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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ノーマルルート
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そんなにわたしって童顔かなぁ?

「勝手に連れて来たくせに! っていうか、『ありがとう』じゃないでしょ、『ごめんなさい』でしょ!? ほんとに勝手なことばっかり言ってくれちゃって!!」

「……口と同時に手も出るとは、想像以上にお転婆だな」

「グーじゃなかっただけ感謝してほしいんだけど!?」


 銀シャリ野郎は不服そうに顔を歪めているけれど、そんなの知ったこっちゃない。わたしは「元の世界に帰すのは無理だ」と彼が言う理由を尋ねた。昨日もはぐらかされて、今日もまた曖昧に言い逃れられちゃたまらない。今度こそ聞き出すつもり。ややあって、シャリアディースはもったいぶって話し始めた。


「まずは……単純に魔力不足だよ。世界をまたぐのは大変なんだ、だからこそ呼び寄せるのじゃなく、落ちてくるのを待ったのだ。そのせいでギリギリにはなってしまったけれど、運は私に味方したようだ。……まぁ、君にとっては不運だったわけだがね、妃殿下」

「妃殿下は、やめて。それで?」

「よく知りもしない場所から落っこちてきた物を、元の場所に戻せるとお思いか? 今までもこちらの世界に意図せずにやってきてしまった者たちもやがては諦めた。少なくともこの千年、無事に帰れた(ためし)を私は知らない」

「………………」


 自分勝手。

 あんまりにも自分勝手な理屈だ。


 わたしがここに来てしまった理由を作っておいて、「呼んだわけじゃないから帰し方はわからない」なんて。あんまりにも身勝手すぎて怒るより先に呆れてしまう。しかも、この人間かどうかも怪しい男はさらにペラペラとしゃべり続けている。あれだけ重かった口が今は良く回るらしい。腹の立つことに。


「前も言ったが、ここは他所とは違って魔力に満ち溢れた美しい場所だ。君が修復してくれた結界のおかげでいつまでも平和を保っていられる。それに何より、きみの子孫がこの地に満ちれば、安定してその状態を保ち続けることができるんだ! 素晴らしいことだと思わないか? 私の悲願が叶う……約束された千年王国の完成と共に、新たな歴史が始まるんだ!」

「……それはつまり、わたしにジャムと結婚してこどもを産んでほしいってこと?」

「その通り。ふたりの子どもならきっと可愛い。魔力の高い、質の良い子どもがたくさんいれば、この国は安泰だ。オースティアンもそれを承知で君に求婚したろう?」

「……最っ低」


 漏れ出たわたしの低い声にシャリが身構える。でも、もう殴る気力すら沸かなかった。立っているのもやっとだった。これ以上ここにいたら、涙がこぼれてしまうかもしれない。それをコイツに見られるのだけは嫌だった。無言で背中を向けたわたしに、焦ったようなシャリアディースの声がかかる。


「オースティアンが気に入らなければ、別の人間でも構わない。結婚さえすれば、きっと君もこの世界に馴染むようになるだろう。三年後の卒業を楽しみにしているよ、妃殿下」


 わたしは、その言葉を無視して走り出した。今度こそ、シャリアディースは引き留めなかった。






 泣きたいのに泣けないのがこんなにイライラするものだとは思わなかった。

 今すぐどこかで膝を抱えて泣きたいのに、わたしの後ろからクルミ割り人形みたいな、もしくはイギリスの兵隊さんみたいな制服の二人がついてくるんだ。


「もうっ、あっち行ってって言ってるでしょ!?」


 何度も繰り返したやり取り。わたしより年下に見える男の子たちは首を横に振ってわたしの「お願い」を無視してついてくる。本当に、イライラする!


 そもそも、あのシャリのヤツがいけないんだ!

 ジャムもジャムでしょ、あんな風に言われるなんて、犬のブリーディングじゃあるまいし! アンタ本当にそれでいいのか!?


 誰とでもいいって言われ方も腹が立つんだよ、なんでアンタのためにわたしが明るい家族計画立てなきゃなんないんだ、銀シャリ! あのコメ野郎!!


「だーーーっ!」

「うおっ、なんだっ!?」


 いい加減、堪忍袋の緒が切れそうになったところで、生け垣の向こうから驚いたような声が上がった。確か、トピアリーって言うんだったかな、複雑な形に刈り込まれた庭木を揺らして顔を出したのは見覚えのある人だった。


「ドーナツさん!!」

「え? 誰のことだ?」


 凛々しいお顔が若干困惑ぎみだ。そりゃそうだよ、だって本当の名前じゃないんだもん。あわててステータスを確認していると、本人が名乗ってくれた。


「ま、いいや。俺の名前はオールィド・ドゥーンナッツ、若枝騎士団に所属している。また会ったな、異世界の女の子!」

「わたしはアスナ、クサカ アスナです。あのときはどうもありがとうございます。おかげさまで死ななかったし、キスもしなくて済みました」

「おう、良かったな!」


 屈託なく笑うドーナツさん。

 ニカッと歯を見せて笑う様は、まるで高校生みたい。もう二十歳なのにな。


 と、近くで見てふと気づく。彼の耳からぶら下がっていた、マラカイトみたいな緑色の棒が一本無くなっている。どこかで落っことしちゃったんだろうか。聞いてみると、事も無げにこう返された。


「ああ、ピアスな! マナの実のキャンディー見つけたときに持ち合わせがなくってな、身分証明代わりに置いてきたんだ。そのうち代金を請求しに来るだろ」

「ええっ!? た、大切な物なんじゃないの?」

「ん、成人の記念に父親から貰ったやつだ。俺が剣と同じくらい大切にしているやつだぞ」


 それがどの程度すごいことなのかは分からない。でも、胸を張って大事だと言える物を、もしかしたら返ってこないかもしれないのに質草みたいに扱うなんて……。しかも、見ず知らずのわたしのために、無駄かもしれなかったのに……。


「あの……ありがとうございます。そこまでしてくれていたなんて、気がつかなくって……」

「いいんだって、困ったときにはお互い様だろ?」

「だからって、大切な物を賭けてまで人助けなんて、なかなかできないよ」

「きみこそ、こんな小さいのによく頑張ったな。偉かったぞ~!」

「わっ、ちょっと、髪の毛がグシャグシャになる~!」


 ドーナツさんはわたしの頭を大きな手で掻き乱した。抗議しても「あはは」と笑っている。


「こども扱いしないでってば! わたし17ですよ?」

「えっ!?」


 ドーナツさんの手が止まった。まったく……いくつだと思われてたんだろ。

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