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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
152/280


▶【動けない……】


 わたしは、動けなかった。

 アイスくんの邪魔にはなりたくない。わたしが余計なことをして、アイスくんが巻き込まれたりしたら……! そんなのダメ!


 クッキーくんがアイスくんのことを守ってるなら、わたしは近寄らない方がいい。

 だって、一度に何人も助けられないよね……。


 わたしが立ちすくんでいる間に、アイスくんとクリームくんの言い争いは激しくなっていった。


「ただの小娘にしか見えないが、よほど男を(たぶら)かすのが巧いのだろうな? 己の身の安全だけ考えていればよかったろうに、アイスシュークを使って反乱まで起こさせるとは!」

「やめろ! アスナさんを侮辱するな!」

「事実だ! その女のことがなければ、他の奴隷たちのことなど頭にもなかったくせに!」

「ぐっ……! それは……、けど、アスナさんのことは違う! 取り消せ!」

「ご執心だな。そういうところが! 誑かされているというんだ!」


 クリームくんの手の中で氷が弾ける。


「“氷の槍(アイス・ランス)”」

「“盾”!」

「小癪な!」

「やめてくれ……、争うつもりはないんだ!」

「だったら、俺様の邪魔をするなぁっ!」

「アイスくん!」


 クリームくんの手から、何発も何発も、氷の魔法が放たれる。それはアイスくんの魔法によって、逸らされたり散らされたり……でも時々、それをすり抜けるようにして魔法が迫って、危ない場面もあった。


 わたしは、見守ることしかできなかった。

 クッキーくん、どうか、もう少しだけ頑張って……!


「この国はもう傾いてる、それがわからないわけじゃないだろう、クリエムハルト!?」

「お前がその名で呼ぶな!」

「もうやめて! やめてよ……! お願い、クリエムハルトくん、アイスくんの話を聞いて……」

「黙れ、女! 誰もお前の話など聞いていない!」


 クリームくんの手が、もう一度わたしの方を向いた。

 思わずギュッと身構える。


「やめろ!」

「“氷の槍(アイス・ランス)”」

「“氷の、槍(アイス・ランス)”……!」


 クリームくんの魔法と、アイスくんの魔法がぶつかる。ううん、アイスくんの魔法の方が強い!


「ぐあっ……!」

「クリームくん!」

「クリエムハルト!」


 アイスくんの氷の槍がクリームくんに突き刺さった。わたしもアイスくんも、慌ててクリームくんに駆け寄っていく。そのとき……


 パンッ!




 乾いた音がした。


「え?」


 わたしは突き飛ばされたような衝撃を胸に受けて、あっ、と思ったときには仰向けに地面に転がっていた。……何が起こったの? 胸が熱くて、体が重い。強い痛みが襲いかかってきた。


「アスナさん!?」

「はは……ははははは! ザマァ見ろ!」


 クリームくんは高笑いしたあと、変な風に咳き込んで、また笑っていた。


「アスナさん! アスナさん、しっかりして……」


 アイスくんとクッキーくんが、わたしを覗き込んでくる。心配そうな表情……わたし、撃たれたんだ。


「ア、イス……くん……」

「喋らないで。……ひどい傷だ。ルキック、どうすればいい!?」

「わかんない…、ボク、わかんないよ……!」

「そんな……!」


 アイスくんがわたしの体を抱き起こしながら、クッキーくんと話してる。どのくらい怪我をしたんだろう。この世界にも、傷を癒やすような魔法はないから、病院に行くしかない。こっちの世界の病院がどこまでできるか、わからないけど。


「…………」

「えっ、アスナさん、なんて……?」

「病院……」

「それって、どこのこと? ジルヴェストか? いや、元の世界に帰した方が……」


 アイスくんの言葉で気づく。そっか、この世界じゃ、こういう傷を治せる病院も限られてるんだ。


「ルキック、転移を……」

「うん、わかった」

「待っててね、アスナさん」


 でも、それより先にまた拳銃の弾が発射される乾いた音がした。


「あうっ!」

「ルキック!」


 狭い視界の中で、クッキーくんが自分の身を呈して、わたしたちを庇うように動いてくれたのがわかった。


「ごめん、アイス……ボク、もう……」

「ルキック、しっかりしてくれ! あとちょっとだけ……」

「ごめんね、アイツが動くより先に、防御の膜を張ってれば良かったのに……」

「ルキック、体にヒビが……」


 クッキーくん……。

 ダメ、これ以上クッキーくんに負担をかけられない……。


「……キョ、ウ、聞こえる……?」

『アスナ。大丈夫? 転移させるんだね。アスナを元の世界へ』

「アイスくんたち、を、そっちへ……」

『えっ』

「アスナさん!?」

 

 わたしは取り出していた手鏡をアイスくんに押し当てた。


「アスナさん、ダメだ!」

「キョウ……!」

『わかったよ……』

「やめ……!」


 キョウはアイスくんたちを安全な場所へ移してくれた。

 よかった……。


『アスナ……これでよかったの? 無茶したから、もう、アスナを帰してあげられるだけの力が……』


 手の中の手鏡が、ピキリと音を立てた。

 わたし自身の転移はもう、いい。多分、この傷じゃ間に合わないから。


 アイスくんが無事なら、それでいい。


「妙な力だな」

「…………」

「アイスシュークを逃したか。それで? 自分はここにこうして倒れたまま。まぁ、どこへ逃れても一緒だ、お前は死ぬ」


 わたしのそばに立って、見下ろしているのはクリームくんだった。そのお腹から胸にかけて、大きく血が滲んでいる。


「だが、俺様をアイスシュークと同じところへ送れば、お前も助けてやる。あの、どこから現れたのかわからんガキを治療するために送ったのだろ?」


 わたしは、笑ってしまった。


「……何がおかしい」

「死ぬ、のが、こわいの……?」

「いや。だが、俺様にはまだ成さなければならないことがある」

「そう……。でも、いやだよ……」


 クリームくんはわたしに銃を向けた。

 引き金が引かれて、わたしの右足が跳ねた。……もう、何も感じない。


「これが最後だ。よく考えて答えろよ? 俺様を連れて転移しろ」

「や……だ、よ……だ。ばぁ…か…………」


 わたしはクリームくんを見上げて、ニッコリ笑って言ってやった。体が重い……。目を開けていられない。

 クリームくんが嗤った気配がした。


「そうか。なら、俺様と共にここで死ね」


 パン、パンッと乾いた音が響いて、わたしの体が熱くなった。もうとっくに動けなかったんだけど、最後の力も失って、わたしはすべてを手放した。


 わたし、このまま死ぬんだ……。

 ごめんね、アイスくん…………。







END『あと一歩』

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