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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
130/280

アイスくんの、秘密

 帰る話は後回し。

 でも、人目もあるし邪魔になるから、ちょっと目立たない感じの路地裏へ移動する。


 わたしたちはソーダさんを逃さないように囲んだ。ごめんね、ソーダさん。ソーダさんが悪いわけじゃないのにね。


 ソーダさんが言うことには、精霊になったわたしを誰かが面倒見ないといけないけど、シャーベットさんは凍ってるから無理だって。だから、コンちゃんがわたしのことを引き受けるって。


「それで……花嫁? ソーダさんにそんなこと言ったんだ、コンちゃん」

「……あの大きさなら、アスナさんに毛皮の上着を作ってあげられるよね」


 ボソッとアイスくんが黒いことを言う。


「シャーベのところへ、行かなくちゃ……。ごめん、アスナ、帰りはソダールに送ってもらって」


 あっ、シフォンさんはシャーベットさんにこのことを伝えに行くのね。シャーベットさん、氷のお城にいるといいけど。わたしたちの目の前で、空気に溶けるみたいにしていなくなっちゃったんだよね。


「ごめん、何だか、怒らせてしまったね」

「ううん、ぜんぜん。ソーダさんのせいじゃないよ。むしろ、教えてくれてよかったよ。それに、先生のことも、ありがとう。……魔力が回復したら、また、風の膜を張ってもらえないかなぁ。お願いしても、いい?」

「もちろんだよ。頼られるのは、嬉しいね!」


 ソーダさんが嬉しそうに笑った。

 そんなわけで帰ろうとしたそのとき、わたしたちに近づいてきたひとがいた。


「ヴァニーユさま!? まさか、こんなところにいらっしゃったとは……! おお、ヴァニーユさま、生きてまた出会えるなんて……!」


 フラフラ進み出てきて、アイスくんの前にひざをついたのは、けっこうなお年のおじいちゃんだった。奴隷の首輪をはめてて、服は汚くはないけど粗末な感じ。


 おじいちゃんは涙を流しながらアイスくんの手を取って、自分の額に押しつけている。でも、ヴァニーユさまってどういうこと? アイスくんは、アイスくんじゃないの?


 おじいちゃんにそうされているアイスくんは、まるで、幽霊でも見たみたいな表情になっていた……。


「ソダール、今すぐ、移動して」

「構わないけど、このおじいさんはどうするんだい?」

「…………一緒に、連れて行く」


 えっ、このおじいちゃんを!?

 いいのかな……。だって、このひと、奴隷の首輪がはまってるとはいえ、浮浪者とかじゃないよ? どこかに家があって、家族もいるかもしれないのに。


「アイスくん、やめようよ。どういうことか、よくわからないけど、ちょっと一旦落ち着こう? いきなり連れて行くなんて、そんなの誘拐だよ……」


 アイスくんはぐっと握りこぶしを作って、何かに耐えているみたい……。そして、力を抜いたかと思うとポツリと言った。


「帰ろう。このひとは、連れて行かない。それなら、いいんだよね? 帰ろう、ソダール、頼むよ」


 ソーダさんが風を巻き起こして、わたしたちは一瞬のうちにあの隠れ家の前まで来ていた。アイスくんが背中からわたしをギュッと抱きしめる。


「ごめん、アスナさん……でも、今だけは、少し、このままでいさせて……」


 アイスくんは震えていた。泣いてはいないと思うけど。

 後ろから抱きしめられてちゃ、抱きしめかえすこともできないよ。


 わたしは空を見上げた。もうすっかり日が沈んで、星が見えている。澄んだ空に輝く、知らない星座たち。わたしは星を数えることにした。


 しばらくして、数えた星が百を超える頃、アイスくんがわたしから離れた。


「ごめんね、もう、大丈夫だから」

「ううん、いいよ。いいけど、さっきのことって……」

「それはまた今度にしよう。今日は疲れたよね、早く休んだほうがいいよ」


 言いたくないってことなのかな。

 わたしはそれ以上聞かないことにして、アイスくんと家の中に戻った。夕ごはんは軽く済ませて、お風呂に入って寝ることにする。


 ベッドの中でわたしはさっきのことを考えてみた。

 あのおじいちゃん、アイスくんの家族を知ってるんじゃないかな。だって、アイスくんの名前は、ヴァニーユさんじゃないよね? 久しぶりにステータスも開いてみよう。


◎アイス君

挿絵(By みてみん)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【名前】アイスシューク

【性別】男

【年齢】15

【所属】ギースレイヴン国

【職業】精霊の巫

【適性】魔法使い

【技能】《氷魔法》《農業》《繋ぐ者》

【属性】不憫

【備考】ヴァニーユさんって誰だろう?


 ☆ ☆ ☆


☆『結界を越えて行き来する方法を知っている』

☆『星詠みの一族の王である』

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 わっ、なんかいっぱい増えてる!

 職業の欄、空欄になってたのに、なんか書いてある。良かったね、アイスくん、これで無職じゃないね! 逆にわたしの方が、学校辞めちゃったから無職なんじゃ……やめやめ、そんなことは考えない!


 『精霊の巫』っていう字をよくよく眺めていると、ふんわりとルビが浮かび上がってきた。……せいれいの、ふ? これ、『ふ』って読むんだ!


 技能のところは、《氷魔法》の他に《農業》と《繋ぐ者》ってある。……精霊にお願いしてるからかな?


 あと、変わったのは……星がぜんぶ白くなってることかな。真ん中だけ飛べないけど。このステータスには、シャーベットさんが言ってたとおりのことが書いてある。そして備考のところにはさっき聞いた新しい名前。


 このステータス、わたしが考えたことと事実と、ちゃんとわけて書いてあるんだね。じゃあ、やっぱりヴァニーユさんって、アイスくんの別の名前じゃないんだ。


 いつか、わたしにも教えてくれるかな?

 それと……時の精霊にも、早く会いたい。すぐに帰ることと、帰る手段を知ってることとは、べつだよね……。帰れるのか、帰れないのか、帰れるとしたらいつ、どうやって? 


 それを知ってから、考えよう。 

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