計画について 3
※2話続けて更新しております。
「この計画、アスナさんは気に入らないだろうなぁ。もちろん、手直しはするつもりだけどね。でも、きっと……怒るよね」
「怒らないから教えて」
アイスくんは叱られるのがわかってるから先生に「宿題忘れました」って言えない小学生みたいな顔をしている。……ちょっと笑っちゃう。そんな場合じゃないのに。
「一応、割り引いて考えてほしいんだけど、僕たちの立てた計画は、稼働できる人数が少ないせいで杜撰だからね。僕だってこんな賭けはやりたくないけど……」
アイスくんはわたしをジッと見つめて続けた。
「アスナさんを最初に連れて行ったのは、クリエムハルト殿下のいる旧王都だ。そこには兵器工場があって、集められている奴隷たちは最底辺、あとは死ぬだけと思われている人間しかいないんだ」
「…………」
「僕たちが目をつけたのはそこだよ。王都の兵士たちを減らす為に、あの奴隷たちを解放して、旧王都でクーデターを起こさせる。彼らの抵抗が長く続けば続くほど、僕らにとってチャンスが増える……。そして、王都へは爆弾を仕込んでおいて、逃げ出すときにそれを起動させるっていうのが、僕らの作戦だよ」
「ひどい……」
「やっぱり、アスナさんは無理しなくて……」
「違う! 人手不足なのもわかってるし、戦力が足りないのも、多すぎる敵を減らさなきゃいけないのもわかってる。でも、人が死んで、その数が多いほど有利になるって考え方が嫌だし、どれだけ被害が出るかわからないのに爆弾を使おうっていうのが嫌! それに、その用意は結局誰がするのかって言ったら……!」
そこから先は言わなくたってわかる。同じことの繰り返し……人を殺して、国を壊して、そこまでして助けなきゃいけない義務なんて、アイスくんにはないっていうのに。
それでも助けたいと願うのは、やっぱり、お父さんが成し遂げられなかったことだからなの……?
「ごめんね、アスナさん。ごめん……」
「謝らないで……アイスくんのせいじゃないよ……」
わたしたちはお互い黙り込んでしまった。
わたしには難しいことはわからない。間違ってるって思うことだって、必要なのかもしれない。でも、でも…………!
「逃げちゃえばいいのに……」
「逃せばいいのか!」
「え?」
「あれ?」
ふたりで同時に口を開くと、同じ言葉が出てきてビックリした。あ、でも、ちょっと意味が違うかな? わたしはアイスくんばっかりツラい目にあうなら、逃げちゃえばいいって思っただけ。でも、アイスくんは?
「アイスくん、いい案を思いついたの? 教えて」
「うん。……アスナさんが参加してもいいって思えるような作戦を考えていたんだ。それで、出た結論は、何もクーデターを起こさなくても、旧王都の奴隷たちを解放するだけでも混乱は引き起こせるんじゃないかってこと。皆逃してしまえば、工場も止まる」
「工場が止まれば、兵器がこれ以上増えない?」
「そうさ、ギースレイヴンは兵器の力によって他国や属国を抑え込んでいる。工場は止めたくないはずだ。王都に追加の奴隷を求めるだろうし、殿下なら事態の収束だけじゃなく問題の解決を図るはず、それはつまり王都が手薄になるってことだ」
「王都から星詠みの一族の皆を逃がすのも楽に、なる?」
それに、武器がなくなればもしかしてジルヴェストへの侵攻も止まるかもしれない!
「そうだよ! これなら、爆弾を使わなくて済むかもしれない」
「よかった! あ、そうだ、王都でも混乱させるだけなら爆弾じゃなくてもいいんじゃない? 例えば……地震は危ないからダメだとして、雹……は痛いから、雪とか! シャーベットさんにできるかどうか聞いてみて、お願いしてみよう!」
「そうか、精霊の力……! 僕は言われるがままに計画を立てていたけど、そうだ、僕には精霊たちの力が使えたんだった。そういうことができるかどうかも、聞いてみたことがないや。ただ、こうしてくれああしてくれって頼むだけで……。すごいな、アスナさんは僕よりよっぽど精霊たちを使いこなせるんだ」
「それは違うよ、アイスくん」
「え?」
わたしは少し真剣な表情を作った。
「精霊さんたちはお願いをしたら協力してくれる。けど、それはべつに、義務でしてるわけじゃないんじゃないかな。あくまで、こっちのお願いに応えてくれてるだけなの。断ったっていいんだよ、本当は。だから、精霊さんたちを使うっていう考え方は、やめたほうがいいと思う。……やめてほしいと思ってるよ」
「……アスナさんは、本当に……僕が気づかないままでいたことに、気づかせてくれるんだね。……ありがとう。アスナさんに出会えて、本当によかった。そう、心から思うよ。……抱きしめてもいい?」
「ええっ!?」
ハグの文化にまったく慣れない……。
アイスくんが広げる腕の中に抱かれながらそう思う。でも、あったかいから、いっか。
「あと、絶対にやっておかなきゃいけないことは、コンちゃんと仲直りすることだよね。大勢の人を運ぶなら、コンちゃんに頼むのが確実だもん」
「あー……」
「そこはしょうがないでしょ? わたしだって、シフォンさんやシャーベットさんのことを思うと、コンちゃんには言いたいことがたくさんあるけどさ」
「しょうがない、のか……」
しょうがないんだよ。
コンちゃんにどうこう言えるのは、奥さんであるあのふたりだけなんだから。
「なら、それは最初にやるとして……この計画、彼らが賛成してくれるかな……」
「そこはアイスくんの交渉力だよね。でも、ほとんど全部アイスくん任せなんだから、文句なんか言わせなきゃいいんだよ。王さまなんだから横暴したら?」
「あははっ、アスナさんが言うと、横暴って言葉もすごく優しく聞こえるよ」
アイスくんはすごくおかしそうに声を上げて笑うと、わたしを見下ろしてきた。
「アスナさん、巻き込んでしまったこと、本当にごめん。でも、僕は嬉しかったんだ。アスナさんが僕のために怒ってくれたこと、助けてくれようとしてること。これからも、僕たちのために知恵と、力を貸してほしいんだ。助けてくれる……?」
「もちろんだよ。頼ってくれて嬉しい! これでもわたし、アイスくんよりお姉さんなんだからねっ」
わたしがそう言うと、アイスくんは微笑みを深くして、わたしをぎゅっと抱きしめた。




