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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
136/280

時の精霊キョウ

 わたしは草原に体育座りして、キョウさんとおしゃべりすることにした。正直言うと、ちょっとホッとしてる。アイスくんの姿で現れたときはビックリしたけど、嫌がらせとかじゃなかったし、急に「今すぐ元の世界に帰れ!」って言われることもなかったし。


 見た目が丸い大きな鏡っていうだけで、キョウさん自身は陽気な男の子って感じ。どこかソーダさんに似てるんだよね~。特に、雰囲気が?


「それじゃ、何からお話ししようか」

『そうだねぇ、先に、元の世界に帰れるかどうかの話をしよう。結論から言えば、可能だ。条件が揃えばいつでも帰してあげられる』


 帰れる……。

 帰れるんだ!


「教えて。揃えなきゃいけない条件って、何?」

『まずは記憶。ちゃんと帰りたい場所をイメージできること。そして大事なのは、帰りたいと思う気持ちさ』

「…………」

『アスナは帰るための魔力はすでに持っているし、ここに持ち込んだ物も手元にあるんだよね?』

「うん、大丈夫。全部あるの確認した。……さすがに、クッキーは食べちゃったけど」

『食べ物は、うん、しょうがないよね。大丈夫だよ。それなら、願えばいつでも元の世界に戻してあげられるよ』


 キョウさんは自信満々にそう言った。いつでも……そっか、いつでも帰れちゃうんだ……。

 帰れるってわかると、とたんに、帰りたくなっちゃう。わたしが今、「帰りたい」って言うだけで、戻れるんだ。あの、懐かしい、日本へ。わたしの部屋、わたしの家族、学校、友だち。読みかけの漫画も、楽しみにしてた映画も、何もかも……勝手に置き去りにされたものたちが、わたしがひとこと、言うだけで……!


 でも、


「でも、今はまだ、帰れないよ。ありがとう、キョウさん。教えてくれたこと。帰りたくなったときには、また、ここに来るね」

『……嬉しくないの?』

「嬉しいよ。嬉しいに決まってるじゃない。わたしは、最初から、家に帰るつもりなんだから……」

『でも、嬉しそうな顔、してないよね。鏡見る?』

「……いらない」


 それ、キョウさんが言うの? 鏡ってキョウさんのことじゃん! ちょっとクスッとしちゃった。


「それじゃ、次、何から話そっか。朝になるまで、あとちょっと時間あるし」

『いいよ、無理しないで。アスナ、めっちゃくちゃ眠そうだもん』

「わかる?」

『無理しないで、また今度話そうよ。久々のお客さんで浮かれちゃってゴメン。人間に睡眠が必要だってこと、忘れちゃってた。精霊の中じゃ、元人間の私が一番アスナのことを理解してなきゃいけないのにね〜』

「そっか、精霊になるときに人間じゃなくなったって言ってたっけ」


 キョウさんは一番新しい精霊で、驚いたことに元人間らしい。ということは、わたしと同じような事情だったのかも? 


「わたしは精霊になりたくないから、シャーベットさんにお願いして精霊化を止めてもらったけど、キョウさんは精霊になることを選んだんだね。でも、それでどうして鏡になっちゃったの? 精霊ってほとんど人間と同じ姿をしてるのに」

『説明すると長くなるんだけどな〜。どうしよっかな〜』

「じゃあいいや、おやすみ」

『そんなぁ!』


 いや、だってその前フリは明らかに「断われ」って合図だったじゃん。


『まぁ、冗談はさておきね。この姿を選んだのは、星々と天体の記録だけをしたかったっていう、精霊としての仕事と私の趣味の兼ね合いだったんだよねぇ。だってさ、考えてもみてよ。この草原に寝転ぶとさ、この私の中にさ、あの星々の輝きが映り込むんだよ? 世界の中に、私と星しかない一瞬がさ、連続していくと思うと……グッとくるじゃない?』

「…………」


 こないけど。……こないよね?


『だからね、ここには本来誰も寄せ付けないのさ。虫すら来させない。絶対に。蛾とか許さないから!』

「う〜〜ん。ノーコメント!」


 シフォンさんが言ってたとおり、このひとめちゃくちゃ変人だぁ!


「あ、でも、そんな大事な天体観測のときに来てよかったの、わたし」

『ああ、大丈夫。ちゃんと記録もしてるから!』


 そんな、リアタイ視聴しなくても番組録画してるからみたいなノリで言われても。


『それより、渡しておくものがあるんだよ。アスナ、これを…………手渡せないから、拾ってくれる? この、私の横に落ちてる手鏡』

「あ、はいはい。あった、コレね? かわい〜! どうしたの、コレ」

『それね、あげる。私との交信手段だよ。昼間はたいてい寝てるけど、話しかけてくれれば起きるからね』

「寝てるんだ」

『昼夜逆転生活だからね、グッスリだよ! 日食のときくらいじゃないかな、昼間に起きてるの』

「う〜ん」


 星の観察が仕事だもん、夜じゃなきゃ観られない以上しょうがないよねぇ。精霊だから体を壊すこともないし、何ていうかもう、天職? みたいな?


「キョウさんは時の精霊になれて、よかった?」

『そうだね。嬉しいよ! だって死んでからもこうして星を見ていられるなんて思ってなかったもの。星の動きってやつはね、いつも同じように見えるけれど実はちょっとずつズレているんだよ。気づかないだけで、世界ってやつは変化していくんだ。この星の位置の微妙なズレを把握することによって、時の流れというものをデータとして可視化できないかと私は考えたんだ。幸運にも私は星々の場所の変化を正確に把握できるしね。実際、マッピング的に表すと大変なんだけど、こう考えてみてくれないかな、星の位置が少しずつズレていくということは、決して同じ位置に来ないということだと。それはつまり、星の位置と時間が紐付けられるのだから、星の軌道から時間を呼び出すことができるということ。だから、アスナがここへやってきた時間も計算によって正確に導き出されるということなのさ。それってすごいことだと思わないかい、だって……』


 ……………………。長い。眠い。難しい。っていうかどうでもいい。限界だし。ヤバい、意識が……。


「アスナ、大丈夫かい? キョウには上手く言っておくから、帰りなよ」

「……どうやって?」

「しまった、じゃあ、適当に送るね」

「……うん、よろしく…………」


 サッと風が吹いて、フカフカしたものの上に落とされる。ソーダさん、気を利かせてくれたのか……。今度会ったら、お礼、言わなきゃ…………。

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