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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
147/280

分岐点 8


▶アイスくんの決定に従う


 アイスくんが吹っ切れたような朗らかな顔で笑う。でも、わたしは笑えなかった。


「アイスくんが戦うつもりなら、わたしもそれを応援するよ。……でも、やっぱり、心から納得したワケじゃないから」

「アスナさん……」

「ねぇ、わたしが逃げようって言ったから……? だから戦うことにしたの? わたし、わたし……余計なことを……」

「それは違うよ」


 アイスくんが体を離して、真剣な表情でわたしの目を覗き込んできた。


「元々こうするつもりだったんだ。殿下が動くと聞いたときからね。逃げ出したい気持ちはあったよ、でもそれは、自分の命が惜しかったからじゃない。ただの子どもの拗ねたような感情で……誰も僕の命を惜しいと思ってくれないっていじけてただけだったんだ。けど……」


 アイスくんの指がわたしの目元を拭う。


「それも、アスナさんのおかげで消えたよ。僕には、こんなにも僕を想ってくれるひとがいるってわかったから……」

「アイスくん……」

「僕は貴女に会うまでずっと、自分の置かれている境遇に目を瞑って、現実から逃げてた。何も知ろうとせず、命令を聞くだけの日々で。あのままだったらきっと、誰かを殺せと言われても、自分が死ねと言われても、従ってしまっていたんじゃないかと思う」

「…………」

「でも、今は違う。殿下と決着をつけてくるよ」

「うん……」

「全部終わったら……」

「え?」

「戦いが終わったら、また、僕はひとりだ。ただのひとりに戻って、色々考えたい」

「え、だって、王さまに……」

「ならないよ。彼らの王は、僕じゃない。僕の父親だ。本当はちゃんとわかってる。だから…………僕はやっぱり、独りのままだ」


 悲しい笑顔……。

 どうしてアイスくんの周りには、アイスくんを一番大切にしてくれる誰かがいてくれないんだろう。アイスくんが星詠みの一族の王さまになったら、そうなってくれるんじゃないかって、期待してたのに。


 そんなの悲しいけど、わたし以上にアイスくんを大切にしてくれる女の子がこの先現れるなら、アイスくんの隣を譲ってあげなきゃって思ったのに。


 だってわたしは、帰らなきゃいけないから。

 でも…………。

 

「……わたしがいるよ」

「えっ」

「アイスくんには、わたしがいるじゃない。それとも、わたしじゃダメ……?」

「えっ!? えっ、でも、それは……! ……本当に、いいの?」

「うん」


 アイスくんの顔が近づいてきて、わたしは目を瞑った。

 でも、いつまでたってもキスがない。目を開けると、アイスくんがつらそうな表情で固まっていた。


「……痛くてキスできない……」

「あははっ! わかった、じゃあ、わたしからしてあげるね……」

「悲しい……。キス以上のこともしようと思ってたのに……」

「もう! ……ぜんぶ終わったらね」


 アイスくんの目がまん丸になって、それから悲しそうにうなだれてしまった。


「……今がいい」


 まったく……しょうがないなぁ!

 でもダメ。それはお預けね。でも、しょげてる顔があんまりにも可哀想だから頭を撫でてヨシヨシしてあげた。


「でも、本当にいいの……? あんなに帰りたがってたのに」

「うん……。寂しくないって言ったら、嘘になるけど……でも、もう決めたから。わたしの人生の、今がきっと、別れ道なんだよ。人は誰も、ふたつの人生を生きることはできないでしょう? わたしは……アイスくんと生きる道を、選びたい」

「アスナさん……! ああ、僕は、貴女に出会うために生まれてきたんだ。きっとね……。今、それがようやくわかったよ。……僕のすべては、貴女のものだ」


 アイスくんがわたしの左手を取って、自分の口許へ近づけていった。ちゅっと小さく音がして、キスされる。


「アスナさん……この戦いが終わったら、僕と……結婚してください」

「……はい、喜んで!」


 わたしたちは顔を見合わせて笑った。

 華やかな式はできないかもしれない。ドレスだって、指輪だってないかもしれない。それでもいい、アイスくんがいれば、それだけで。


 いつかもうちょっと落ち着いたら、キャンディたちにも会いに行きたいな。わたしのほうが先に結婚したんだよって、チョコとキャラメルに自慢しなきゃ。


 朝が来たら、アイスくんは行っちゃうから、わたしは眠るアイスくんに寄り添いながらずっと起きていた。繋いだ手から伝わってくる温かさや、聞こえてくる寝息を意識ながら、ずっと。


 わたしがこの土地で魔力を失っていくように、アイスくんだって魔力を吸われているはず……せめて、わたしの魔力をアイスくんに渡すことで、アイスくんの体力を温存したいんだけど、魔力を送るの上手くいってるのかなぁ?

 

 大きくなる不安を圧し殺して、希望のある未来を思い描く。

 きっと大丈夫、そう信じて。


「絶対、無事で帰ってきてね……」


 アイスくんとレジスタンスの人たちは、夜明けには出発することになっている。王子さまの軍も、そこまで多くはないらしい。ここは一番荒れている旧王都……ここに拘っているのは王子さまだけで、他の貴族は誰も寄りつきすらしないから。


 軍隊は最大でも五百人くらいだって。しかも、その内の半分は戦争に行ったことのないただの使用人奴隷なんだとか。なら、楽勝で勝てるかといえば違う。向こうには兵器があるんだから。


「アスナさんは、どうする? ここで他のひとたちと一緒に待っていてもいいし、カロンと待っていてもいいよ」


 アイスくんはわたしに決めさせてくれた。

 わたしは……


▶【ここでアイスくんを待つ】

▷【マカロンさんのところへ行く】


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