転生生活 魔法都市への道 ダンジョン町
結局雨が上がり行動ができるようになったのは翌日だった。
一夜を共にしたことで商人と若干程度の交流があった。
彼の出身地であるゴーレム都市ハーヴェストのことを聞いたりペンドラゴン領の事を話したりした。
夜はクーデルさんとアルヴァンスさんが見張りを交代で行った。
僕も見張りに立つといったがアルヴァンスさんに止められた。
「こんな状態で言うのも卑怯かもしれないが子供はしっかり寝ておけ」
とのことだった。
ちょっと冒険者らしい行動に憧れがあったけれど、そこは我慢することにした。
変に起きていて迷惑かけるわけにもいかないということもあったので断念したのだ。
商人の人は白い玉(大きさ的には前世の知識に照らし合わせればバスケットボールより一回り大きい物)を持ち出した。
白い玉は商人が弄ると宙に浮かんだ。
「それは何です?」
僕が好奇心をランランと光らせて商人に尋ねた。
「これは、そうですな。
私に近づくものを自動的に攻撃して追い払ってくれるものです。
もし弓矢とかで攻撃してきても守ってくれる優れものですな。
ああ、コレは絶対に売れ無いものですのでご了承下さい」
「はい」
どうやら商人が一人で旅ができる理由のようだった。
その玉をどうして手に入れたとかそういったことは教えてくれないだろうし、売るほどあるのであれば高額で貴族に売っているだろう。
というわけで一夜が開け翌日、商人と別れることになった。
「では私は向こう側ですので失礼いたします」
商人は、恭しく挨拶した後、僕らが来た方向に歩いて行く。
どうやらペンドラゴン領に用事があるのは本当のようだ。
「じゃあ、また縁があれば」
「ええ」
「道中気をつけてペンドラゴン領まで無事ついてくれよ」
「勿論です」
「ばいばーい!」
「はい、またのご利用を祈っております」
そうして商人と別れ僕達は旅路に戻る。
と言ってもすぐに次の町に着いたのだけどね。
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その町は宿場町よりやや大きめの町だった。
宿場町と違い、門番らしき人がいた。
門というほどのものは無いけど、入り口を制限するように柵が張り巡らされているのに気がつく。
都市と言う程ではないが、それでも人が多く感じられるのは気のせいではないだろう。
「この町は人が多いですね」
「ん? フレアは知らないのか?」
「え?」
「この町はダンジョンが近くにあるからそれを目当てに来る人が多いんだ」
それを聞いて納得した。
短い魔法学校生活の中で聞いたダンジョンの話を思い出したからだ。
ダンジョンというのは一種の魔力溜まりで魔物と呼ばれるものが出現する場所のことを指す。
ダンジョンに現れる魔物は、魔力含有鉱石、通称魔石を体内に持っていることで有名だ。
「魔石は、ゴーレムの材料の一つだからな」
と教えてくれたのはクーデルさんだ。
僕は、魔石を使ったゴーレムを造った事はないが、クーデルさんは魔石を使ったゴーレムを造ることはできるらしい。
「もしかしてあの商人はペンドラゴン領に魔石を売りに行ったのかな?」
「そうかもな。
まあ、少なくとも俺は見たことない人だったから定期的に魔石を売りに来ているわけじゃなさそうだがな」
そんなことをクーデルさんと話していると喧騒が聞こえてきた。
「何でしょうか?」
「喧嘩っぽいな」
「着いて早々騒ぎにあうとは驚きだな」
喧騒が聞こえてきた方を見ると人だかりができていた。
人だかりのせいで馬車が先に進めない。
「おい、ちょっといいか」
アルヴァンスさんは、人だかりの一人に声を掛けた。
「なんだ?」
「この騒ぎは何か知ってるか?」
「ああ、って言っても『大斧』とどこかの誰かさんが喧嘩しているらしいぐらいしかわからんが」
「なるほど、ところで『大斧』ってここらで有名なのか?」
「なんだ、お前ココらへんに来るのは初めてか?」
「いや、来たことはあるのだが前回は通り抜けただけだったからな」
「そうか、『大斧』ってのは、クリークっていうここらで幅を利かせている冒険者の異名だ」
「アルヴァンスさん、ちょっとかたを借ります」
「お?ああ、なるほど肩に乗れば見えるかもな」
ただでさえ御者台に乗っているアルヴァンスさんの肩に乗ればそれなりの高さが出せるはずだ。
「よいしょっと。
おお! なかなかの高さ」
「で、どうなってる?」
「そうですね。
ゴリマッチョの大斧を持った人と青年のお兄さんが、人だかりの輪の中心で睨み合ってます。
あ、青年の後ろに女性が居ますね。
女性の取り合いでしょうか?」
「へえ、ところでその女性は美人か?」
「ええ、なかなかの美人だと思います」
「そうか、なら取り合いで確定だろうな。
しかし、それが分かったとは言えどうしたものか」
アルヴァンスさんの発言が終わりこれからどうするか考え込んだと同時にゴリマッチョが大きい声で叫ぶ。
『ブォオオオオオオオ』
「これは、『狂戦士の咆哮』!」
「驚きだな。
まさかこんなところで上級スキルを持つやつを見るとは」
クーデルさんが驚きの声を上げましたが、対してアルヴァンスさんは言葉とは裏腹に驚いてるようには見えません。
「『狂戦士の咆哮』?」
「ああ、魔法士のフレアにはわからないか。
『狂戦士の咆哮』は、戦士のスキル『咆哮』の上位スキルだ。
『咆哮』自体の能力はスキル使用者の能力を上昇させ周囲の注目を集めるスキルだ。
そして『狂戦士の咆哮』は、さらに相手を萎縮させる効果がある」
アルヴァンスさんが解説を聞いてふと視線を一瞬だけ下に向け、しかし直ぐに何かしら動きがあるかもしれないと思い視線を戻すといつの間にかゴリマッチョが倒れていた。
「あれ? ゴリマッチョが倒れています」
一瞬だけ目を離した隙に倒されたようだ。
「は?」
「それは本当か? フレア」
はい、と答えようとした瞬間、当たりが騒然となる。
歓声を耳にしたクーデルさんとアルヴァンスさんは、得心がいったらしく
「どうやら本当のようだな」
「今の一瞬の間が証明になっているようだな。
ふう、今日は驚きの連続だな」
と呟きました。
「ってことはそろそろ通れるようになるか」
「とんだタイミングで町についたようですね」
と二人で話している頭上で僕は、青年のお兄さんが腰に挿している武器が見えた時驚いき思わず凝視した。
あれは間違いなく刀だ。
服は素朴な服装でとても立派には見えないが、前世の知識にもある武器の存在が際立って見えた。
「おい、フレアいつまで乗っているつもりだ?」
アルヴァンスさんに言われて我に返りアルヴァンスさんの肩から降りる。
「まあ、何にせよさっさと宿を取って泊まることにしようか」
アルヴァンスさんは、人混みがまばらになると馬車をゆっくり走らせ始めた。
「さて、宿の名前はなんだっけか」
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