転生生活 魔法都市への道 ペンドラゴン領出発
魔法都市から逃げ出して早、半年は経とうとしていた。
今日は、ここに来るときに送ってくれたアルヴァンスさんが迎えに来た。
城の一回の広間にて再会したアルヴァンスさんの第一声は「驚きだぜ」でした。
フォーミュさんのおかげで牢屋から抜け出してペンドラゴン領まで逃げることができたのはよかったけれど根本的な話、僕が、魔導書盗難の容疑者という濡れ衣だけは完全に払拭出来たわけではないということが、どうしても不安を駆り立てる。
「フレアに驚きの情報があるぞ」
「何ですか?」
アルヴァンスさんは嬉しそうに言う。
「なんと、エリイが巨人のクラスに昇級したんだとよ」
「知ってる」
「驚きだぜ!」
僕の返答にアルヴァンスさんは目を見開き声を張り上げた。
それほど驚く必要はないだろうに。
「うるさいわよ」
「す、すまん、しかし、なんで知ってるんだ?」
マリコさんに窘めるられつつ尋ねてくる。
「ホンジョウ・クルトっていう少年から聞いた」
「ホンジョウ・クルトか。
なるほど、そういうことなら納得だ」
「知っているんですか」
「ああ、名前はな。
詳しくは知らん」
「そうですか。
ところで、魔導書盗難事件はどうなってるんですか?」
「全く進展なしだ」
「全く?」
「ああ、全くだ。
闇のクラス襲撃犯もわからないらしい」
表情を曇らせるアルヴァンスさん、しかし、その表情の曇り方は何故か苦虫をかみしめたような表情に見えた。
「本当に?」
そんな表情をしたアルヴァンスさんに思わず失礼な質問をしてしまった。
その質問に対してアルヴァンスさんは目を光らせて聞き返してきた。
「何が言いたい?」
「いえ、ただ、何となくわからないだけではないような気がしたから」
「ふっ、表情に出てたわよアルヴァンス」
僕の返答にマリコさんが追撃する。
「はっ、驚きだぜ。
全く、鋭い師弟だこと」
「で、何か問題があるんでしょう?」
「ああ、正直フレアをこのことに巻き込みたくはなかったんだが」
「手遅れでしょう?」
何の話をしているの?
いや、あの襲撃事件と魔導書盗難事件のことを言ってるんだろうけど。
「そうだな、がっつり巻き込まれたことだしな。
まあ、本来はフレアが戻るまでにけりをつけるつもりだったんだが」
「なるほど、手に負えなかったわけね」
「ああ」
「フォーミュも情けないわね」
「そう言うな、正直相手の大きさを舐めていた」
「そこまで大きかったかしら?」
「どうも最近力をつけてきているようでな。
最近分かったことは魔法増幅薬と関係がありそうなんだ」
「へえ」
マリコさんはさぞ面白いことを聞いたかのように口角を釣り上げる。
「まあ、一概には言えないが、その加減でかなりややこしくなっていることだけは確かだ」
「分かったわ。
つまり釣りをするわけね」
「あ、いや、そういうつもりは」
「あるんでしょう?」
視線を鋭くするマリコさんにアルヴァンスさんは両手を上げて答える。
「……そうだ、本当に驚きだな」
「ってことは私も力を貸した方がいいかしら?」
腕を組みながらマリコさんは尋ねる。
「それはありがたいんだが、いいのか?」
「ええ、丁度いいところにクーデルを魔法都市にいる人物と接触させるつもりだったし渡りに船だわ」
「誰にだ?」
「まあ、ある意味痛い人物とだけ言っておくわ」
「ふうん?」
おいてけぼり感がすごい。
えーっと結局、クーデルさんが付いてくるってことか?
あと、餌?
餌ってちょっと嫌な予感がするなあ。
何となく予想はついてるけど確定させるにはちょっと心の準備が調っていない。
まあ、必用になれば教えてくれるだろう。
「師匠、お待たせしました」
階段から降りてきたクーデルさんがそう言いながら近づいてきた。
「遅かったわね」
「ちょっとフリードのメンテに手間取りました」
「まあ、いいわ。
アルヴァンス、出発の準備はいいかしら?」
「ああ、しかし、かっこいいなその剣」
「だろう」
「はいはい、その話は道中でしなさい」
「マリコ師匠、お世話になりました」
「まあ、また機会があれば来なさい」
「はい」
マリコさんに挨拶した後、僕は自分の荷物を持って馬車に向かう。
「じゃあ、師匠行ってきます」
「しっかり手紙を渡すんだよ」
「はい」
「アルヴァンス、よろしくね」
「もちろん」
そうして僕は、ペンドラゴン領から出発した。
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