作戦開始の前に
次の日、わたしたちは朝から子どもたちをお風呂に入れることにした。せっかく流しの露天風呂があるんだし、あったかいお湯に放り込んでゴシゴシ洗わないとね!
そんなわけで逃げ回る子どもたちを捕まえて、九人とも脱衣所に放り込む。露天風呂のドアを開けたら、何とそこにはお湯に浸かっているシャーベットさんとシフォンさん!?
「はぁい、アスナ。子どもがたくさんだと大変だろうから、手伝いに来てあげたわよ〜」
「……柵があるとはいえ、流れがあるから危ない。アスナひとりじゃ難しいよ」
「ありがとう〜! 助かる〜!」
心を読んで先回りなんて、シャーベットさんは相変わらず! でも本当に助かっちゃうからいいや〜。そんなとこへ、お風呂場のドアがガラッと開いて飛び込んできた人影が! って、ソーダさん!?
「おおっと大変そうだね、私も手伝おう」
「「「それはダメ!」」」
三人の心がひとつに……!
とりあえずドアは閉めた。
「シャーベットさん、シフォンさん、ありがとう! さ、皆もお礼を言ってね。入る前にちゃんとお湯浴びて体を洗おうね」
何も見なかったことにして、わたしは子どもたちに号令をかけた。皆、素直に並んで体を洗っていく。ふたりの協力があってすぐに終わったから、あとはゆっくりお風呂タイム。
「それにしても、ふたりともナイスタイミング。手伝ってほしいことがあって、お願いできないかと思ってたの。それと、コンちゃんに会わせてもらえないかなって。居場所、知ってる?」
シャーベットさんとシフォンさんは顔を見合わせて、ふたりとも肩をすくめた。
「クォンペントゥスならさっきまでここでゆっくりお湯に浸かってたわよ〜」
「……あのひとは、温泉、好きだから」
「そうなんだ!」
カピバラみたいな感じ?
それはちょっと見てみたかったな〜。
「それで、どうするつもりなの、アスナ」
シャーベットさんが言う。
「どの道を選ぶのも貴女の自由よ。アスナのお願いなら叶えてあげる。だってきっと、貴女は妾たちの期待を裏切らないもの」
「もしかして、昨日のアイスくんとの話、聞いてたの?」
「だって、水の側でおしゃべりしてるんだもの、嫌でも聞こえるわ」
なるほど。
じゃあ、火の側でおしゃべりしてたのも丸聞こえだったんだろうなぁ。
「アスナ」
シフォンさんも言う。
「クォンペントゥスには私からも頼んでみるから。アスナのやり方で、やってみて。血が流れるのは、あまり、好きじゃない。止められるなら、止めたいんだよ」
「シフォンさん……」
「私たちにできることは少ないけど」
「お願いしてもらえば、やれるだけのことはするわよ~」
「ふたりともありがとう!」
ふたりのおかげでコンちゃんとも再会できた。ここのところ呼んでも来なかったのは、やっぱりずっと逃げ回ってたからなんだって。アイスくんは嫌そうな顔をしてたけど、最後にはコンちゃんと和解したみたい。わたしには聞こえないんだけど、アイスくんにはコンちゃんの言葉が分かるんだよね。不思議!
「クォンペントゥスは許すことにしたけど……ソダールはしばらく僕の前に現れないでくれるかな」
「えっ、どうしてだい?」
「…………言わないとわからないかな? よくも僕より先にアスナさんの裸を……!」
「おお、ご、ごめんよ……。えっと、仕事があるからもう行くね!」
「あっ!」
せっかく一度に四人も精霊がいるっていう珍しい状況だったんだけど、ソーダさんが逃げちゃって三人になっちゃった。
「アスナたちはすぐに旧王都へ向かうのかしら?」
「ううん。子どもたちをキャンプに送り届けなきゃいけないから」
「それに、旧王都の奴隷村へ行くなら、王都で買い物して、連絡役にも会っておきたいしね。準備が必要だ」
シャーベットさんの質問に答えると、ウンウンと頷いていた。
「わかったわ。支度できたら呼んでちょうだいね。キャンプへでも旧王都へでも、妾かクォンペントゥスが送るわよ」
「そういえば、旧王都ってすっごい乾いてたよね。シャーベットさんが送ってくれるとしたら、雨も降らせられたりする?」
「もちろんよ。ここ最近はアスナが毎日のように魔力の花びらをくれるから、それを代償ってことにして雨を降らせてあげるわ」
「代償とかあるんだ……」
「大きなことをしようとすればね~」
それならコンちゃんにたくさんの人を移動させてもらうのも……。
「そこは気にしなくていいのよ。クォンペントゥスにとっては地面を移動するついでなんだから」
「そっかぁ」
コンちゃんが床の上でゴロゴロして撫でてほしそうにしてるけど、ついでで済むようなことなら放っといていいかな~。代わりに子どもたちが群がってくれてるよ。よかったね、コンちゃん。
「プッ! あはは! あはははは!」
アイスくんが「ざまぁ見ろ」みたいな感じで笑ってるけど、見なかったことにしよ……。
「それじゃ、どうしよう。マナの実とかも集めた方がいいよね」
「そうだね。……アスナさん、この計画、長くかかるかもしれないよ。少なくとも、二、三か月は見ておいてもらわないと」
「うん」
「しかも、その後、王都にいる一族も助け出すんだよ。アスナさんは……」
「いいの。決めたから。……わたし、一族の皆を王都から脱出させるまでは一緒にいる。それまで、一緒にいさせて?」
「……ありがとう」
アイスくんと見つめあっていると、視線を感じた。……いっけない、まだ皆いたんだ!
「あら~。いいのよ、構わずキスして!」
「シャーベ!」
「しません!」
まったく!
シャーベットさんってば!




