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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
140/280

計画について 1

 わたしたちはお互いに照れ笑いしながら立ち上がって、ゆっくり話をすることにした。キャンプの方では、シュガーちゃんたちも何かを話し合っているようで、リーダーポジションのお姉さんに申し訳なさそうに「また明日来てください」って言われて追い出されちゃった。


 わたしたちに気を使ってるのか、それとも、このままじゃ収拾がつかなくなるからなのかはわからない。でも、シュガーちゃんの感情の爆発は他のひとたちにも伝染してて、泣き出す女のひと、泣き出す赤ちゃん、起きてきちゃった子どもたちも不安で泣いちゃってて、めちゃくちゃになってるのは間違いなかった。


 キャンプを離れて隠れ家に帰ろうとしていたとき、後ろから声をかけられた。


「行かないでアスナ!」


 わたしが面倒見てる子たちが、泣きながら走って追いかけてきていた。わたしはビックリして、ひとりひとり順番に抱きしめて、泣く子たちをなだめた。


「大丈夫だよ、何も怖いこととかないからね。ケンカしたわけじゃないし、狼も来てないよ? もう寝よ、ね? 朝になったら元通りになってるから」

「一緒に寝て!」

「行かないで!」


 う~~~ん。

 どうしようかな。


「アイスくん……」

「しょうがないな。じゃあ、この子たちだけ連れて行っていいかどうか聞いてくるよ」

「ありがとう。ダメって言われたら、わたしからもお願いしに行くから」

「大丈夫だよ。任せて」


 その言葉通り、アイスくんは子どもたちの着替えが入った袋を持って戻ってきた。隠れ家に戻るためには精霊を呼ばなくちゃいけないんだけど、なんと、狙いすましたようなタイミングでソーダさんがやってきた。


「移動なら私にお任せさ! 今ならギターと歌でおやすみコンサートもプレゼントするよ」

「う~ん! 色々と言いたいことがあったはずなんだけど、すっごく助かるから言わないでおくね。ありがと、ソーダさん」

「どういたしまして! お安い御用さ」


 本当、いいタイミングだよね。今じゃなかったら殴ってたもん!

 キョウのところからの帰り、アイスくんのベッドにわたしを置いていったこと、忘れてないんだから。


 子どもたちはこのおかしな歌のお兄さんが気に入ったみたいで、取り囲んで歌をねだったり高い高いしてもらったりして遊んでた。わたしはアイスくんと一緒に子どもたちの寝る場所を作る。居間のテーブルをどけて絨毯や毛布を敷き詰めて、大きめのタオルを上掛けにして。


 あんなに大騒ぎしたら眠れなくなっちゃうんじゃないかと思ったけど、いったん横に寝かせたら、皆すぐに寝ちゃった。


「すごい。いつもはもっとグチャグチャなのに……」

「元々、寝てたところを中途半端に起きちゃったからね。眠かったんじゃない?」

「私のギターのおかげだよ、きっと。それに、はしゃいだぶん、疲れたのさ」

「あれだけ暴れればそうだよね」

「そうだね。疲れたんだよ」

「あれ? ギターのおかげって言ってくれないのかい?」


 ギターのおかげもあるかもしれないけど、なんか悔しいから黙ってよっと。


「それじゃ、私は子どもたちの部屋にいるからね。あとはふたりでごゆっくり~」

「ソーダさん!」


 わたしが怒ると、ソーダさんは逃げるように小走りで行ってしまった。

 まったく!


「アスナさんは、どうする? もう寝る?」

「アイスくんは?」

「さぁ……どうしようかな。すぐに眠れるような気分じゃないし、明日からの計画でも練り直そうかと思ってるよ」

「そっか……。ねぇ、それ、わたしにも聞かせてくれない?」

「え……」

「あのひとたちを助けたい気持ちは、わたしも同じだよ。アイスくんひとりより、わたしの力もあった方が上手くいくんじゃないかな。だから、わたしにも手伝わせて?」

「でも、それは……」

「わかってる。この選択が誰かを傷つける可能性があるってこと。でも、わたし言ったよね? このことでアイスくんを嫌いになったりしないって。一緒に解決しよう。わたしは、アイスくんと同じ立場で、同じ物を見ていきたい。悲しいことがあって泣くことがあっても、その先で一緒に笑いたいと思うから……」

「アスナさん……。ありがとう。僕は貴女のことを見誤ってた、貴女は本当に強いひとなんだね」


 そう、かな?

 わたしはただ、何もせずに待ってるのが嫌なだけなんだけどな。キャンプのこともそうだけど、わたしにできることがあるなら手伝いたいよ。だって、力を合わせれば、解決できることはたくさんあるはずだから。


 お茶を淹れて、アイスくんから現状の説明をしてもらうことにした。

 テーブルに向かい合わせに座って、アイスくんは頷いた。


「そうだね……何から話すべきか迷うけど、ひとまず僕らの一族のこと、そして王都からの脱出計画について聞いてほしい。疑問点はその都度、確認してもらえると嬉しいかな」

「うん」


 アイスくんはギースレイヴンで星詠みの一族に出会った。今王都に残っている一族の人間は、だいたい六十人くらいだって。その誰もが仕事をしていて、もしもいなくなったら警察みたいな組織が調査に来て大騒ぎになるらしい。今キャンプにいるのは、いなくなっても比較的騒がれにくいひとたちなんだって。


 ここからは少しだけ昔の話になる。


 星詠みの一族は、アイスくんのお父さんがリーダーになって、クーデターを計画していた。でもそれは失敗に終わってしまって、主要メンバーは処刑されてしまった。


 アイスくんのお父さんは女王さまの奴隷になることを誓って、一族のうちで反乱に加わらなかった人間や、ただ手伝っただけの人間を殺さないでほしいと頼み込んだ。それが十三年前に起きた出来事。


 アイスくんが奴隷にされてしまったのは手違いというか、タイミングが悪かったんだって、アイスくんは言った。その頃、星詠みの一族の半分以上はギースレイヴンを避けて別の場所へ拠点を移していた。アイスくんもクーデターが起きる前にそこに避難するはずだったのに、計画を実行するより前に女王の部下がやってきて、皆捕まってしまったんだって。


「あの日から、僕の一族は静かに暮らしてきた。もう誰も犠牲を出さないように、そう言い含められていたからね」

「アイスくんの、お父さんに?」

「そうだよ。でも、結局ヴァニーユさまは殺されてしまった……」

「…………」


 わたしはテーブルの上に載っているアイスくんの握りこぶしにそっと掌を重ねた。

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