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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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これはいわゆる、悪役令嬢ってやつですか?

 翌朝、ジャムのセクハラを聞き流して支度を終えたわたしは、少ない荷物と一緒に学校に送り届けられた。なんと、先生とゼリーさんも一緒だ。


 それを見てちょっと安心したんだ、だってゼリーさんてば無職になっちゃうかもしれないって思ったんだもの。話を聞けば、そのまま先生のボディ・ガードを続けるらしい。……先生って何者? 単刀直入に尋ねてみたら、曖昧に言葉を濁された。


 人間、つついてほしくない部分を抱えているものだよね。気になりはしたけれど、詮索するのはやめておいた。


 男二人に挟まれて、ちょっと気まずいわたしの気持ちなんて知らずに馬車はポクポク進んでいく。やがて見えてきたのは丘の上にあるレンガ造りの建物だ。高い塀や木々に囲まれ、中の様子はまったく見えない。鐘楼とエンブレムだけがちょこんと頭を出している状態だ。


「ここが、マリエ・プティ?」

「はい、マリエ・プティ女子高等学園です。入寮式は明日、入学式は四日後です。大抵の物は揃っているはずですが、足りない物があれば買い足してください。そのためのお金はこの財布に入っています」

「…………」


 なんて実用一辺倒なんだろうという、黒い革財布を渡された。コの字形にジッパーのついている物で装飾なんてまるでない。上にデカイ、しかも、ずっしりと重い。何よりも財布を買い換えたいと思うのは、贅沢……だろうなぁ。


「あ、お金の単位とか相場とか、そういえばカレンダーも把握してないんですけど……」

「ご安心を。そんなこともあろうかと、必要そうな商品の相場を一覧表にしておきました。文字が読めなくても大丈夫なようにイラストつきです! それと、児童向けの学習帳も各種類用意しておきましたので、役立ててくださいね。あ、わからないことがあれば、いつでも私の部屋へ来ていただければ、質問にお答えしますよ!」


 渡された鞄の中身は、いかにも幼稚園とか小学校一年生が好んで買うような可愛いイラストつきのノートだった。ええと、『すうじ』、『もじ』、『よいこのせいかつ』……。白い紙片を開くと歯ブラシや鉛筆の絵の横に、コインの絵や紙幣の絵がある。全部手描きだった。


 わたしはゼリーさんを見た。

 ゼリーさんは無言で首を横に振った。


 エクレア先生……。ごめん、わたし、字も読めるよ……。でも、うん、ありがとう……。

 あと、先生ってばめちゃくちゃ字が可愛いね。イラストも……独特で、うん。


 どんな顔をして良いのか分からないまま、わたしはさっさと学校に着いて欲しいと願っていた。






 二人とは寮の前で別れた。校舎の裏から伸びた道の先にはバラ園、そして五階建ての大きなマンションっぽいもの。これが、今日からお世話になる寮だ。ピンクと白のレンガで出来ていて、フォルムがちょっと丸っこい。いかにも女子寮~って感じでわたしは好き。


 正面玄関は観音開きで、すでに開けっぱなしだった。すりガラスには百合の花。セピア色と焦げ茶色のタイルを進んで声をかける。


「あの~、すみません。わたし、今日からここでお世話になるクサカ アスナです~!」


 キシリと音がして見上げると、階段の上にはロングストレートの金髪をそのまま流した女の子が……こっちをチラッと見ただけでさっさと通りすぎていった。


 ……感じ、悪っ!!


「まぁ~、いらっしゃい。こちらで手続きをしてくださいね。それが終わったらランチですよ。アタシはアガサ、よろしくね!」


 玄関のエントランスを左に曲がってすぐのとこから出てきたのは、背が低くて丸っこい、可愛いおばちゃんだった。笑顔が見ていて気持ちがいい。両手でわたしの手を取って、握手してくれた。


「よろしくお願いします、アガサさん。わたしはアスナ、クサカ アスナです!」


 寮母さんがいいひとで良かったぁ! わたしは心の中でガッツポーズをして、アガサさんについていった。ちなみに、入寮式の前日になっても手続きが終わってないのはわたしだけでした。うん、しょうがないね! 言われた通りに記入して、制服に着替えて写真を撮ってしてたら本当にお昼になっちゃった。


 食堂は寮の一階で、シェフが腕によりをかけたご馳走を、ビュッフェ形式でお盆に取っていく。今ここに集まっている女の子たちは三十人強、その中で制服を着ているのはわたしだけだ。


 なんとなく遠巻きにされているのを感じつつ、特に気にしない。相席してくれそうな子を探して、それでもダメならクラスメートから友だち作るさ!


 なんて、よそ見してたのも悪かったのかもしれない。


「ひょえっ!!」


 何かに足を突っ掛けて、わたしは盛大につんのめってしまった。両手にお盆、しかもスープ以外の昼食が全部載っている。咄嗟に腕を高く上げた。わたしの、ごはん!!


 ガッツリ膝に衝撃を受けつつ、わたしは床にベッタリ倒れ伏した。お盆の中身は……セーフ!! どれも床に落ちたりしてなかった。


「あら、ごめん遊ばせ? まさか転んでしまうとは……」

「あ~、良かった! せっかくの美味しそうなごはんをダメにしちゃ失礼だもんね!」

「………………」


 言わせるか!

 なんでわたしが、つまんないイザコザに巻き込まれてやらなきゃならん。無視だ、無視! お盆をいったん床に置いて、よっこいしょと姿勢を整える。立ち上がったわたしにキャンキャンと鳴き声が浴びせられた。


「ま、待ちなさいよ! キャンディス様がしゃべってる途中よ、おとなしく聞きなさいよ」

「そうよ、そうよ!」


 はぁん? なんだってえ?

 振り返ると、そこには三人組が立っていて、他の子たちは離れてわたしたちの様子を見ているみたいだ。キャンキャン言ってきたのは取り巻きっぽい二人。そして、最初にわたしに声をかけたのが……真っ白い髪の毛をした美少女だろう。険しいエメラルドグリーンの瞳で睨みつけてくる。


 一触即発な空間に、間抜けな電子音が響き渡った……。シリアスブレイクぅぅ!!!

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