分岐点 6
▶【……やめておく】
アイスくんから誘われたけど、でも……。
わたしは断ることにした。アイスくんにあまり踏み込まない、近づきすぎないって、さっき決めたことでしょう? それなのに、それを口に出すとき、とても胸が痛かった……。
「アイスくん、ごめんね……」
「いいよ。ギースレイヴンに行きたくない気持ちはわかるから。でも、僕がいない間、どこかに行ったりしないって、約束してくれる?」
「どこかって……どこ?」
「これから夜だから、たぶん大丈夫だと思うけど……。誰に誘われても、部屋から出ないでほしい。いい?」
「わか、った……」
誰に誘われても……って、誰に?
夜中にコソコソ出かけるなんてありえないと思うんだけどなぁ。
でも、アイスくんの表情がすごく真剣なものだったから、わたしは戸惑いながら頷いた。
「よかった。約束、忘れないでね、アスナさん」
わたしの手をぎゅっと握って、アイスくんはニッコリ笑う。
それって何だか、「他の誰とも仲良くしないで」って言ってるみたい。アイスくんってば、実は嫉妬深い性格なのかなぁ?
遅めのお昼ごはんを一緒に作る。メニューはスパゲッティ。アイスくんが手作りしていた生パスタを茹でて、これまた手作りのミートソースと絡める。生のパセリを散らして……うん。上出来!
それと、畑で採れたお野菜でサラダとスープも作った。コンソメキューブみたいなものがある世界で良かった〜! わたしたちは向かい合わせに座って、いただきますをした。
「わぁ~! すっごく美味しい、これ! アイスくんは料理上手なんだね」
「そんなことない、全部、手伝ってもらったものだから」
「謙遜だよ~。充分すごいよ! 尊敬しちゃう!」
アイスくんは照れくさそうに笑った。
なんか、いいな。こういうの。ここへ来てからそんなに時間なんて経ってないのに、まるでずっと一緒にいたみたいに居心地がいい。
「……ずっと、こういう時間が続けばいいのに」
まるでわたしの気持ちを言葉にしたみたい。
わたしは何も言えなかった。
告白されたのに、いつまでも答えを出さないわたし……。それなのに、アイスくんはそんなわたしにすごく、優しい。
シフォンさんとギースレイヴンに出かけていくアイスくんを見送って、わたしは自分のために用意された部屋に戻った。
そこは机とベッドと飾り棚があって、ちっちゃい部屋だけど壁にはクローゼットまで掘ってあって、なかなか居心地がいい。窓はないけど、カーテンがかかってて、そこまで狭いふうには見えないし。
カーテンもベッドも、それにクッションとかも、ピンク系の可愛い布が使われててわたしの好み。どうして女の子の部屋がバッチリ準備されてるんだろうって、不思議に思って聞いてみたら、マカロンさんが真面目な顔して、
「我々にはそれぞれできることとできないことがあるが、得意な分野に関して時間が我らの障害になることはない」
だって!
ひとことで言えば「ラクショー!」ってことでしょ? マカロンさんてばおかしいの。
初めてこの部屋で過ごす夜。
アイスくんも出かけちゃったし、まるっきりひとりっていうのは、あんまり経験がないなぁ。慣れない部屋……窓もないから、ちょっと星を見たいと思っても見られないし、風も感じられない。
「ちょっと外に涼みに行っちゃダメかな……」
アイスくんとの約束を思い出す。
『どこにも行かないで』『部屋から出ないで』
「アイスくんてば、過保護だよね。……まあ、いっか。我慢しよ」
アイスくんが帰ってくるまでの短い時間のことだもんね。
ジルヴェストとかギースレイヴンとか、不安要素はあるけど、ここにいる間に何かあったりなんてしないでしょ!
わたしは机に向かって日記帳を開くことにした。
う~ん、本格的に暇つぶしの材料がない。
「アイスくんが帰ってきたら、時の精霊さんのとこまで連れてってもらおう」
『やることリスト』にそう書きつつ、これからのことを考えていると、壁からコンコンって音がした。
「やだ、なに?」
慌てて壁を見てみると、そこには大きな穴が開いていた!
そこからピョコンと顔を出したのは、なんとコンちゃんだった。といっても、わたしが通れるスレスレくらいの大きさだから、顔は出せても耳は出てない。やだ、ちょっとマヌケ!
「も~、ビックリさせないでよね、コンちゃん! 朝は何回呼んでも来てくれなかったくせに~」
コンちゃんはお鼻をピスピスさせている。額のとこ撫でちゃう! もっとモフモフしたいけど、穴の向こう側じゃあね……。
「こっちに出られない? ちょっと穴が小さいかなぁ?」
そのとき、ドアをノックする音と、クッキーくんの声が聞こえてきた。
「アスナちゃ〜ん、開けて〜」
「クッキーくん?」
「お話しよ〜? ね、いいでしょ?」
わたしは迷った。
壁には大穴、そして顔を出しているコンちゃん。
クッキーくんを中に入れてもいいのかな?
わたしは……
▶【中には入れられない】
▷【クッキーくんを中に入れる】




