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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
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精霊と世界の話

 火の精霊、シフォンさんはわたしのために温かいお茶を淹れてくれた。

 本当は、すぐにでも魔力をどうにかしてほしかったんだけど、「長い話になる」って言われちゃったから……しょうがないよね?


「パンもあるよ。ストーブで焼いて食べたらいい。卵も焼いてあげるよ」

「嬉しい! ありがとうございます。昨日の朝から何も食べてないの!」

「それは可哀想だ。大変だったね」


 シフォンさんはそう言いながら、わたしのために目玉焼きを作ってくれたり、ハムを切って焼いてくれたりした。パンもおかずも、合わせて美味しい!


「美味しいです!」

「よかった。じゃあ、食べながらでいいから聞いてほしい。私たち、精霊のこと……」


 それは、前に一度、キャンディのパパ――アガレットさんから聞いた話と、よく似た話だった。

 何もない空間に、最初、光の精霊であるクッキーくんが現れた。それと同時に、闇の精霊マカロンさんもこの世界に存在するようになった。それが一番最初に「世界が揺れた」ときの話。


 火の精霊シフォンさんもそのときに現れたんだって。光の精霊、クッキーくんから分かれるようにして、まるで生み出されるように。つまり、シフォンさんにとっては、クッキーくんは親みたいなものだってこと。


 でも、シフォンさんはそのままじゃ消えてしまうところだったの。何も燃やすものがないなら、火は存在できない。きっと世界の最初は、宇宙空間みたいに真空だったんじゃないかな?


 そこに、風の精霊ソーダさんが出てきて、シフォンさんは燃え続けることができた。


 クッキーくんが世界に現れたことで、物が見えるようになって、自分たちの下に大地の精霊であるコンちゃんと、水の精霊であるシャーベ……ットさん? がいることに気がついたんだって。コンちゃんとシャーベットさんは夫婦だったの。それで、命がたくさん生まれた。


「でも、私は、家もないままだったし、頼みの綱のソダールはフラフラしてて頼りにならないし……」

「あ~、わかる……」

「ルキックやカロンはいいよね、家がなくたって生きていける。ソダールだってそうだよ。でも、私はそうじゃなかった。そんなとき、クォンペントゥスが、大地の一部を貸してくれるって言ってくれたんだ」


 コンちゃんはシフォンさんに家をくれた。そこはすごく居心地が良くて、素敵な場所だった。それに、食べ物もくれた。シフォンさんはソーダさんに頼りきりにならなくても良くなった。安心できる家と、美味しい食べ物がある暮らし……それはすっごく魅力的だろうね。シフォンさんはコンちゃんに感謝した。当然だよね。


「クォンペントゥスは優しかった。私は、何か、恩返しがしたくて……。いけないことだとはわかってた、でも、拒否できなくて……」

「それって……」

「子どもができたとき、私はシャーベに謝りに行った。でも、彼女は、私を見てもくれなかった……。今も、触れることすら許されない。ひたすら謝ることしかできない」

「…………」

「ううん。今はもう、謝ることもできないんだ。シャーベは、自分自身を凍らせてしまって、海の向こうの氷の島で眠っているから。それでも私は、たまにシャーベの島まで行って謝ってるんだよ。ずっと、ね……」


 お、重い……!

 話が重すぎる! 不倫って良くないなって改めて思いました!


 っていうかコンちゃん! 何してんだアイツ!

 見返りに体とか、オジサンの読むような漫画じゃないんだからさぁ!


「事情は、わかったけど……その話を聞いて、わたし、どうすればいいの?」

「ああ……。つまりね、この世界の物はすべて、誰かの精霊の管轄なんだよ。アスナがなる予定の精霊は、植物を司るものだから、クォンペントゥスかシャーベに願えば、精霊化を止めることができるはずだよ」

「そうなんだ! ありがとう、シフォンさん!」

「……さっきから気になってたんだけど、その、シフォンさんって、なに?」

「あ。ごめんなさい、ジーフォンさんって名前、言いにくくって。つい、知ってる物の名前で呼んじゃった」

「……いいけど。カロンがマカロンで、ソダールがソーダ? クッキーって、お菓子の名前だよね? もしかして、食べ物の名前で私たちを呼んでるの?」

「あはは……そうです」


 やっぱり、失礼だったかなぁ。精霊って、神様みたいなものなんだよね。


「シフォンって、なに?」

「ええっと、シフォンケーキのこと。ふわふわで甘くて、わたしは大好き」

「……そっか。それなら、私のことはシフォンでいいよ。そんな可愛らしい名前、わたしにはぜんぜん、似合わないけど」

「そんなことないよ。髪形変えて、明るい色の服を着たらいいじゃない。そんな風に言う前に、まずはやってみたらいいのに! 明るい色を身につけたら、気分も変わるかもしれないよ?」

「だって、そんなの、シャーベに悪い……」

「ちょっとちょっと、それは聞き捨てならないわ。不倫したのは悪いことかもしれないけど、それってシフォンさんだけの責任じゃないでしょ? それに、悪かったって反省することと、綺麗なものから遠ざかることは違うよ! そんな風にいじけてるのをシャーベットさんのせいにするのだけは間違ってる。向こうだっていい迷惑だよ」


 シフォンさんがごわごわのモップみたいな髪の毛の向こうで目を丸くしてる。

 お婆ちゃんだとばっかり思ってたけど、こうして見ると、もっと若いのかもしれない。だいたい、精霊なんだから見た目と年齢は関係ないはずだもんね。ほら、三歳児にしか見えない子たちもいるわけだしさ。


「アスナって……」

「え?」

「アスナって強いんだね」


 強いかな? でも、強くなりたいよ。

 泣かずにいられるように。


 とりあえず、今のままでもコンちゃんをぶん殴ることはできるよ。強さとか関係なくね!

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