていくだけでやっとなんだよ?」

「だが……」

「この土地を救おうとしてたクリームくんなら、わかってくれるって信じる。お願い。殺さないで」


 もう一度、お願いする。

 きっと、クリームくんにはもう、戦うつもりはないと思う。魔法も途中でやめて、わたしの言うことを噛みしめるように聞いてくれていた。


 だから、お願い。このまま帰って……!


 クリームくんは何かを振り払うみたいに強く首を横に振る。それから、ゆっくり口を開いた。


「わかった……」

「クリームくん!」


 わたしは思わずホッとしてアイスくんを見た。アイスくんも嬉しそう。でも、いきなりクリームくんが苦しみだして、わたしたちは慌てて駆け寄った。


「よせ……来るな!」

「でも……!」

「クリエムハルト、どうしたんだ……?」


 クリームくんは髪の毛が半分黒に染まっている方の、右目を手のひらで押さえていた。


「うぐぅぅぅぅ!」

「大丈夫? 苦しいの?」


 最初見たときには髪の毛だけが黒かったのに、側で見ると手で押さえている下の皮膚も黒くなっているみたい。いったい、どうなってるの?


「クリエムハルト、いったいどうしてこんなことに……」

「ここから離れろ……、魔力が、暴発しそうだ……。そうなったら、お前たちまで……!」


 魔力の暴発!?

 どういうこと?


「クッキーくん、これ、どういうことかわかる?」

「う〜ん、この子の魔力じゃないものが体の中にある。それが出てこようとしてるんだよ」

「それって、どうなっちゃうの?」

「…………」


 クッキーくんはとても言いにくそうにしている。もう、それだけで嫌な予感しかしない。


「クリエムハルト、これはいつから?」

「……お前に関係ない……さっさと行ってしまえ……」

「関係なくない! 僕たちは家族だ……。それに、主人と奴隷という関係ではあったけど、ずっと側にいて、ずっと見守ってきた……。だから、関係なくなんてない。そんな悲しいこと、言わないでほしい……」

「…………好きにしろ」


 アイスくんに支えられて、クリームくんはぶっきらぼうに横を向いた。


 でも、すぐにまた苦しみだしてしまった。まだ小さいのに、必死で声を殺して耐えている様子が痛々しい。


「クッキーくん!」

「ぼ、ぼくにはわからないよぅ! カロン……カロン、来て!」


 泣きべそのクッキーくんがマカロンさんを呼ぶ。

 まさかと思ったけど、わたしたちの影が動いて本当にマカロンさんが来てくれた。


「……呼んだか」

「カロン、ボクじゃ手に負えないの! どうにかして、これ!」

「ふむ」


 マカロンさんは真っ青になって震えているクリームくんに手をかざすと、アイスくんを見て言った。


「確かに、私の領分のようだ。この子の中に巣食っているのは魔力を食い、魔力を高める魔の水だ。自ら飲んだか、それとも誰かに仕込まれたか……。このまま放っておいても死にはしないぞ」

「痛みは取り除けないのか? それに、魔力を食べる水なんて、本当に放置して大丈夫なんだろうか……」


 アイスくんが心配そうな声で言う。クリームくんが魔力を高めるために飲んだんだったら、どうしたらいいのかな。体に悪いんだったら、取り除いてほしいけど……。


「この魔の水が体内にあれば、確かに魔力は高まる。だが、時折りこのように酷い激痛に襲われるだろう。水がある間はずっとだ。そして、寿命はおよそ半分ほどに減る」

「そんな!」

「今、この水を排出させれば、寿命の方に影響は出ない。だが、もう二度と魔法を使うことはできなくなるだろうな」


 マカロンさんの言葉に、わたしたちは何も言えずに息を呑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] わだかまりを超えて、どうにか届きそうと思ったとたんに……痛々しいの極みだよね、クリーム君。 たくさんのものを背負い込んで。 うう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ