表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
126/280


▶【クッキーくんを中に入れる】


 ど、どうしよう、壁にこんな穴があるのに……!

 あ、でも、よく考えたらコンちゃんが開けたんだし、わたしが怒られることはないか。


 わたしは立ち上がってドアを開けた。


「クッキーくん、どうぞ。話ってなぁに? あのね、今……あれ?」

「どうしたの?」

「うん、今、コンちゃんがいたんだけど……いなくなってる……」


 コンちゃんは跡形もなく消えていた。穴もなくなってるし。コンちゃん、何しに来たんだろ。


「とにかく、入って」

「うん」


 クッキーくんはうなだれていて、元気がなかった。お昼ごはんの前、マカロンさんと喧嘩してたもんね。わたしとしては、クッキーくんが望むとおりに、ここに残ることはできないんだけど……。


「座っておしゃべりしよっか。ほら、椅子どうぞ」

「ううん、ここがいい……」


 クッキーくんは、わたしと並んでベッドの端っこに座った。思いつめた顔をして、わたしの服の裾をギュッと握って。わたしは抱きしめたくなる気持ちを我慢して、クッキーくんが話してくれるのを待った。


「ねぇ、アスナちゃん」

「なぁに?」

「アスナちゃんは、アイスのこと、嫌い?」

「えっ、そんなことないよ」

「じゃあ、好きってことだよね?」


 う〜〜〜〜〜ん!

 そう来たかぁ! 「嫌いじゃないよ」からの「好きなんだよね」はズルいよ〜!


「えっとね、普通、っていうのじゃダメ?」

「ダメ! だってアスナちゃん、アイスのこと好きだよね? 見てたらわかるもん! 好きって言ってよぉ!」

「クッキーくん……」


 そんなこと、言われても、困る。

 アイスくんのことを好きな気持ちは、本当だから。好きになっちゃダメって思うほど、アイスくんのことばかり考えちゃう。でも、この気持ちは、抑えなくちゃいけないから。


「アイスの側にいてあげて! アイスを、独りぼっちにしないで!」

「……!」


 クッキーくんの必死な声が心に突き刺さる。

 そう、わたしだって、考えてた。あの夜、わたしの部屋へ来たアイスくんはボロボロで、そして、体と同じくらい心も傷ついていた。


 首輪をはめられて逆らうこともできないまま、それでもわたしを助けようとしてくれたアイスくん。同じ奴隷の立場のひとたちに協力を求めたのに、裏切られて、殺されかけて。


 首輪が外れたって、帰る国もなく独りぼっちで……。精霊たちが側にいてくれたって、それが本当にアイスくんの救いになるのかな。


 いつもオドオドしていたアイスくん。

 一歩引いていたアイスくん。うつむきがちだったアイスくん……。


 首輪が外れてからは、少し、背筋が伸びた気がする。

 表情も明るくなって、笑顔も晴れやかで。わたしはそんなアイスくんの笑顔をもっと見たい。ずっと、近くで。


 わたしが帰っちゃったら、アイスくんはどうするのかなって、考えてた。ちゃんと、考えてたよ……。


 わたしがアイスくんを想って泣くように、アイスくんもわたしのことを思い出して泣いてくれるのかなって。


 ヤケになっちゃったりしないかな、とか、これからも独りでこんな隠れ家に暮らし続けるのかな、とか。それとも、街に出て年下の可愛い女の子と出会って恋人同士になるのかな……とか……。


「アスナちゃん……泣いてるの……?」


 泣くつもりなんてなかったのに、涙が止まらないの。

 アイスくんのことを思うだけで、心臓が勝手にドキドキしちゃう。いつかくるお別れのときのことを考えると、悲しくて、苦しくて、叫びだしそうになる。どうしてわたしたち、こんなにも住む世界が違うんだろう……。


「わ、たし……アイスくんが好き……好きなの!」

「アスナちゃん! だったら……」

「でもダメ……ダメなの。わたしには、家族がいるんだもん。きっとすごく心配してる。早く、帰らなくっちゃいけないの。こんな形で二度と会えなくなるなんて嫌だよ……! だって、わたしまだ、何にも伝えてない……大事なこと、ありがとうも、ぜんぜん……!」


 クッキーくんは黙って、そっとわたしから少し体を離した。


「帰りたいの……。だから、わたし……」

「アスナちゃんは、家族が大事?」

「うん……。わたしにとって、一番守りたいものが、家族なの」

「ひどいや……」

「ごめんね、クッキーくん。ホントに、ごめんなさい。アイスくんのことが好きだけど、だからこそ、これ以上ここにはいられないよ……だって、どんどんつらくなっていくばっかりだから……」

「アイスのこと、好きって、言ったのに……!」


 うつむいて肩を震わせてるクッキーくんの表情は見えない。でも、その声が怒っているのはわかる。


「クッキーくん……」

「ひどいよ、アスナちゃんは! アイスには、もう、その家族すらいないのに! アスナちゃんがいなくなっちゃったら、アイスはどうやって生きていけばいいの!? 裏切り者……裏切り者!」


 家族すら、いない……。

 そうだよね、アイスくんには両親と過ごした記憶がないんだった。物心ついたときから奴隷で、同じ一族のひととも引き離されて独りぼっち。友だちも、きっと……。だって、アイスくんから友だちの話、聞いたことないもんね。


 わたしが、贅沢なのかな。

 家族がいて、友だちがいて、それだけで充分だと思わないといけないのかな……? 皆が無事なんだから、たとえ会えなくても、仕方がないのかな…………。


 この世界に落っこちてきて、たくさんのひとのお世話になって。それなのに、何も返せないままで帰ろうとしてる。わたしは、薄情で、卑怯で…………裏切り者なのかな。


「わ、たし……」

「もう、みんな、忘れちゃえばいいんだよ」

「え……?」

「アイスより大事なものなんて、必要ないでしょ?」


 クッキーくんの手元が、強く光った。眩しい……!





 ◇◆◇





「……勝手なことをしたものだ。これでアイスが喜ぶのか」

「大丈夫だよ、カロン。アスナちゃんがアイスを想う気持ちは本物だもん。ね〜、アスナちゃん!」


 ルキック・キークは嬉しそうにアスナの髪を櫛で梳かしながら言う。アスナは嬉しそうに微笑んだ。水色のウェディングドレスに身を包み、赤い薔薇のブーケを持つ彼女は、どこから見ても幸せな花嫁だった。


「アスナちゃんは〜、どうして帰るのをやめたんだっけ〜?」

「もう、恥ずかしいから、わざわざ言わせないでよ! ……アイスくんのことが好きだからだよ」

「もう、家族のことはいいの〜?」

「いいの。高校を卒業したら、どうせ家からは離れるつもりだったし……一人立ちが早まっただけだよ。まだちょっと、寂しいけどね」


 アスナの受け答えは完璧だった。表情も、セリフも、今までのアスナと変わりない。カロンはため息をこぼした。


「どう、カロン?」

「……ルキック、ダメだ。これには白と黒が足りない。お前の光と、私の闇とが」


 カロンが指をすいっと動かすと、アスナのドレスに白と黒のフリルが加わった。


「わぁ、ありがとう、カロン!」

「構わない。ただ、遊び終えたら、ちゃんとクォンペントゥスに返すんだぞ」

「うん! でも、アイスがどれだけ長生きするかだよ。アスナちゃんが先に死んじゃったらどうしよう」

「そのときには、死んですぐに精霊に生まれ変わるから心配ない」

「なら良かった! アイス、喜んでくれるかなぁ」

「喜ぶさ。お前からの贈り物なのだから」







END『幸せなウェディング』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このルート、どこにもかしこにも敵しかいねぇ(´Д`lli)
[良い点] 襲い来る容赦なきバッドエンド♥️ [一言] アイスくんルートは本当にバッドエンドが多くてww アスナ、頑張ってトゥルーエンドつかみとって!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ