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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
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説得と交渉と

 旧王都のカラカラに乾いた大地に雨が降ると、家の中から桶とかを手にした人が出てきて喜んでいた。でも、あんまりたくさん降らせちゃうと洪水みたいになっちゃうから、ほどほどにしなくちゃねってシャーベットさんが言っていた。


 コンちゃんとの合わせ技で、わたしたちは奴隷の人たちの村の中でも『女性と子どもの家』の中に出現させてもらえた。わたしたちがいきなり出てきたから女のひとたちはビックリしていたけど、わたしたちのことを覚えていてくれた人がいて、何とか話を聞いてもらえることになった。


「……信じられない。そんなうまい話があるわけない」


 女性たちのリーダーは、年配のオバサンだった。いきなりやってきたわたしたちに驚くことなく、しっかり話を聞いてくれたんだけど、それでもやっぱりすぐには信じられないみたい。


「だって、首輪を外すし他所の土地へ送ってやるからそこで自由に暮らせだなんて……いったい何が目的だって言うの? アタシたちには差し出せるものなんて何もないのよ? 物資も足りないし、食べていくのがやっとなの。首輪がはまっていない子どもたちもいるけど、あの子たちを差し出すくらいなら、死にもの狂いで抵抗するわよ」


 疑われている、っていうよりは、本当に信じられないみたい。理由がわからないって顔してるもん。


 そりゃあね、よく知りもしない他人が急に現れて「あなたの困りごとを全部解決してあげますよ、見返りなんかいりません」って言われても誰が信じるかっていう話だよね。しかも子どもがふたりでやって来てさぁ。


 怒られてもおかしくない状況かもしれない。「くだらない嘘をつくな!」とか「馬鹿にしてるのか!」とかね。


 怒鳴られて追い出されないのはきっと、わたしたちの後ろできゃあきゃあ喜びながらお土産をわけあいっこしているお姉さんたちや小さい子の存在が大きいかもしれない。


「首輪を絶対に外せるとは言えないです。たぶん、外せる首輪と外せない首輪がある。でも、貴女たちを遠くへ逃がすことは可能です。それだけは約束します」

「けど、首輪が外れないんじゃあ……」

「首輪に対して命令が効力を発揮する範囲は限られている、んです。つまり、遠くへ行けば首輪なんて無いも同じということ。それがわかっていれば問題ないんじゃないんですか?」


 アイスくんが下手な丁寧語を使ってオバサンを説得をしている。そうだよね、首輪の意味がなくなるのは大きいよね。


「貴女たちを送っていく場所は、とても豊かな土地です。こんな場所で暮らしていけるくらいだから、そこなら、たとえ一からだとしても暮らしを立て直せるんじゃないかと思う。こればっかりは、信じてもらうしかないけど……」

「そんなこと言われたってねぇ。見てもないものは信じられないし、新しい土地でやり直せだなんて。赤ん坊だっているのに」


 そんなぁ!

 ここまできて断られちゃうの!?


「待ってよ、オバサン。もう少しだけ、わたしの話を聞いてください。わたしたちはどうしても、あの兵器の工場を止めたいの。そのために協力してほしいの。お願いします!」

「工場を?」

「そう。それも、一日や二日じゃなくて、ずっと。働く人が皆いなくなっちゃえば、工場は止まるでしょう? どうやったらそれができるかって考えたとき、ここにいるアイスくんが、全員で逃げちゃえばいいって言ったの」

「えっ。いや、それはアスナさんが……」

「とにかくね、前にわたしたちがいきなり消えたみたいに、一瞬で全員を移動させる方法があるの。この方法なら、首輪が外れても外れなくても、別の土地で自由に生きられるんだよ。もちろん、外れてくれた方が嬉しいけどね?」

「…………」

「今すぐ決めなくていいの。だって、今日はお願いに来ただけだから。でも、わたしたちの提案はあの片腕しか使えないリーダーさんに伝えてほしい。ただ、あのオジサン、首輪を外すと復讐だ〜! とか、襲撃だ〜! って言い出すでしょ?」


 わたしの言葉にオバサンは苦笑いした。


「わざわざ戦う必要、あるのかな。血を流して、復讐して……あのオジサンはそれでいいのかもしれないけど、わたしとしてはそんなことするくらいなら、同じ力で家を建ててほしいよ。キャンプ生活、すごくツラいもん。せめてバンガローがほしかった……」

「どこで寝てたんだい?」

「テント。それから、木の台ができて、今ようやく家っぽいものができてきたの。河が近いから、水汲みは助かるんだけど湿気がすごいし……。もっと離れたところでキャンプしたかったけど、いい場所がなくって!」

「そりゃ苦労したね。アタシたちのとこは乾ききってるから寝るにはいいけど、井戸から水を汲み上げるのは本当に、本当に大変でね!」


 わたしたちはキャンプ生活での愚痴を言い合った。お姉さんたちも加わってすごく盛り上がった。そうだよ! 物資と男手があればもっと快適に暮らせるんだよ!


「よしわかった、アタシがきちっと話をしよう!」

「ありがとう、シルクさん!」


 オバサン改め『女性と子どもの家』のリーダー、シルクさんは胸をドンと叩いてそう保証してくれた。


 男のひとたちがちゃんと納得してくれるのかとか、奴隷たち全員にこの話をするためにどれくらい時間がかかるのかも計算しなくちゃいけないし、問題は山積み。星詠みの一族のキャンプと同じように、新しい土地で暮らしていく赤ちゃんたちのための、馬車でも何でもいいからハコがやっぱり必要っていう結論に達したし。


 それと、この場にいるメンバーのうち、工場にも働きに行かない、命令してくる奴らに会わない、この村だけで生活している奴隷さんの首輪を外す実験もした。


 アイスくんの指先が針の穴だらけになっちゃったけど、実験は大成功! うまく首輪が外れたひとたちは喜んでた。


「全員の首輪を外す頃には、僕の体から血が全部抜けてるんじゃないかな……」

「頑張ってくれてありがとう。痛かったね……」

「これくらい、何でもないよ。それより、アスナさんもかなりキツそうだね。大丈夫?」

「魔力少なくなってきたみたい……。ちょっとクラクラきてる」

「それじゃ、そろそろ戻ろう」

「あっ、魔力の花びらのこと、まだ言ってないや」

「安心して、さっきもう、溶けてなくなってた」

「そっか……」


 朝集めておいた魔力の花びら、溶けてなくなって、この土地の魔力になったのかな。とにかく、今は戻らなきゃ。また魔力を溜めて、ここに来よう。そのときにはきっと、計画はもっと進んでいるはず……。

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