わたし、異世界でも女子高生になります?
「やだって言ってるじゃん! なんでそんなに意地悪なのよ!」
「ディースが決めたことだ、それに従えば国は上手く回る!」
「そこにアンタの意思はないわけ!?」
「ある! オレの望みは国を守ることだからな! それと……お前自身にも興味がわいた」
透き通ったブルーの目がじっとわたしをのぞき込んでくる。
すかしたチャラ男め。
「なによ」
「最初は顔がちょっと可愛いだけのただの小娘かと思ったが、お前は実にハッキリした意志を持っているな、アスナ。オレになびかない女は久しぶりだぞ」
「…………」
「お前は面白い。側に置いて、オレに惚れさせるのも一興だと思ってな」
「なに言ってんだコイツ」
「おい!?」
おおっと、また声に出してたや~。
「おあいにく様! タイプじゃないって言ったでしょ」
「フン、逃げるのか?」
……なんですと?
「逃げる? そりゃあ結婚からは逃げたいわよ、こんな若さで好きでもない相手と結婚なんてしたくないもの」
「じゃあ図書室の本はどうする。諦めるのか?」
「それは……! でも、結婚……けっこん~~」
わたしは頭を抱えた。
いきなり知らない場所へ投げ出されて、頼る人もいない状態。そこへ衣食住を保障してくれて、しかも帰るための手がかりも探させてくれるって言う……でも、でも!!!
「帰る手段を探すのなら、他のやり方もあるぞ」
「あるの!?」
「ああ。魔法やそういう技術については、我が王立学園の講師陣が研究している。もしも魔法を極めて元いた場所に戻りたいというのなら、そこに入学して勉強することだ!」
「うぐぐ……」
ジャムがどういうつもりか、全然わからないけど、話に乗っておいて損はない! と、思う。
いざとなったら逃げよう。うん。
「それしか、ないかぁ~! わかった、わたし、入学する!」
「素直だな、アスナ」
「まぁ、ね。ジャムこそ、引き留めないんだ」
「嫌がる女をどうこうする趣味はない。存分に勉強に励めよ」
「ありがとう、ジャム」
「………………」
「………………」
わたしとジャムは見つめあった。
「裏がある! 絶対に裏がある!!」
「あるぞ! あるに決まっているだろ!」
あるんかい!!!
前髪をかき上げてキメ顔するのやめなさい!
「ちょっと怖い、なんなの!? 何が目的!?」
「フッ、王立学園はなにを隠そう、花嫁育成機関なのだ! そこに通うのは女子だけ、卒業と同時にみな結婚式を挙げるのだ!」
「な、な、なにそれ~~!?」
「つまり! アスナ、お前が卒業までに自分で帰る手段を見つけられなかった場合、今度こそお前はオレの花嫁となるのだ!!」
「え~~~っ!!!」
「嫌そうにするな」
「え~…………」
「おい?」
拗ねたように口をへの字にするジャムは、ちょっとだけ可愛かった。
「どうしよっかなぁ~」
「全寮制だぞ。衣、食、住のすべてが支給され、それとは別に小遣いも渡す。不服はないだろ?」
「……期限は」
「三年だ」
「やっぱ入学するのやめて……バイトして暮らそうかな」
「住民票どころか戸籍もないお前を、誰が雇ってくれる? 保証人もいないだろ」
うへ~~。
伝手も何も無い状態で働く無謀さは現代日本となんら変わりないってことね。
「世知辛い……」
「週に一度、オレの顔を見に城に来い。そうしたら小遣いをやる。これで決まりだな!」
「……なんで」
「ん?」
「なんでそこまで、良くしてくれるの?」
「言ったろ、お前を振り向かせるのも一興だと。さあ、夜も遅い、さっさと寝ろ、アスナ。……なんなら、今からオレのベッドに来るか?」
ジャムがふいに近づいて、わたしの前髪を指で払うので、心臓がビックリした。
「……っ、ばか!!」
「いてっ」
わたしはジャムの肩をグーで叩いて、急いで部屋から逃げ出した。楽しそうな笑い声が聞こえる。……もう、腹が立つ、ジャムのくせに!!
こうしてわたしの長い長い一日目は終わっていったのだった。




