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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
146/280

分岐点 7

こちら二話目です、順番にご注意ください。

今日は夕方と夜にも更新します。

 薄暗い部屋の中で、壁に体をもたせかけて足を投げ出したまま座っているアイスくんは、傷だらけだった。特にひどいのはその右肩。包帯だらけなのもそうだけど、右手を三角巾で吊って固定してある。骨が折れてるのかもしれない。


「どうして、こんな……」

「途中まで順調に行ってたんだけどね、僕たちの動きがバレてて小競り合いになってね。幸いにも双方とも死者はなくて、僕も骨が折れただけで済んだよ」

「折れただけって……大変じゃない!」

「ううん、それだけで済んで本当に幸運だったよ。下手すると大きな血管を傷つけて死んでたからね」

「……!」


 胸が潰れたみたいにギュウッと痛んだ。

 なんでそんなに、何てことないように笑えるの!


 わたしはアイスくんの右側に歩いていって、近くに腰を下ろした。アイスくんの額に浮かぶ汗をハンカチに吸わせながら、全身を観察していく。


 アイスくんは顔にも軽い怪我をしていて、ガーゼを当てていた。無事に見える左手も、掌に巻かれた包帯から血が滲んでいるのがわかった。巻かれた包帯はどれも、お世辞にも綺麗とは言えないもので、ここの生活の限界を感じる。痛み止めとかもないのかもしれない。それなのに、こんな風に笑ってちゃダメだよ……。


 ポロリとこぼれてしまったわたしの涙を、アイスくんの指先がすくい取る。


「綺麗だ……」

「何バカ言ってるの。待ってて、お薬取ってくるから」

「行かないで、アスナさん。アスナさんがここにいてくれるだけで、痛みが引いていくんだ。側にいてよ。……嘘じゃないよ、ほら、見て。傷が消えていく」


 アイスくんが差し出した左手の掌は、カッターナイフで切りつけたみたいな細い傷がいくつも、いくつもあった。でも、その内の小さくて浅い傷が、確かに閉じて見えなくなっていく……。


「どうして……」

「アスナさんが僕のために泣いてくれたから……。涙から濃い魔力が流れてきて、僕の治癒力を底上げしてくれたんだと思うよ。隠れ家に行って、完全に回復したみたいだね。でも、そんなに泣いたらまた、魔力がすぐに損耗してしまうよ」

「……泣いたらすぐに魔力切れになって倒れちゃうってこと?」

「そうだよ」

「でも、それがアイスくんのためになるなら、わたし、倒れてもいい」

「……アスナさんってば」


 わたしはアイスくんの左手を頬にくっつけて、目を閉じた。魔力の使い方なんてわからない。けど、アイスくんの傷が早く良くなるように祈った。痛みが消えますようにって。


「レジスタンスの首輪は、やっぱり僕の血で外すことができたよ。外す度に自分を傷つけてたら体が持たないと思って、色々試しているうちに、新しく水を操る魔法を覚えたよ。

 その試行錯誤があったら、小競り合いになったときも首輪が外れていたメンバーが多かった分、ちゃんとした戦いになった。……奴隷たちの首輪には施設の管理者が上位の存在として組み込まれているから、彼らの命令には逆らえないんだよね。

 ついでに、管理者の一部の首輪を無理やり解除してやったら、なんとこっち側についてくれたよ。内部情報の提供も進んでしてくれて、おかげさまで向こうの動きがわかった。明日の朝、殿下による一掃作戦が決行されるんだ」

「えっ……?」


 どういうこと?

 なんか、アイスくんの言ってることが、よく、わからない……。


「この辺の土地はね、兵器工場で働く奴隷たちの中で、もういらなくなった人間をその辺に棄てた結果としてできた村がいくつもあるんだ。僕たちが最初に行ったあの奴隷たちの村がそうだよ。

 そういう村の存在は、今まで無視されてきてた。だって、村にいるのはもういらないって判断された人間たちだから、気にする必要がなかったんだろうね」

「…………」

「それをね、軍隊と兵器で焼き払おうとしているんだよ」

「そんな! じゃあ、逃げなきゃ! 何してるの、アイスくん。早く皆で逃げようよ!」

「うん。逃げなくちゃ……逃さなきゃいけないんだ。さっきも言ったように、小さな村がいくつもあるんだよ。工場で働く奴隷たちの一部もすでに首輪を外して逃がす準備はできている、けど、村に散らばった人間を一箇所に集めるのは大変で、まだそこまで手が回ってないんだ」

「じゃあ、どうするの……?」


 兵器って、どんなのだろう。戦車とかが来たら怖い。焼き払うって? どうやって? どうしてこんなひどいこと、考えつくんだろう!


「誰かが囮にならなきゃいけない」

「!」

「殿下の気を引いて、時間を稼ぐんだ。今、この暗闇の中を、何とかこの情報を伝えようと走ってくれているひとがいるからね……。その頑張りを無駄なものにしないためにも、明日の朝の戦いは重要なものになるだろうね」

「そんな……。残ったひとたちを、順番に迎えに行くのじゃダメなの……?」


 でも、アイスくんはわたしの手を握ると、優しく笑って首を横に振った。


「それじゃ間に合わないよ。精霊たちだって、村の人間をひとりひとり回収して助けることはしてくれないだろう。何箇所かに集めてそれを送ってくれるだけでもありがたいと思わなくちゃ。そして、そのためにはやっぱり、誰かが殿下の相手をしないと」

「アイスくんじゃなくたっていいじゃない!」

「僕が出るのが一番効率がいいんだ。他にいくら行ったって無駄死にだよ」

「そんな……アイスくん!」


 ああ……。

 ああ、わかった。アイスくんは、行っちゃうんだ。


 そのために、わたしにこんな話を聞かせてるんだ。

 死んじゃうかもしれないのに。

 戦う相手は、アイスくんの実の弟なのに。


 それでも、アイスくんは行くんだ。

 他人のために。

 危険を承知で。


 でも、アイスくんの命はどうなるの?

 アイスくんだって、かけがえのない人なのに。こんな風に期待されて、なんの見返りもなく……。


 皆が、アイスくんが戦うことを望んでる。あの王子を止めてほしいと思ってる。でも、そんなの、アイスくんがやらなきゃいけないことじゃないのに!


 誰もアイスくんに「逃げてもいいよ」って言わないの?

 「頼む」とか「信じてる」なんて重荷になるだけ。逃げ道を塞いでおいて、戦えなんておかしいよ。


 だから、わたしが言う……。

 わたしだけが言える。わたしが言わなくちゃ!


 それがどんなに大勢の命を奪うことになったって。

 わたしだけは、「アイスくんが一番大事だよ」って伝えなきゃ!


「行かないで……」

「アスナさん」

「行っちゃ、やだよぉ! わたし、わたしアイスくんに傷ついてほしくない……死んでほしくない! もう、頑張ったじゃない……。このまま逃げよ? わたしたちふたりだけなら、隠れ家で充分暮らしていける、他の土地に行ったっていい。だから……だから…………」

「アスナさん」


 アイスくんにギュッと抱きしめられた。とたんにアイスくんが「イテテ」ってうめく。もう、怪我してるのに!


「アイスくん! 無茶したらダメだよ」

「あはは、決まらないな。……ありがとう、アスナさん。僕のために泣いてくれて。本当は誰かに止めてほしかったんだ。情けないんだけどね」

「そんなことない!」

「うん、ありがとう。おかげで気持ちが決まったよ」

「それって……」

「うん。僕が殿下を止める。行ってくるよ」

「そんな……」

「大丈夫、死にに行くわけじゃないよ。僕はアスナさんを見送らなきゃいけないんだから、死ぬわけにいかない」


 アイスくんが立ち向かうなら、わたしは……


▶【アイスくんの決定に従う】

▷【わたしも一緒に連れて行って】

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