あなたがキョウ?
2話続けて投稿しています。
順番にお気をつけください。こちらノーマルルート、最終話です。
暗い……。
いつの間にか夜になっていた。
そこはだだっ広い草原で、上に星空、下には蛍、真っ暗なのに灯りが届いてるっていう不思議な場所だ。わたしはどんどん進んでいった。そして、人影を見つけた。
女の子だ。……わたしと同じ制服。
右端に結んだワンサイドポニーテール、星の柄がついたシュシュ。わたしと同じ、髪の色。
「あなたが、キョウ?」
わたしの声に振り向いたのは、確かにわたし自身だった……。
『ようこそ、アスナ。異世界の少女。いかにも、わたしはキョウ、今は貴女の姿を借りているよ』
「声まで同じだなんて……」
『ビックリした?』
そりゃそうでしょ!
まるで鏡の前にいるみたい。変な感じ……。
「わたしを、元いた世界に送り返してくれるって聞いたんだけど……」
『うん、まぁね。わたしにできるのはそのポイントまで案内することだけ。帰るときはアスナの魔力で帰るんだよ? 魔力は充分ある?』
「あるよ。わたし、魔法なんて使えないから溜まる一方だし、それに、あふれた魔力でできた花びらもちゃんと持ってきたから」
『うんうん、いいね。じゃ、ちょっとお話しよっか。このままバイバイもなんか味気ないじゃない?』
目の前にいるわたし――時の精霊キョウの言葉にわたしは迷いながら頷いた。帰りたい気持ちに水を差されたのはあるけど、確かに彼女?のこと何も知らないままサヨナラは薄情かなって。
「そこ、座ってもいい?」
『もちろん!』
わたしたちは暗い草原に体育座りになった。蛍みたいな光がふわふわ空に上っていく不思議な光景を見ながら、わたしはキョウと何を話したらいいのか迷っていた。
「えっと……わたし、アスナっていうの。わたしのことは、マカロンさんから聞いてる? わたしはキョウのこと、何も教えてもらってなかったから、何も知らないの。お話って、どうしたらいいのかな? キョウはどうしてわたしと同じ格好をしてるの? 色々聞いてもいい?」
『あははは、マカロンって! いいよいいよ、何でも聞いてよ。わたしもアスナに聞きたいことあるし』
いや、だって、マカロンさんの名前って難しいんだもん。本名なんてメモを見ないと思い出せもしないよ。
『そうそう、わたしがアスナの姿をしているのはね、わたしが人間をやめたからだよ。わたしは星を見るのが好きで、星の軌道を計測してた。ずっとひとりで。そしてある日、力尽きちゃってね……』
「キョウ……」
ひとりぼっちで、死んじゃったってこと?
そんなのって……
『幸せだった! そこには空と星しかなかった! すっごく興奮した!』
「…………」
かわいそうではなかったみたい。本人が満足ならそれでいいや。
でも、わたしの顔と声でそれはやめて。
『そんなわけで、精霊としてのわたしの姿は鏡なの。だから名前もキョウ。アスナのことはマカロン…ふふっ、彼から聞いてるよ。でも、本当に帰っちゃうの? せっかく皆と仲良くなったのに。アスナが好きって言えば、なびく男の子いっぱいいるでしょ? 上手くやれば全員手に入れられるかもしれないのに、もったいなくない?』
「もったいなくはないよ。皆いいひとだけど、わたしは恋愛よりも家族が大事だし、全員とか何それ、逆ハーレム? 興味ないもん、そんなの」
『そっか、残念』
残念~、じゃないって。何でしれっと逆ハー勧めてきてんのこの精霊。
それから、わたしたちは好きなお菓子の話をしたり、他の精霊についての話をした。それに、わたしがこの世界で何をして、何をしてこなったのか。将来の夢も……。
「わたし、帰ったらきっと、もっと自分の人生を大事に生きるんだ。家族も友だちも、側にいるのが当たり前じゃないって気づいたから。それで、もっとたくさん勉強するの。大事なひとを助けられるようにね」
『アスナは大人だね~』
「わたしより小さい子が頑張ってるからね。そういう子の手助けがしたいんだ……」
わたしはクリームくんのことを頭に思い描いていた。
助けてあげたかったのに、わたしには、その覚悟がなかった。今だって、引き返したい気持ちがないわけじゃない。でも、でも……。じんわりと涙で視界が滲む。
『帰りたいんだね』
「うん……! お母さんと、お父さんに、会いたい……!」
『じゃあ、もう引き止められないね。扉を開くよ。ちゃんと帰りたい場所を、思い描いて』
「わたし、帰れるの?」
『うん。もうどこにも行かなくていい、ここから帰れるよ。時間は少しズレるかもしれない、そればっかりはしょうがない。許してくれる?』
「もちろん! 早く帰らせて!」
『じゃあ、花びらちょうだい。そして、わたしの手を握って。魔力を手渡しするイメージをして』
「うん」
わたしたちは座ったまま、向かい合って手を握った。
魔力を手渡しするイメージ……うまくいってるかな?
『いいよ。その調子。グラグラするから目を閉じてたほうがいいよ』
「えっ、もう遅いよっ」
まるでプラネタリウムの銀河みたいな、光る星の渦がわたしたちの周りを回っていた。眩しさと、飲み込まれそうな感覚……わたしは思わず目をつむっていた。
『さよなら、アスナ』
「キョウ!」
『落っこちてきたのがアスナでよかった。お話できて、楽しかったよ、アスナ! バイバイ!』
「キョウ! ありがとう! 本当に……!」
ありがとう!
届いたかどうかはわからない。でも、わたしのこと、帰してくれて、親切にしてくれて……ありがとうね!
目を開くと、自分の靴と見慣れたレンガ道。
わたしは鞄をギュッと抱いて立っていた。
キョロキョロと辺りを見回すと、懐かしい景色。慌ててスマホを取り出してみると、わたしがあの世界に飛ばされたのと同じ日の、同じ時間だった。
「夢……?」
ううん、夢じゃない!
鞄の他に抱えてるものは、キャンディたちから貰ったプレゼントだもん!
「……!」
わたしはクルッと向きを変えて、来た道を走った。
家へ、帰らなくちゃ!
走って、角を曲がって、家の玄関がもうすぐ見えてくる。
門のところには仕事に出かけようとしてるお父さん、それを見送るお母さん。ああ、わたし、本当に帰ってきたんだ!
「明日菜……?」
「ただいま!」
「ぐえっ!?」
わたしはお父さんに体当りして叫んだ。
ふたりともビックリした顔をしてて、わたしは笑いが止まらなかった。ようやく帰ってこられた……!
「どうしたの、急に」
「なんでもない! ちょっと、友だちとお別れしてきただけ! 学校にも行くよ!」
わたしが大荷物を見せると、ふたりとも頷いて笑ってくれた。
キャンディ、皆! わたし、普通の女子高生に戻ります!
ノーマルルートエンド!
『そして明日へ!』




