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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
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再会

 男の怒鳴り声だなんて穏やかじゃないなぁ。何事かと思ってキョロキョロしていると、角から六、七歳くらいの女の子が走って飛び出してきた。それを追っているのはチンピラみたいな男たち。三人も!


「アスナさん、下がって」

「でも……!」

「たすけてぇ!」


 女の子は必死な顔で叫んでいる。その目がわたしを見た。わたしは思わず頷いていた。


「アイスくん!」

「まったく……しょうがないひとだ」


 ごめん。でも、わたしはアイスくんの実力を知ってるから頼らせてほしい。こんな小さい子、見捨てられない!


「“氷の槍(アイス・ランス)”!」


 アイスくんの手から氷の槍が放たれて、チンピラたちの足下で弾ける。女の子は無事にわたしのところまで走ってきて、わたしはその子を安心させるようにギュッと抱き止めた。


「これは警告だ、二度はない」


 アイスくんは構えを解かずにそう言った。チンピラたちは一目散に逃げていく。よかった。


「ありがとう、アイスくん」

「ううん、べつに、これくらい何ともないよ……アスナさんなら、きっとこうすると思っていたし」

「えへ、バレてた?」


 アイスくんが笑いながら頷く。シフォンさんがわたしの肩を叩いた。


「離れよう、注目を集めてしまうよ。その子も、どうしたらいいのかわからないみたいだし」


 言われてみれば、けっこうな音がしたし、レンガ道には穴が開いている。わたしたちは女の子を連れて、急いでべつの道へ入った。チンピラが仲間を呼んで追いかけてきても怖いしね。


「きみ、家族は? 道、わかる?」


 アイスくんの言葉に女の子は頷いた。


「じゃあ、わたしたちを案内して。送っていってあげる。大丈夫、わたしたちは何もしないからね!」

「おにいさん、おねえさん、ありがとう。おにいさんは、魔法が使えるなんて、もしかして……王族のひと?」

「えっ」


 わたしは驚いた。

 この子、アイスくんのこと知ってるの? シャーベットさんが、アイスくんのことを「星詠みの一族の王」って言ってた! じゃあ、この子は……!


「残念ながら違うよ、僕は見て覚えただけで、そういう教育は受けてない」


 あ、魔法って、習って覚えるんだ。そういう意味で、王さまと勘違いしたってことね。なるほど。アイスくんと同じ一族の子じゃなかったのか……それは、ちょっと残念。


「じゃあ、行こう。きっと家族も心配してるよ。きみには輪がついてないから、奴隷じゃない……よその国から来たんだね?」

「うん。おにいさんたちも……」

「そうだよ。僕たちも奴隷じゃない。だからこそ、僕らに助けを求めたんだよね。安心していい、きみは正しいひとに助けを求めたんだから。アスナさんは、こういうのほっとけないひとなんだよ」


 アイスくんがそう言うと、女の子はようやく安心した顔になった。そっか、そういえば確かに首輪がない。逆に言えば、さっきのチンピラたちは首輪をしてた。


「あのチンピラたち、首輪してたね」

「そうだよ。あの店の店主は手首に輪があったの、見えてた? 大通りを歩いているひとたちも、ほとんどが輪をはめられた奴隷だよ。そのランクは別としてね」


 わたしの疑問に、アイスくんが歩きながら答えてくれる。この女の子の体にはどこにも輪がはまってる風じゃない。だからアイスくんには、この子がよその国から来たってわかったんだ。


 それとギースレイヴンに外国人がいるってことは、ほとんどの場合、物を売りに来たキャラバンのメンバーってことになるらしい。ギースレイヴンでは時々、外国人が拐われて奴隷にされちゃうことがあるから、何人かで固まっていることでそれを防いでるんだって。


 ……怖すぎじゃない?


 奴隷が奴隷狩りって、どういうことなワケ?

 おまけに外国でも、ギースレイヴンの人間が奴隷狩りをしているって。国がそんなこと許してるなんて!


「でも、奴隷狩りをする奴隷を罰する軍人もいるよ」

「その軍人も……」

「もちろん、女王の奴隷だよ」


 奴隷が奴隷狩りをしたり、奴隷狩りをする奴隷を奴隷の軍人が罰したり……う〜〜ん、わけがわからなくなってきたよ〜〜!


「要するに、ランクが違うだけで、この国の人間の大半が奴隷っていうことだよ。命令に逆らうことはできないけれど、逆に言えばすべてを律することはできない、抜け道があるってこと。

 奴隷狩りをしているのはほとんど最低ランクの奴隷たちで、奴隷狩りに失敗して捕まったら最後、使い潰されて死ぬだけなんだ。自分の待遇を良くするためや、端金で享楽したいため、それとももしかしたら自分の主人に命令されて奴隷狩りをしているのかもしれない……。まぁ、アスナさんには、一生縁のないことだよ」


 そんな怖い話を、アイスくんは淡々と語った。

 ついさっき奴隷にされそうになった女の子が、ギュウっとわたしにしがみついてくる。そうだよね、怖いよね。怖かったよね。


 でも、それよりもわたしには、アイスくんの言葉が突き刺さっていた。わたしには一生縁のないこと……。そうかもしれないけど、まるで、アイスくんの人生にわたしは関わりがないって言われているようで、胸が苦しくなった。





 女の子の家族がいるっていうキャラバンは、さびれた空き地みたいな広場にいた。馬車がたくさん並んでいて、大勢のひとがそれぞれに小さな焚き火をしていた。美味しそうな匂いがする……夕ごはん作ってるのかな?


 その中から叫び声がして、女のひとが男のひとの手を振りほどいて飛び出してきた。


「ママ〜!」


 泣きながら抱き合うふたりを見て、本当によかったと思った。さっき、おかあさんを止めていたのはお父さんだったみたいで、今度は三人になって喜んでいたし、周りの馬車のひとたちも嬉しそう。泣いてるひともいる。


 誰かがギターを鳴らし始めた。ちょっとスローで、明るい音色。


「みんなの涙を笑顔に〜、再会の、喜び〜。きみといれたら嬉しい、もうなにも、怖くないよ〜〜」


 ああ、どこかで聞いた声がする……。

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