転生生活 魔法都市への道 死体の道
「で、この死体はどうするんですか?」
「死人の装備品は全てダンジョン組合の所有物となる」
「ダンジョン組合って」
「ああ、さっきのお金を取って委任状にサインをさせるのがダンジョン組合だ」
「何をしてる組合なんですか?」
「ダンジョンの維持管理だ。
この町のダンジョンは天然ダンジョンだからな」
ダンジョンに天然とかあるんだ。
「因みに、フレアが入った師匠の洞窟はあれは師匠が造ったものだ」
「やっぱりそうだったんですか」
「知ってたのか?」
「いえ、けれどそういうふうな事をマリコさんが言っていたように思います」
今思えばという言葉を頭につけたほうが良かったかな?
「そう言えばなぜ死ぬとその人の装備品は、ダンジョン組合のものになるのですか?」
「委任状にそう書いてるからだ。
委任状には死亡時に装備品の類はダンジョン組合に渡すという内容が書かれていた」
「そんな物を確認させずにサインさせたんですか!?」
「まあ、どちらにせよサインするものなら読んだって仕方がないだろう?
何より、兄弟子が言うんだから間違いはない」
そんなことはないとは思うけど、委任状にサインしなければダンジョンには入れないんだろう。
「因みに委任状の死亡時の装備品がダンジョン組合のものになると言ったが、それはあくまでダンジョンを維持するためのもので組合が得することはない」
「何故です?」
「委任状はあくまで迷族対策の一環だからだ」
「迷族?」
「ああ、迷宮の盗賊略して迷族だ。
まあ、海賊のダンジョンバージョンとでも言えば間違いはない」
「対策になってるんですか?」
「少なくともダンジョンで死体をあさっているやつを見たら迷族確定なのだが、それだけで対策できるほど人は馬鹿じゃないからな。
対策と言う意味では多大な影響を与えているわけじゃない。
ただ、もう一つ非公式な理由もある」
「それは」
「秘密だ」
「えー」
思わせぶりなことを秘密とかないでしょ。
「知らないほうがいい知識って言うのが世の中にはあるんだ。
まあ、ダンジョンをこれからも利用するならそのうち知ることになるさ」
クーデルさんはそう言って肩を竦めた。
とても気になるが、前世で言う知らぬが仏って奴だろうか?
とても気になるが知らないほうがいいって言うのを信じて我慢しよう。
「さて、先に進もうか。
このダンジョンは魔物を放って置けばいずれなくなるからな」
ここまで来るまでに体の一部がなくなっていた魔物を思い出す。
掃除役みたいな存在がいるのだろうか?
「まあ、なくなる理由も知らないほうがいいことの一つだな」
そう言ってクーデルさんは歩き始めた。
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「全く、運が悪いな」
クーデルさんはつぶやく、
さすがに魔物の死体の跡を追っていっても魔物が出てくる気配が無い。
まるで魔物が魔物の死体の道を避けるかのように一度も会わないのだ。
「いくら魔物が倒されているとはいえ一度も遭遇しないのはさすがにおかしい」
あれから何度かこの洞窟に他の人を見かけたが皆、険しい顔をしていた。
勿論、斬り殺されている人はいなかった。
「これは、何か理由があるな」
「何かって?」
「ぱっと考えられるのは二つ、一つは、魔物自体出現しないようにする」
「出来るんですか?」
「ああ、ただし反動があるため国によって禁止されている。
場合によっては死刑になる程の方法だ」
なにそれ怖い。
「はあ、もう一つは?」
「もう一つは、魔物を呼び寄せているってところか」
「呼び寄せる?」
「そうだ、ただ、呼び寄せると言っても何かの道具を使っている場合とそういう体質の人がいると言うこともある。
前者は、たいていの国は規制しているし後者は、まあ、外に出ないことを推奨される。
とりわけこんな閉鎖空間では危険が尋常ではない」
あの青年で間違いないだろうけど、何が目的なんだろうか?
魔石集め?
「何にせよ。
コレはそれなりに奥まで進まないと魔石を確保できなさそうだな」
クーデルさんは、そう言って眉間にしわを寄せた。
「そう言えばダンジョンの魔物ってどっから湧いているんですか?」
「それは俺も知らない。
ダンジョン組合のお偉いさんなら知っていても不思議はないが、まあ、知らない方がいい。
組合の機密ってのは何処も人の命より重いからな」
「そうですか」
ああ、結局よくわからない事が多いなあ。
とか思っているとダンジョンの奥から耳障りの悪い叫び声が聞こえた。
「ゴブリン?」
「そうだろうな、ようやく追いついたか」
クーデルさんは洞窟の奥を見て言います。
確かに小さな人影のようなものが固まっています。
全員一方向に集中してこちらに気づかないようです。
ゴブリン垣の間からっわずかに見えた人は、喧嘩で勝った青年とそれに付き添っていた少女でした。
「ゴブリンたちの真ん中に喧嘩で勝った人がいます」
「そいつが魔物を寄せ付ける体質だったか?」
「もう一人少女がいるのでわかりません」
「そうか」
さて、助太刀に入るか否か。
少なくとも僕が使う魔法では援護に適さない。
「まあ、助けに入る必要はないが魔物を独占しているってのはいただけない。
これほど強い魔物誘引体質ってのも珍しいが、それを利用するとは肝が太いというかなんというか」
「なにかまずいのですか?」
「いや、過去に魔物誘引で似たようなことをしたやつが魔物にボコられて死んでるからな。
危険をわざわざ犯してまで稼ぎたいんだろうか?」
ダンジョン自体危険なものなのに更に危険を呼び寄せるような事をしているのだ。
正気を疑っていいレベルだけど
「しかし、強いな」
ゴブリン垣の間から見える戦い方はまるで舞でも舞っているかのようにひらひらとゴブリンの攻撃を躱し致命傷となる一撃を与えて仕留めている。
一斉にかかれば少女も攻撃できるというのに何故かゴブリン達は一匹ずつ仕掛けている。
「スキルを使っているな」
「スキルですか?」
「ああ、【狂戦士の咆哮】が戦士のスキルってことは言っただろう?」
「はい」
そう言えば喧嘩の時に言っていたな。
「戦士以外にも幾つか職業的スキルが有る。
盗賊なら【凶撃】
弓士なら【狙撃】
と言ったように、それぞれスキルが有るんだ」
「魔法士にはありませんよ?」
「いや、魔法士の場合魔法そのものがスキルなんだ。
だが、派生が多いスキルという意味では他の職業的スキルとはかけ離れているのは確かだ」
そうだったのか。
「で、あいつが使っているのは敵の動きを限定する何かだ」
「何かわからないんですか?」
「ああ、俺が知らないスキルなんてこの世にいくらでもあるからな」
「そうですか」
そんなことを話していると一匹のゴブリンがこちらに気がついた。
『ゲギャアア!』
そして、声を上げると他のゴブリンたちもこちらに気がつく。
「おっと気づかれたようだ」
なんとも悠長な感じでいうクーデルさんだが、僕には突っ込めない。
僕も悠長にクーデルさんと話してたし。
「まあ、これでこちらに権利が回ってきたわけだ。
魔石を確保したら帰るか」
そう言ってクーデルさんは【銃剣フリード】を構える。
僕は、光の魔法陣を展開する。
さて、どうやって攻撃しようか。
拙作をご覧いただきありがとうございます。
ストックが一向に溜まってくれない。