ドギマギさせないでっ!?
皆、黙り込んじゃった。
わたし、拐われたことや、その犯人がアイスくんだってこと、皆に伝える気はないんだよね。わたしはもう許してるし、それに、ギースレイヴンに行ったことで色んなことがわかったから。
そりゃ、確かに危険な目に合ったし、帰ってこられたこともラッキーの連続でしかないことはわかってるんだよ? けどね、もしもギースレイヴンに行ってなかったら、わたしの魔力ってきっとここまで回復してない。この土地は、ちょっと特別なのかもしれないね。
わたしは皆を見回して、言葉を選んだ。
「心配かけてごめんなさい。書置きとかできればよかったんだけど、時間がなかったの。……あのね、わたしってば、このままじゃ、魔力が強すぎて精霊と同じ存在になるって言われちゃったの」
わたしの言葉に、キャンディ以外の三人が驚いた。誰かが何かを言う前に、重ねて説明する。
「でもね! 色々あって、水の精霊シャーベットさんに、それは防いでもらったから今はもう心配ないの。それと、わたし、自分の世界に帰れるようになったみたい……。みたいっていうのは、わたしが帰る手段を知ってる精霊に出会ったからで、協力してくれることになったんだけどまだハッキリわからなくて……。だからね、今日は、お別れを言うつもりでここに来たの。わたし、元の世界に、帰ります」
わたしは、不安な気持ちになりながら返事を待った。急にこんなこと言い出して、信じてもらえないんじゃないか、薄情なんじゃないかって……急にそう思えてきちゃって。ジャムたちと目を合わせるのが怖くてうつむいてしまった。
そんな中、最初に言葉をかけてくれたのは、ドーナツさんだった。
「良かったじゃないか! 家に帰れるんだろう? ちゃんと方法、見つけられたんだな!」
「オルさん……」
「そうですね。私も、そう思います。アスナさんが無事に元の世界に帰れそうで安心しましたよ。結局、私たちは何もお手伝いできませんでしたが、せめてお見送りさせてくださいね」
「先生……」
ドーナツさんに続けて、エクレア先生も微笑みながらそう言ってくれた。
嬉しい……ホッとして涙腺が緩んじゃうよ。
キャンディはニコニコしているし、ドーナツさんはわたしの頭を撫でてグシャグシャにするし、エクレア先生は笑いながらそれを注意したりして。そんな中、ジャムだけが黙って紅茶を飲んでいた。
「ジャム……」
「いつ?」
「えっ」
「いつ、ここを発つんだ?」
まるで旅行に行く日を聞いてくるみたいなノリでジャムは言った。
……わたし、これでも一応、最後のお別れのつもりで来たんだけどな。だってジャムは王様なワケだし、「見送りにきて」なんて軽々しく言えないじゃない?
なのにさ、こんなアッサリ流されると、ちょっと。悲しいって言うか、寂しいって言うか……。
「お兄様、私、アスナのお見送り会を学園の皆様と一緒に開催する予定ですの。ですから、少なくともその後になるかと思いますわ」
「そうか」
返事をしないわたしの代わりに、キャンディが答えてくれた。でも、それに対するジャムの言葉はやっぱりそっけないものに感じた。そりゃ確かに、結婚の話は断っちゃったし、この世界には残らないけどさ……友だちだと思ってたのって、わたしだけだったのかなぁ。
そう考えていると、ジャムが立ち上がってわたしの目の前まで来た。
「アスナ、よくここまで頑張ったな。アスナが帰れることになって、オレも嬉しい」
「……ホント?」
「もちろん! 残念じゃないといえば嘘になるが、アスナが帰りたがっていたのはよく知っている。だから、本当に、よかったな」
「ジャム……」
「それにしても早かったな。一ヶ月しか経ってないぞ。これは早すぎるくらいだ。もう少し時間があれば、結果は違っていたかもしれないな」
「どういうこと? 結果って?」
ジャムはその場に跪いてわたしの手を取った。あっ、なんかこの流れ……?
「三年あれば……」
ジャムの青い目がわたしを見つめる。
「アスナ、オレはお前を完全に惚れさせていた」
「!」
ま、真顔で何言ってるかな、コイツは!
もう、顔が熱い……。
「フッ、今でも実はまんざらでもないんだろ?」
「バカ言わないで。わたしの好みで言えば、ジャムより、ジャムのお父さんのほうが素敵なんだからねっ」
「ま、そういう所がアスナだよな」
ジャムは立ち上がると、両手を上げて肩をすくめた。ムカツク。
「学園の送別会には参加できないが、見送りには行くぞ。それに、城でもささやかながらパーティーを開こうと思っている。後で招待状を届けるからな。あ、あと、ドレスはオレが選んでおくから早めに来いよ」
「なんじゃそりゃ」
コイツはいったい何回わたしにドレスを着せれば気が済むのか……。
「いいな?」
「いいけど……」
どうしてか、素直に「ありがとう」って言えない状況だ。もしかしてわざとなの?
わたしが気を使わないように?
「よし、決まりだ。さて、どんな衣装にしてやろうかな。楽しみだ!」
気のせいかも。
っていうか、皆苦笑いしてるよ、ジャム!
お茶会というか説明会と言うか、情報交換はその後もずっと続いて、けっこう疲れちゃった。録音されてるっていうのに、お構いなしに話が脇に逸れるし、ふざけだしちゃうし!
でも、楽しかったな。
もうすぐお別れと思うと、寂しくなっちゃう。
◎ジャム
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【名前】ジェム・オースティアン
【性別】男
【年齢】17
【所属】ジルヴェスト国
【職業】国王
【適性】女たらし
【技能】◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】オレサマ・ナルシスト
【備考】
☆ ☆ ★
☆『望まない結婚を強いられておりアスナを身代わりにした』
☆『国内の魔力を賄っているため自身は日中、魔法を使えない』
★
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◎ドーナツさん
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【名前】オールィド・ドゥーンナッツ
【性別】男
【年齢】20
【所属】ジルヴェスト国
【職業】宮廷騎士(若枝)
【適性】狂戦士
【技能】馬術・剣術・◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】犬
【備考】ジャムの味方・精霊を呼び寄せる剣?
☆ ★ ★
☆『五年前に父親が先王と共に旅先で消息を絶った』
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◎エクレア先生
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【名前】アルクレオ・ギズヴァイン
【性別】男
【年齢】18
【所属】ジルヴェスト国
【職業】宮廷規律師範
【適性】教師
【技能】◆この項目は隠蔽されています◆
【属性】真面目
【備考】結界のことを知らなかった・双子の弟(カーリー先生)がいる
★ ★ ★
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