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わたし、異世界でも女子高生やってます  作者: 小織 舞(こおり まい)
ルート:アイスシューク
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マカロンさんの大切な話

 マカロンさんから大切な話があるらしい。それは、わたしにとって、とても重要なこと……。


 なのに、アイスくんたちはお皿に盛られたクッキーをむしゃむしゃしている。わたしはそれどころじゃないっていうのに〜〜。


「えっと、それで、大事な話って?」

「そう、だな。まわりくどい話はやめよう、わかりやすく、端的に、要点だけを伝えねば」

「うん……」

「アスナ、お前はこのままではやがて、人間ではいられなくなる」

「えっ」


 人間ではいられなくなる、って……? どういうこと?


「アスナがやってきたとき、その大きすぎる魔力に世界が震えた。今、そのほとんどはシャリアディースによって吸い取られ、アスナ自身にはほんの僅かな魔力しか残されていない」


 それは、知ってる。

 ステータスで確認したもん。

 でも、


「だが、魔力というものは自然と杯に満たされていく水のようなもの。いずれは満ちて、元の姿を取り戻す。そして、そのときが……アスナ、お前が人間としての殻を破り精霊としてこの地に君臨するときなのだ」

「精霊……? 君臨、って?」

「お前の魔力量は飛び抜けて多い。そして、この世界の誰よりも強い。アスナが精霊になるとき、それはお前がこの世界の頂点に立つことになるときだ」

「そんなこと、言われても……」


 わたしの魔力は今、たったの1パーセントしかない。それはギースレイヴンに行ったせいもあるし、結界が消えてジルヴェストの国から魔力が無くなってしまったせいも、あるかもしれない。そんなわけだから、今すぐ精霊になっちゃったりはしないはずだ。でも、魔力はいつか回復してMAXになっちゃう。


 人間のはずのわたしが、どうして精霊になってしまうのか……その理屈はわかんないけど、わたしから言えることはひとつだよ。


「わたし、精霊になんかなりたくない。わたしの魔力はまだまだ空っぽに近いから、すぐにそんなことにはならないかもしれないけど……どうすれば精霊にならずに済むかな? 魔力をどこかに捨てたりできない?」


 魔力がコップに溜まっていく水みたいなものだとしたら、水がいっぱいになる前に捨ててしまえばいいんじゃないかな。そう言うと、マカロンさんは「ふむ」と頷いた。


「魔力を捨てる方法については、他の精霊に聞いてみるとしよう」

「マカロンさんには何ともできないってこと?」

「そうだ。管轄が違うからな」


 そうなんだ……。

 担当者とかいるんだね、こういうことにも。


 結局、何の解決にもならなかったなぁ。不安はあるけど、まだ大丈夫って気持ちもある。何て言っても、わたしの魔力ってば、この世界に来てからほっとんど増えてないもんね~! あと99パーセント余裕があると思えば、そんなに怖がることもない!


 そう思ったら、今まで食べる気になれなかったクッキーにも手が伸びる~。と、そこへクッキーくんの顔がにゅっと割り込んできた。


「わっ!?」

「アスナちゃんアスナちゃん!」

「なぁに……?」

「魔力ね、誰かにあげることもできるんだよ? 知ってた?」

「知らなかった……」


 魔力を誰かにあげる? 捨てることができるなら、譲ることもできるってこと?


「やり方、教えてあげるよ~。知っといたら、役に立つかもしれないでしょ~?」

「まあ、そうだよね。教えて、クッキーくん」

「あのね、唇と唇をくっつけて、ちゅ~するの! 簡単でしょ?」

「…………」


 わたしは思わずマカロンさんを見た。……目を逸らされた。


「アイスくん……」


 アイスくんもそっと横を向いた。耳、赤くなってる……。意識、しちゃうよね、そりゃ。わたしだって、ちょっと……顔が熱くなってきちゃったし……。


「アスナちゃん、お顔赤いよ? 大丈夫?」

「だ、だいじょうぶ……」


 ホントは大丈夫じゃないケドね!


「魔力がいっぱいになって、あふれそうになったら、アイスにちゅ〜するといいよっ!」

「う……し、しない、よ……」

「なんで?」


 本当に「どうして?」って表情で、クッキーくんがわたしの顔を覗き込んでくる。


「なんでって……、それって、つまり、つまり、キスってことじゃない。恥ずかしいの!」

「キスが?」

「そうだよ!」


 もうっ、なんでこんな当たり前のこと、いちいち言わなきゃいけないの〜〜!


「ちゅ〜ってするだけだよ? なんでそれが恥ずかしいの? キスって、恥ずかしいことなの?」

「違っ、それは……。あのね、キスはね、恥ずかしいことじゃないの。大切なひととするものなの。特に、唇と唇を合わせてするキスは、家族や友達とじゃなくて、もっと特別な……好きなひととするんだよ」

「へ〜! そういう意味があるんだね」

「だからね、その、誰かを特別に好きになるっていうの……わたしはね、恥ずかしくて、あんまり言いたくないの。特別だから、黙っておきたいの。そういう気持ち、わかる……? それに、初めてのキスもね、特別だから……。わたしは、ファーストキスを大事にしたい……」

「初めてのキス?」

「そうだよ、初めての……!」


 わたしは今度こそ恥ずかしさで何も言えなくなっちゃった。

 こんなことを改めて言うのすら恥ずかしかったのに、何度も何度も、キスの話題なんて無理だよぉ!


「も〜、この話やめよう? もうやだぁ! とにかくダメなの!」

「いいじゃん! ボク、もっと聞きたいな、アスナちゃんのこと〜」


 ぐいぐい来るな、この子……。

 と思ったら、いつの間にかマカロンさんもアイスくんも、興味津々でこっちを見てるし……!


「ね、ね、アスナちゃんのファーストキス、誰にあげたいの? それとも、もう誰かにあげちゃった?」

「あげてない!」

「えっ。でも……」


 アイスくんが驚いたような声を上げる。

 でも、って……、最初に魔力がなくなりそうになったとき、アイスくんはいなかったじゃない!


「ドーナツさんが来たとき、アイスくんはすぐにいなくなっちゃってたじゃない。あ、ドーナツさんっていうのは、あのときの騎士さんね。結局、最初に魔力がなくなっちゃったときは、ドーナツさんがマナの実をくれたおかげで、誰ともキスせずに済んだの」

「マナの実……。あれで回復する魔力なんて、ほんのちょっとだよね」

「うん。でも、ほんのちょっとでも良かったみたい。もう大丈夫って言われたとき、ホッとしちゃった」

「そう、なんだ……。今まで、誰ともキスしたことないの? お付き合いしたひととかは?」

「いないよ。だって、そういうの、まだ早いと思ってたし……」

「へぇ。そうなんだ」


 アイスくんてば、そんなに笑うことないのに!

 ……なんか変な話題になっちゃったな。

 精霊になるのを防ぐ話は、結局また今度になっちゃったし、火の精霊さんに会ったらもう帰ろう。


 そんなとき、急にドクンッと心臓が跳ねた。


「あっ……」


 頭の中心がじんわり痺れて、視界の端っこがだんだん暗くなっていく。この、感じは……


「アスナさん、大丈夫? これは、魔力酔いかな……。ちょっと待ってて、ベッドを整えてくる」

「行かないで!」


 わたしは必死で手を伸ばしていた。


「怖いの、ひとりにしないで! 側にいて……お願い……」

「アスナさん……」


 真っ暗になっていく。落ちていく感じ……引きずり込まれて、溺れそうで……。怖い……。


「大丈夫だからね。僕は、ここにいるよ」


 わたしは返事の代わりに小さく頷いた。怖くて……何だかとても怖くて、子どもみたいに泣きながらアイスくんにしがみついていた。頭が、グルグル、する……。

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