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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
134/280

家族の話

 アイスくんはわたしについての話を聞きたがった。

 家族のこと、友だちのこと。特に、お父さん、お母さんのことを。


「僕は物心ついた頃から、ひとりだった。他の大勢の奴隷と同じように、家族は死んでしまってもういないと思って生きてきた。でもね、どうやらまだ、僕にも家族と呼べるひとがいたみたいだ」

「それって、ヴァニーユさんのこと?」


 ギースレイヴンの王都に行ったとき、アイスくんのことをそう呼んだおじいちゃんがいた。「ヴァニーユさま」って。まるで死んだと思っていた人に会ったみたいな、驚きと喜びの感情が混ざったような、そんな声でアイスくんに対して呼びかけてたっけ。


 だから、そのヴァニーユさんってひとがアイスくんの家族だと思ったんだけど。


「ヴァニーユさまはすでに亡くなってるんだ」

「えっ、じゃあ」

「ヴァニーユさまはね、クリエムハルト殿下の父上なんだよ」


 クリエムハルト殿下って?

 誰だろう……でも、殿下ってことは王子さま? ってことは……アイスくんに命令してわたしの血とか心臓を奪おうとしてたヤツじゃん!


「あのさ、その殿下ってもしかして……アイスくんを奴隷にしてたひと?」

「……うん。殿下はギースレイヴンを治める女王の息子で、今残っている唯一の王子なんだ。歳は十二。驚くほど頭が良くて、でも、すごく冷たいひとなんだ……。僕が帰ってこないから、怒り狂っているだろうね」


 十二歳の男の子って……そんなに怖いもの? あ、でも、奴隷の首輪で絶対に逆らえないなら怖いかな。すごく頭がいいのに、ヤバい子なんだぁ。でもアイスくん、「怒り狂っているだろうね」なんて、そんな穏やかに笑いながら言うことじゃないよ〜〜!


 とにかく、話の流れから見て、王子さまはアイスくんの親戚か何かなんだと思うから、そのままアイスくんの説明を待つことにした。アイスくんは何だか言いづらそうにしていたけど、心を決めたみたいに頷いて口を開いた。


「クリエムハルト殿下は、僕の腹違いの弟になるらしい。僕を産んだ母親は死んだって。ヴァニーユさまは、一族のために戦って捕らえられ、女王の虜囚になったんだ。ヴァニーユさまとは何度かお会いしたことがあるけど、あの頃はあのひとが僕の父親だなんて気がつかなかった。ただ、何となく、繋がりを感じていた……」

「お父さんは、いつ……?」

「一年半くらい前になるかな。暗殺されたんじゃないかっていう噂だよ。ちょうど、その頃かな……ルキックたちときちんと言葉が通じるようになったのは……」


 暗殺……。

 日本では馴染みのない言葉だ。現実感がまったくない。でも、お父さんがいきなり死んじゃった……しかも殺されたって考えると、胸が痛い……。


 しかもその頃からクッキーくんやマカロンさんたちとようやくコンタクトが取れるようになったんだとしたら、タイミング的にお父さんが亡くなったからって考えちゃいそう。


「アイスくん」

「えっ」


 わたしは膝立ちになって、アイスくんの頭をギュッと抱きしめた。こんな短期間に色んなことがあって、お父さんのことがわかったと思ったら亡くなってて、しかも知ってるひとだったなんて。


 わたしだったら、「もしもあのとき知ってたら」って絶対に考えちゃうもん。アイスくんだって、きっと何度も考えたハズだよ。


 それに、あのギースレイヴンの王子がアイスくんの実の弟だったなんて……。ずっと敵だと思ってたのに、こんなのって……。アイスくんは、どう思ってるのかな。


「ありがとう、アスナさん。もう大丈夫だよ」

「ん……」


 アイスくんがわたしの腕を優しく叩いて、わたしは元の通りアイスくんの顔が見られるように座り直した。


「今は、この情報を教えてくれた同じ星詠みの一族たちと情報交換しているんだ。せめて女のひとと子どもだけでも他所に逃がそうってことになって、ようやくその準備が整ったんだ。アスナさんとジフのおかげだよ」

「そうなんだ、よかった。首輪は大丈夫?」

「……外せなかったけど、国の外まで離れれば効力は弱まるから。きっと大丈夫だよ。明日、アスナさんも一緒に来て。そのほうが、女のひとたちが安心するから」

「うん!」


 アイスくんが「そろそろ戻ろうか」って言って先に立ち上がった。けっこう長い間話し込んじゃったからお茶も冷めちゃったし、毛布があってもやっぱり寒いもんね。


 ポットとマグカップをお台所に戻す。明日はアイスくんの一族に会えると思うと、ちょっとドキドキ。楽しみだな。


「じゃあ、そろそろ寝ようか」

「うん……」


 なんとなく離れがたくて、足が止まる。


「僕の部屋に、来る?」

「えっ!? えと、いや、それは……!」


 それはさすがに!!!


「じゃあアスナさんの部屋にしようか」

「えええええ〜!? だ、だ、ダメっ!」

「あはは、冗談だよ。おやすみなさい」


 アイスくんはいたずらっぽく笑うと、わたしに軽くキスして行ってしまった。


「……おやすみ、なさい」


 ……。

 …………。

 えええええ〜〜〜!?

 こわっ! 男の子怖い! ほんのちょっと前まで、ちょっと引っ込み思案で自信がない感じの、年下の男の子だったのに! 弟みたいなポジションだったのに!


 ついさっき、初めてのキスをして、ふたりして真っ赤になっちゃったのに……。アイスくんだけ、一足飛びするみたいに、いきなり大人になっちゃった感じ。


 余裕な顔で、不意打ちのキスして行っちゃった。

 ずるいなぁ……。わたしはこんなにドキドキしてるのに! いつの間にか、追い越されちゃった。


 フクザツな気持ちで部屋に帰ると、中に誰かがいて、わたしはギクリと固まった。急なことすぎて悲鳴が出てこない……!


 蝋燭に照らされたそのひとは、一歩進み出てきてわたしに向って片手を差し出してきた。


「やぁ、アスナ。迎えに来たよ。夜の風乗りにでも出かけないかい?」

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